よく見ると、14時47分の豊橋行きは、16時47分だった。これはひどい見間違いをしたものだ。次の豊橋行きは15時09分。まだ30分近くもある。チッ、これなら「若返りの湯」に入る時間もあったのに…。
残念ではあるが、自分の錯覚だから、諦めるよりない。ひとり旅は、すべてが自己責任である。
まだ時間がある。あまり気は進まなかったが、駅前のそば屋に入り、ざるそばをたぐる。このそばが妙に細切れで、ポロポロ落ちた。駅前にある食事処は、ほっといても観光客が入るから、味の努力をしない…ところが多い。
三たび飯田線に乗る。中途半端に乗客が座っていたので、私は立ったまま、窓外を眺める。右下に見える大河は天竜川だ。悠久の流れである。
15時27分、田本(たもと)に着く。田本は、牛山隆信氏が定義する「秘境駅」の第1位に輝いた、鉄道マニアなら一度は訪れておきたい駅で、私もかつて下車したことがある。今回も下車したいが、後の予定を考えると、このまま乗り通すしかない。
車内が空いてきたので、進行方向左側のシートに座る。この電車も、ヨコ2人掛けだ。
15時52分、中井侍(なかいさむらい)着。「中井」という駅名だけでもすさまじいのに、そこに「侍」が付くのだから、最強である。ここ中井侍も秘境駅で下車したいが、次の電車まで2時間もあるので、やはりこのまま乗り過ごす。
次の駅が小和田(こわだ)。皇太子妃雅子さまが結婚されたとき、一躍有名になった駅である。飯田線は秘境駅の宝庫で、小和田も然り。やはり下車したいが、上の理由で、やはり下りられない。もう、終点の豊橋まで、このまま乗り過ごすしかないのである。
私のナナメ前には父子が座っているが、席に余裕があるので、お父さんのほうが私の前の席に移ってきた。しかし通路側に座っている。人が増えてきたら、元に戻るつもりなのだろう。
飯田線は険しい山峡を行くが、緩やかに下っている。列車のありがたさを感じたかったら、どこかでふらっと途中下車して、ひとつ隣の駅まで歩いてみればよい。艱難辛苦の連続で、二度と歩きたいと思わない。並走する列車のありがたみが、よく分かる。
本長篠、豊川…。豊橋に近づくにつれ、徐々に人が乗ってきた。立っている人も出てきたが、前のお父さんは知らぬ顔である。せめて窓際に座っていれば、通路側に人が座れるのだが…。
小坂井、下地。さらに人が増えてきたが、お父さん…オッサンは知らんプリである。相変わらず窓際の席は空いている。オッサン、どういう神経をしているのかと思う。こういう大人にはなりたくない。
18時23分、豊川着。ここで夕食を摂ってもいいのだが、上りの浜松方面行きが接続していたので、それに乗る。きょうは浜松に泊まるつもりである。今夜こそはしっかりとブログを書かなければならないが、事前の調べでは、豊橋にはこれといったネットカフェがなかった。
19時05分、浜松着。浜松といえばうなぎである。高架下の食堂街に入るが、うな重が3,000円台、うな丼が2,100円だった。ちょっと入るのをためらった私は、その先にあるビックカメラに入り、160円のトリプルタップを買った。
家の近くにビックカメラがないので利用する機会がなく、数年前は、50,000ポイント以上もあるビックポイントを消滅させてしまったこともあった。
その後カメラのさくらやが閉店し、さくらやポイントがビックポイントに移行。10,000少し復活したそのポイントを今度こそ消滅させないため、ビックカメラで何がしかを購入し、ポイント有効期間を更新させる必要があったのだった。
さて夕食である。浜松といえば、宇都宮と並んで、餃子が有名である。同じ名物を食すなら、餃子のほうが安くてよい。ひとり旅だから、誰に見栄を張る必要もない。
エキナカのラーメン屋に入り、ラーメンと餃子のセットを食す。850円。餃子にはもやしがついており、それがアクセントになって、美味かった。ただ、ラーメンの器が平べったく、ちょっと食べづらかった。
腹もくちて、ネットカフェ「ゆう遊空間」に向かう。住所は調べてあるが、ちょっと分かりづらい。スマホで所在地を確認しながら、歩く。「ケータイの地図を見ながら店を探す」行為は、甘酸っぱい思い出があるので、つらい。
