辛抱強く歩くと、街灯が見えてきた。金桜(きんおう)神社の手前にももうひとつ神社があり、夫婦木(めおとぎ)神社といった。これも名の通り、夫婦和合の神社なのだろう。
バス停がある。夫婦木神社前だ。甲府行きは18時05分。いま17時25分だから、時間はたっぷりある。サッとお参りして引き返し、目と鼻の先にある金桜神社に向かった。
ここは夫婦木神社より規模が大きい。境内までは見上げるほどの高さで、数百段の階段があった。
何とか登りきって境内に近づくと、センサーによって、賽銭箱のあたりがパッと明るくなった。なんだか妙に感激する。5円玉を切らしていたので、大金10円玉を投じて祈願した。
定刻18時06分を3分遅れて、甲府行きのバスが来た。ほっとして乗車する。
バスは町内をぐるぐる回って、19時03分、甲府駅前に着いた。
旅に出ると食事が楽しみだが、といっても牛丼屋とかファミレスとかに入っちゃうのだが、ここでも私は、エキナカにあるデパートのレストラン街に入った。
うどん専門店があったので、入る。ほうとうを食したかったが、ないので、カレーうどんとミニ天丼のセットを頼む。ほかの客もカレーうどんを頼んでいたから、この店の名物なのだろう。ただ、「うどん半玉」が無料だったのに、それを所望しなかったのは大失敗だった。
カレーうどん、天丼とも美味だった。腹もくちくなって、きょうの宿の「ビジネスホテル大成」に向かう。駅から徒歩12分、こぢんまりした家庭的なホテルだった。
パソコンが使えるということで期待したのだが、玄関に1台、申し訳程度に置かれているだけで椅子もなく、長時間の使用は難儀だった。
私は部屋に戻り、スマホを使ってブログを書く。こうまでしてブログを書く意味があるのかと思う。
きょうは午前2時に就寝した。
2日目・30日(金)の夜が明けた。きょうは飯田線の乗車を楽しむ、ただそれだけである。中央本線をそのまま下って名古屋で下車し、味噌煮込みうどんを食す手もあるが、鉄道の旅を楽しむというコンセプトからは外れる。
ホテルをチェックアウトして駅に向かうが、どうも景色がヘンだ。弁当屋に入って道を聞いたら、違う方向だった。歩道橋を利用したとき、下りる方向を間違えたようだ。
7時47分に甲府駅に着く。きょう利用する最初の電車は7時50分発だから、うっかりが致命傷にならなかった。これはツイていた。
甲府駅の改札で、「青春18きっぷ」に1日目の日付を捺してもらう。ここからが本当の「青春18きっぷ旅」の始まりである。
7時50分甲府発、8時56分上諏訪着。ここで9時19分上諏訪始発の飯田線経由豊橋行きがあると放送があり、乗り換える。
上諏訪駅の1番ホームには足湯がある。以前は露天風呂だったのだが、何か問題でもあったのか、数年前に改装された。
いったん改札を出て、コンビニで菓子パンとコーヒーを買う。これが車内での朝食となる。
入線した電車は、普通列車ながらクロスシートの2人掛けで、車内も広々としていた。車窓を楽しむためには、景色を横目で見られるボックスシートかクロスシートが適しているのだが、ひとり旅でボックスシートを占領することは気が引けるから、2人用のシートがベストなのである。
飯田線は長野県辰野駅と愛知県豊橋駅を195.7kgで結ぶローカル線である。路線はくねくね曲がっているうえに秘境を走るので、乗っていて楽しい路線だ。
1号車の左側の席に座る。低い太陽がまぶしいが、雲ひとつない青空である。180度景色が見渡せ、鉄道マニアには至福の時間である。将棋を指している時より楽しい。いや、将棋は指していても楽しくない。勝ちが分かった時だけだ、楽しいのは。
車内では、撮り鉄と思しき鉄道マニアが、あっちこっちをうろうろして、写真撮影に没頭している。私は乗り鉄で、いわば同じ穴のムジナではあるが、彼はいかにも怪しい。ここが、鉄道マニアが嫌われるゆえんである。
さてこのまま飯田線に乗り続けてもいいのだが、どこかで貯金をしなければならない。
飯田線は、いくつかの駅で下りているが、この路線の名前にもなっている飯田には下りていない。それで、下りてみた。
まずは駅から徒歩5分の「飯田郵便局」に行く。12月30日だから、1,230円を貯金する。1年で最も高額である。ちなみに最少額は、1月4日の104円だ。
貯金を終えたが、付近にこれといった観光地はないようだ。諦めて、駅前通りのシャレたレストランに入る。
