もう数年前に一度読んだジュンパ・ラヒリ Jhumpa Lahiriの「停電の夜に」 (原題Interpreter of Maladies)を読み直した。
ピュリツァー賞、O・ヘンリー賞、PEN/ヘミングウェイ賞ほかを独占。ロンドン出身でニューヨーク在住のインド系新人作家の鮮烈なデビュー短編集。
日常の小さな出来事の中での人の心を細密画さながらの筆致で描き出す。読みやすく、余韻がただよう短編集。新人ながらすでに自分の世界を作り上げていて、円熟の語り口を持っている。
異性の実像を知り尽くした上で、謎めいた雰囲気を漂わせながら書くには、女性の著者は主人公をあえて男性にした方が効果的と考えたのだろう。ほとんどの主人公は男性である。もちろん、もてあますほどの記述力があっての話しではあるが。
アメリカに移住してきて疎外されるインド文化を抱えた人、逆にアメリカを背負ったままインドに一時帰国する人の両文化の間のすれ違い。異性間と異文化間の違いを同時に持込んで、微妙な心の動きを描ききる。
A Temporary Matter 停電の夜に:始めての子の死産いらい隙間風の吹く若い夫婦が、ロウソクの灯されたキッチンで停電の夜ごと秘密を打ち明けあい、そして----。
When Mr. Pirzada came to Dine ビルザダさんが食事に来たころ: 米国のインド系の家にたびたびやってくる西から独立しようと戦争している東パキスタン人の人をまだ事情がわからない子供が観察している。
Interpreter of Maladies 病気の通訳:ささやかな通訳を本業とするさえないタクシー運転手が夫と子供とアメリカナイズされたわがままな夫人のガイドをし、淡い感情をのぞかせる。
A Real Durwan 本物の門番:階段掃除人の話。以前は贅沢していたと話がどんどん大きくなる。他に比べると面白くない。
Sexy セクシー: セクシーと言われてインド人男性と不倫に夢中になっていく若いアメリカ女性。夫の不倫に泣く女性と子供の話しと巧みに絡ませる。
Mrs. Sen’s セン婦人の家:アメリカでの生活になじまないインドから来た夫人をベビーシッタとしてその家に預けられる子供。子供はやさしくそんな夫人を見る。
This Blessed House 神の恵みの家: ヒンズー教にこだわる夫にかまわず前の家の持ち主が残したキリスト教の置物探しに興ずる魅力的な強引な夫人。イライラしながら、魅力に負けている夫。こんな夫婦のありとほほえましく思える。
The Treatment of Bibi Haldar ビビ・ハルダーの治療:乞食のようなてんかんの持病を持つ女性。
The Third And FinalContinent 三度目で最後の大陸: インドからの移民の男性が故国から女性を迎えた。親族が決めた結婚でインドからイギリス、さらに米国に渡った女性が米国になじんで行き、夫にも同時に心を開いていく。ラヒリの両親の話のような気がする。心あたたまる話。
ジュンパ・ラヒリは、結婚式を故国インドであげたとのニュースがあり、なかなかの美人であった。
第二作は、「その名にちなんで」 The namesake。若き日の父が九死に一生を得た時、手にしていた本にちなんで、「ゴーゴリ」と名付けられた息子。やがて彼はその名を恥じ改名する。周辺の事物の詳細な記述、インド生まれの両親と米国生まれの息子の故国への思いの違いの記述には感心する。