まあそれはともかく、スマホを買う前は、メール以外に使うことはないと思っていたが、いざ手にすると、旅行時には重宝している。私もオチたものだと思う。
午後8時すぎに「ゆう遊空間・浜松成子店」に入る。会員証を作って、チェックインする。ここでふたつの誤算があった。
ひとつは、ここ浜松成子店には、シャワーがなかったこと。ふたつ目は、フラットスペース(寝っ転がれるブース)の選択を聞かれなかったこと。カフェで一夜を明かすならフラットスペースがいいのだが、チェックインが早すぎたので、2、3時間で退店すると思われたらしい。用意されたブースは、2人用のソファーが設えられているブースだった。
まあ、今夜の宿が確保できたので、よしとするしかない。ところがこのブースが、戸の下半分がなく、廊下が丸見えだ。いままでいくつものネットカフェを利用したが、こんなレイアウトは初めてである。3つめの誤算、といえようか。
とりあえずブログである。左目でブログを書き、右目で「踊る大捜査線THE MOVIE 3」を観る。私はおカネを出してまで映画は観ないので、地上波初放送の「踊る3」は初見だ。
スマホへの充電もしなければならない。パソコンやテレビに伸びるテーブルタップを確認するが、穴が全部塞がっていた。ちょっと困ったが、奇跡的に私は、トリプルタップを購入していた。これをくっ付けて、充電開始。
「踊る3」を観終えたが、内容的には、いまひとつだった。制作費とおもしろさは比例しない。
ブログの当日分をアップし、日付が31日に変わって、31日分もアップする。これで1年間のブログも無事終了である。お疲れさま、と自分自身をねぎらう。
かけうどんを頼む。夜食は肥満の大敵だが、これがこよなく美味いのだ。
大いに満足して、あとは寝るのみだが、前述のようにソファーだから、横になると体がズリ落ちる。
無理に踏ん張るが、廊下が見える。ということは、廊下からも私が見えるということだ。頭上の光がまぶしい。ハンカチを目に覆う。やっぱり外が気になるので、体勢を反対にする。しかしどうもしっくりこない。また体勢を元に戻す。ダメだこれ。やっぱり体を起こす。
これは、寝られないモードに突入してしまったようだ。
ぐずぐずしていたら、朝になってしまった。これからは、ネットカフェでの宿泊は考えたほうがいいようだ。
さてきょう31日(土)は、三島の立ち寄り温泉で一浴、熱海で途中下車して帰京する予定である。とにかく風呂に入らねばしょうがない。ヒゲ面のまま年を越したくない。
三島発8時10分の上り東海道本線に乗り、定刻を1分遅れの10時33分、三島で下車する。「湯郷三島温泉」に行くべく、北口に出た。昨夜の調べでは、ここから無料送迎車が出ているのだ。
私は先方へ連絡をする。もちろんスマホからである。最近は旅に出ると公衆電話もなくて、見つけるのに往生するのだが、スマホがあればやはり便利だ。
2回目の電話で女性が出た。10時37分だった。
「かくかくしかじか」
「えっ!? 送迎車はもう出ちゃいましたよ! あ、いまどこにいらっしゃいますか? 北口? それじゃそこに、向かって右手に、紺色のバンが停まってませんか!? それが送迎車です、それに乗ってください!」
私は慌てて右手を見る。と、確かに紺色のバンが停まっていた。あれが送迎車なのか? 私はもっと、マイクロバスのようなものを想像していた。
運転手のおじさんに挨拶して、とりあえず中に乗る。前の席の背もたれに、送迎バスの時刻が書かれていた。
「行き 9時50分 10時40分 帰り 14時00分 15時00分」
何と…!! いま私が乗ったこの送迎車が、湯郷三島温泉に行く「最終便」だった。
(つづく)
残念ではあるが、自分の錯覚だから、諦めるよりない。ひとり旅は、すべてが自己責任である。
まだ時間がある。あまり気は進まなかったが、駅前のそば屋に入り、ざるそばをたぐる。このそばが妙に細切れで、ポロポロ落ちた。駅前にある食事処は、ほっといても観光客が入るから、味の努力をしない…ところが多い。