メインのメニューを1品オーダーし、おばんざいがバイキング形式で食べ放題。それにドリンクがついて850円、というものだった。
店内にはジャズだかボサノバだかが流れていて、なかなかオシャレだ。コーヒーが二番煎じのようで味が薄かったが、それ以外は満足できた。
13時27分の電車に乗る。これは53分着の天竜峡どまりなので、必然的に下車する。天竜峡にも郵便局があったが、もう貯金をしてしまった。あっ…きのう昇仙峡で貯金をし、ここ天竜峡でも貯金をすれば、「峡」つながりになったのにと思う。「甲府駅前郵便局」と「飯田郵便局」はいかにも味気なかった。
駅から天竜ライン下りの船が出ているが、ひとりで乗る気はしない。前も書いたが、ひとり旅だからなんでもできる、というものではないのだ。
天竜峡に行ってみる。途中、「若返りの湯」があったが、駅構内で確認した次の電車は、14時47分だった。ここは時間の関係で見送るしかない。
天竜峡に出る。駅からこんな近いところにあったのかと思う。天竜峡十勝のひとつ、「龍角峯」がすごい迫力だ。説明板を読むと、俳優の峰竜太は、この龍角峯から名前を取ったのだという。空は相変わらず、雲ひとつない。これだけスッキリした青空も珍しい。
遊歩道を歩いて、つつじ橋に出た。対岸の龍角峯への最短ルートだが、このつつじ橋が心許ない吊り橋で、足を踏み入れるとゆらゆら揺れる。幅が1m50㎝と狭い上、手すりが金網になっていて、高さは1mもない。眼下には天竜川が流れ、足がすくむ。徳島県祖谷の「かずら橋」に勝るとも劣らない恐怖だ。橋の3分の1を行ったところで限界になり、屈辱だが引き返した。ここは女性と来るのがいいと思う。これがホントの「吊り橋効果」で、すぐにラブラブになれる。ただし自ら引き返さないことが肝要だ。
駅前に戻り、今度は姑射(こや)橋を渡る。人道用と車道用があり、行きは人道橋、帰りは車道橋を利用する。ここから下を見ても、けっこうな高さだ。よく2時間ドラマなどで、橋の上で人と人が揉み合って、片方が突き落とされて死ぬ場面があるが、いざそういうところに立って見ると、あれは作り話ということがよく分かる。実際に立てば足がすくんで、その場にとどまる状況にはならないからだ。
14時40分、天竜峡駅に戻る。駅の時刻表を改めて見ると、豊橋方面行き14時47分の電車がない。
あれ? 私は呆然と立ち尽くした。
(つづく)
バス停がある。夫婦木神社前だ。甲府行きは18時05分。いま17時25分だから、時間はたっぷりある。サッとお参りして引き返し、目と鼻の先にある金桜神社に向かった。
ここは夫婦木神社より規模が大きい。境内までは見上げるほどの高さで、数百段の階段があった。
何とか登りきって境内に近づくと、センサーによって、賽銭箱のあたりがパッと明るくなった。なんだか妙に感激する。5円玉を切らしていたので、大金10円玉を投じて祈願した。
定刻18時06分を3分遅れて、甲府行きのバスが来た。ほっとして乗車する。
バスは町内をぐるぐる回って、19時03分、甲府駅前に着いた。
旅に出ると食事が楽しみだが、といっても牛丼屋とかファミレスとかに入っちゃうのだが、ここでも私は、エキナカにあるデパートのレストラン街に入った。
うどん専門店があったので、入る。ほうとうを食したかったが、ないので、カレーうどんとミニ天丼のセットを頼む。ほかの客もカレーうどんを頼んでいたから、この店の名物なのだろう。ただ、「うどん半玉」が無料だったのに、それを所望しなかったのは大失敗だった。
カレーうどん、天丼とも美味だった。腹もくちくなって、きょうの宿の「ビジネスホテル大成」に向かう。駅から徒歩12分、こぢんまりした家庭的なホテルだった。
パソコンが使えるということで期待したのだが、玄関に1台、申し訳程度に置かれているだけで椅子もなく、長時間の使用は難儀だった。
私は部屋に戻り、スマホを使ってブログを書く。こうまでしてブログを書く意味があるのかと思う。
きょうは午前2時に就寝した。
2日目・30日(金)の夜が明けた。きょうは飯田線の乗車を楽しむ、ただそれだけである。中央本線をそのまま下って名古屋で下車し、味噌煮込みうどんを食す手もあるが、鉄道の旅を楽しむというコンセプトからは外れる。
ホテルをチェックアウトして駅に向かうが、どうも景色がヘンだ。弁当屋に入って道を聞いたら、違う方向だった。歩道橋を利用したとき、下りる方向を間違えたようだ。
7時47分に甲府駅に着く。きょう利用する最初の電車は7時50分発だから、うっかりが致命傷にならなかった。これはツイていた。
