3月1日午後、熊本県南阿蘇村の原野で、観光客がカセットコンロで水を沸かそうとしたところ、枯れ草に飛び火し、燃え広がった。約160 ha(ha:ヘクタール=1万m2)を焼き、2日午前7時現在も燃え続けている。
日本では山火事はあまり目立たないが、林野庁HPを見ると、
最近5年間(2001年~2005年)の平均で、1年間に約2500件発生し、焼失面積は約1500ha(1500万m2)、損害額は約9億円と、けっこう大きなものになっている。
1日あたりにすると、全国で毎日約7件の山火事が発生し、約4ha(ほぼ東京ド-ムと同じくらいの面積)の森林が燃えていることになる。
それでも、1970年代の年約6,500件、約8,000haからは大幅に減少している。
山火事の直接的原因は、「たき火」26%、「原因不明」15%、「タバコ」14%、「放火(疑い含む)」13%などほとんどが人間の不注意などによるものだ。
私の良く行くWA州(西オーストラリア州)の情報から山火事の功罪についてあらためて述べてみたい。
乾燥した気候のWA州にはところどころ今日の山火事危険度を示す看板が立っている。実際、かなりの木々が下の方は黒こげになっているところが多い。
森の中を走る道路には、カンガルーや鳥の死体を多く見る。土地を荒らし、動物の世界を分断し、車の排気ガスを撒き散らし、道路は環境破壊の代表例だが、山火事防止というメリットもある。実際、道路の片側の樹木が真っ黒で、反対側は緑という光景もよく目にする。
オーストラリアに多いユーカリの木も油分を多く含んでいるため山火事でよく燃える。しかし一方では、山火事の熱はユーカリのタネを発芽しやすくしている。ワイルドフラワーのバンクシアの実は燃えやすいが、山火事の熱で実がはじけて中の種が周囲に飛び散る。山火事で木は燃えてしまうが、その実は焼け跡の養分をもとに生まれ変る。
太古の昔から自然の樹木は山火事と共生してきたのだ。焼けた森も2年で再生すると言う。
WA州の森を見ると、いくつかの巨木と、根元のひょろひょろした若木が多く、中間の樹木は目立たない。
つまり、再生したと言っても、焼け残るのは根元だけを黒く焦がした高くそびえる巨木だけで、下草や数多くの若木は皆、焼けてなくなってしまう。このように、森はいくつかの巨木がますます大きく伸び、若木のほとんどは焼け滅び、ごく少数の運の良い若木だけが巨木への道を進む。
からだの弱いものは死に絶え、力の弱いものは子孫を残せない動物と同じ、植物もまた自然淘汰と言う摂理による格差社会なのだろう。
人間社会も豊かさを維持するために、現在、格差社会をより強烈なものにしようとするいくつかの政策がとられている。しかし、人間社会にあっては、第一に弱きものをどこまで、どう応援していくのかをまず議論し、策を立てるべきである。競争促進のための格差拡大(底上げ)策はその次の段階の議論にすべきであると思う。