hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

「量子の世界」を読む

2007年03月29日 | 読書

小山勝二、川合光、佐々木節、前野悦輝、太田耕司「量子の世界」京都大学学術出版会を読んだ。

京大の市民講座の講演をまとめたもので、難しい内容を精一杯分かりやすく説明してある。
先週、レオナルド・サスキンドの「宇宙のランドスケープ」を読んだ。この本は、最先端量子論のひも理論と、宇宙のインフレーション理論とを結びつけ、無数の種類の宇宙が無限回出現することを述べている(らしかった)。しかし、量子論、宇宙論のはじめから解説し、研究中の部分は対論を示すなど何と言っても長すぎて、集中力が続かなかった。

高度な内容を、数式をまったく使わずに文章で説明する上記のような本もあるが、私にはかえってわかりにくい。そもそも数式は言葉では冗長になる内容を簡潔に表現するためのものである。美しい簡潔な数式であれば、言葉よりもイメージをつかみやすい。この本は、講演のときに使ったOHPなのであろう、簡単な形に直した数式や、概念のイメージ図、計算結果の簡単な図を使って、高度な内容を説明していて、分かりやすい。いや、わかったような気にさせてくれる。

まえがきに、千年ほど前の藤原定家の「明月記」という日記の実物の写真がある。内容は、「1006年におおかみ座に非常に明るい星があらわれた」ことや、1054年と1181年に客星(今で言う超新星)があらわれたという記述である。場違いな本で古文書に出合えて、先日古文書解読講座を受講したばかり私は思わず見入ってしまった。千年のときを経て現在のこれらの星の爆発の残骸のX線写真が載っている。

内容は、超ひも理論、量子宇宙論、超伝導の3章よりなる。超微細な量子の世界の超ひも理論が、無限とも言える宇宙の始まりを解く鍵になっている。また、不思議で複雑な現象である超伝導も少しづつ解明されようとしている。

重力も含めた4つの力(場)の統一に成功した最先端理論である超ひも理論は、究極の基本法則に近づいているが、その内容はまだ複雑に展開したままで、基本法則の名にふさわしい美しい形にまとまっていない。基本的粒子も6つのレプトン、6つのクォークでは多すぎる。
超微細世界からほぼ無限の世界まで支配する根本法則の発見の報を私は死ぬまでに聞けるのだろか。いい加減な話しをさせてもらえれば、何か今ひとつ根本的なものが欠けている(例えば素数の秘密に鍵があるのでは?)と私には思える。

第1章 超ひも理論では、難問出現と天才による解決を何度も繰り返して進展してきて、究極の自然法則候補の超ひも理論登場に至る過程が要領良く説明される。

第2章 「我々は実は見えない高次元空間に囲まれていて、宇宙は最初の無の状態からブレーン(膜)をトンネル効果で抜けて誕生したのだろう。そして、真空のエネルギーによって宇宙は膨張し(インフレーション理論)、真空のエネルギーが熱となり、物質と光に転化してビックバン宇宙が誕生する。後は従来からのビックバン理論に従って現在の宇宙に進化する」(原文ではありません。私の翻訳です。)
こう言われても、「そうですか、面白いですね」としか言えない。真空は暗黒物質(ダークマター、実際は透明)で満たされていて、ダークエネルギーを持っているということが、私にはそもそも理解しにくい。「摂動」など大学に物理で習った言葉に40年ぶりに出会えて、なんとなく数式が浮かび、懐かしかったのだが。

第3章 従来のBCS理論ではあり得ない高温超伝導が1986年に発見されたときは、研究者だけでなく、社会に大きな衝撃を与えた。今すぐにも実用になると思われ、応用研究者というより、単なる技術屋の私たちにも「あらゆる応用特許を出しとけ」と強力なプッシュがあったことを思い出す。
高温超伝導のメカニズムは各種理論が乱立したままだが、5-10年以内には統一されるだろう。また、新しい仕組みであるスピン3重項の超伝導体も発見され、まだまだ発展の余地がある。
以上



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