甲府駅の改札で、「青春18きっぷ」に1日目の日付を捺してもらう。ここからが本当の「青春18きっぷ旅」の始まりである。
7時50分甲府発、8時56分上諏訪着。ここで9時19分上諏訪始発の飯田線経由豊橋行きがあると放送があり、乗り換える。
上諏訪駅の1番ホームには足湯がある。以前は露天風呂だったのだが、何か問題でもあったのか、数年前に改装された。
いったん改札を出て、コンビニで菓子パンとコーヒーを買う。これが車内での朝食となる。
入線した電車は、普通列車ながらクロスシートの2人掛けで、車内も広々としていた。車窓を楽しむためには、景色を横目で見られるボックスシートかクロスシートが適しているのだが、ひとり旅でボックスシートを占領することは気が引けるから、2人用のシートがベストなのである。
飯田線は長野県辰野駅と愛知県豊橋駅を195.7kgで結ぶローカル線である。路線はくねくね曲がっているうえに秘境を走るので、乗っていて楽しい路線だ。
1号車の左側の席に座る。低い太陽がまぶしいが、雲ひとつない青空である。180度景色が見渡せ、鉄道マニアには至福の時間である。将棋を指している時より楽しい。いや、将棋は指していても楽しくない。勝ちが分かった時だけだ、楽しいのは。
車内では、撮り鉄と思しき鉄道マニアが、あっちこっちをうろうろして、写真撮影に没頭している。私は乗り鉄で、いわば同じ穴のムジナではあるが、彼はいかにも怪しい。ここが、鉄道マニアが嫌われるゆえんである。
さてこのまま飯田線に乗り続けてもいいのだが、どこかで貯金をしなければならない。
飯田線は、いくつかの駅で下りているが、この路線の名前にもなっている飯田には下りていない。それで、下りてみた。
まずは駅から徒歩5分の「飯田郵便局」に行く。12月30日だから、1,230円を貯金する。1年で最も高額である。ちなみに最少額は、1月4日の104円だ。
貯金を終えたが、付近にこれといった観光地はないようだ。諦めて、駅前通りのシャレたレストランに入る。
メインのメニューを1品オーダーし、おばんざいがバイキング形式で食べ放題。それにドリンクがついて850円、というものだった。
店内にはジャズだかボサノバだかが流れていて、なかなかオシャレだ。コーヒーが二番煎じのようで味が薄かったが、それ以外は満足できた。
13時27分の電車に乗る。これは53分着の天竜峡どまりなので、必然的に下車する。天竜峡にも郵便局があったが、もう貯金をしてしまった。あっ…きのう昇仙峡で貯金をし、ここ天竜峡でも貯金をすれば、「峡」つながりになったのにと思う。「甲府駅前郵便局」と「飯田郵便局」はいかにも味気なかった。
駅から天竜ライン下りの船が出ているが、ひとりで乗る気はしない。前も書いたが、ひとり旅だからなんでもできる、というものではないのだ。
天竜峡に行ってみる。途中、「若返りの湯」があったが、駅構内で確認した次の電車は、14時47分だった。ここは時間の関係で見送るしかない。
天竜峡に出る。駅からこんな近いところにあったのかと思う。天竜峡十勝のひとつ、「龍角峯」がすごい迫力だ。説明板を読むと、俳優の峰竜太は、この龍角峯から名前を取ったのだという。空は相変わらず、雲ひとつない。これだけスッキリした青空も珍しい。
遊歩道を歩いて、つつじ橋に出た。対岸の龍角峯への最短ルートだが、このつつじ橋が心許ない吊り橋で、足を踏み入れるとゆらゆら揺れる。幅が1m50㎝と狭い上、手すりが金網になっていて、高さは1mもない。眼下には天竜川が流れ、足がすくむ。徳島県祖谷の「かずら橋」に勝るとも劣らない恐怖だ。橋の3分の1を行ったところで限界になり、屈辱だが引き返した。ここは女性と来るのがいいと思う。これがホントの「吊り橋効果」で、すぐにラブラブになれる。ただし自ら引き返さないことが肝要だ。
駅前に戻り、今度は姑射(こや)橋を渡る。人道用と車道用があり、行きは人道橋、帰りは車道橋を利用する。ここから下を見ても、けっこうな高さだ。よく2時間ドラマなどで、橋の上で人と人が揉み合って、片方が突き落とされて死ぬ場面があるが、いざそういうところに立って見ると、あれは作り話ということがよく分かる。実際に立てば足がすくんで、その場にとどまる状況にはならないからだ。
14時40分、天竜峡駅に戻る。駅の時刻表を改めて見ると、豊橋方面行き14時47分の電車がない。
あれ? 私は呆然と立ち尽くした。
(つづく)