三たび飯田線に乗る。中途半端に乗客が座っていたので、私は立ったまま、窓外を眺める。右下に見える大河は天竜川だ。悠久の流れである。
15時27分、田本(たもと)に着く。田本は、牛山隆信氏が定義する「秘境駅」の第1位に輝いた、鉄道マニアなら一度は訪れておきたい駅で、私もかつて下車したことがある。今回も下車したいが、後の予定を考えると、このまま乗り通すしかない。
車内が空いてきたので、進行方向左側のシートに座る。この電車も、ヨコ2人掛けだ。
15時52分、中井侍(なかいさむらい)着。「中井」という駅名だけでもすさまじいのに、そこに「侍」が付くのだから、最強である。ここ中井侍も秘境駅で下車したいが、次の電車まで2時間もあるので、やはりこのまま乗り過ごす。
次の駅が小和田(こわだ)。皇太子妃雅子さまが結婚されたとき、一躍有名になった駅である。飯田線は秘境駅の宝庫で、小和田も然り。やはり下車したいが、上の理由で、やはり下りられない。もう、終点の豊橋まで、このまま乗り過ごすしかないのである。
私のナナメ前には父子が座っているが、席に余裕があるので、お父さんのほうが私の前の席に移ってきた。しかし通路側に座っている。人が増えてきたら、元に戻るつもりなのだろう。
飯田線は険しい山峡を行くが、緩やかに下っている。列車のありがたさを感じたかったら、どこかでふらっと途中下車して、ひとつ隣の駅まで歩いてみればよい。艱難辛苦の連続で、二度と歩きたいと思わない。並走する列車のありがたみが、よく分かる。
本長篠、豊川…。豊橋に近づくにつれ、徐々に人が乗ってきた。立っている人も出てきたが、前のお父さんは知らぬ顔である。せめて窓際に座っていれば、通路側に人が座れるのだが…。
小坂井、下地。さらに人が増えてきたが、お父さん…オッサンは知らんプリである。相変わらず窓際の席は空いている。オッサン、どういう神経をしているのかと思う。こういう大人にはなりたくない。
18時23分、豊川着。ここで夕食を摂ってもいいのだが、上りの浜松方面行きが接続していたので、それに乗る。きょうは浜松に泊まるつもりである。今夜こそはしっかりとブログを書かなければならないが、事前の調べでは、豊橋にはこれといったネットカフェがなかった。
19時05分、浜松着。浜松といえばうなぎである。高架下の食堂街に入るが、うな重が3,000円台、うな丼が2,100円だった。ちょっと入るのをためらった私は、その先にあるビックカメラに入り、160円のトリプルタップを買った。
家の近くにビックカメラがないので利用する機会がなく、数年前は、50,000ポイント以上もあるビックポイントを消滅させてしまったこともあった。
その後カメラのさくらやが閉店し、さくらやポイントがビックポイントに移行。10,000少し復活したそのポイントを今度こそ消滅させないため、ビックカメラで何がしかを購入し、ポイント有効期間を更新させる必要があったのだった。
さて夕食である。浜松といえば、宇都宮と並んで、餃子が有名である。同じ名物を食すなら、餃子のほうが安くてよい。ひとり旅だから、誰に見栄を張る必要もない。
エキナカのラーメン屋に入り、ラーメンと餃子のセットを食す。850円。餃子にはもやしがついており、それがアクセントになって、美味かった。ただ、ラーメンの器が平べったく、ちょっと食べづらかった。
腹もくちて、ネットカフェ「ゆう遊空間」に向かう。住所は調べてあるが、ちょっと分かりづらい。スマホで所在地を確認しながら、歩く。「ケータイの地図を見ながら店を探す」行為は、甘酸っぱい思い出があるので、つらい。
まあそれはともかく、スマホを買う前は、メール以外に使うことはないと思っていたが、いざ手にすると、旅行時には重宝している。私もオチたものだと思う。
午後8時すぎに「ゆう遊空間・浜松成子店」に入る。会員証を作って、チェックインする。ここでふたつの誤算があった。
ひとつは、ここ浜松成子店には、シャワーがなかったこと。ふたつ目は、フラットスペース(寝っ転がれるブース)の選択を聞かれなかったこと。カフェで一夜を明かすならフラットスペースがいいのだが、チェックインが早すぎたので、2、3時間で退店すると思われたらしい。用意されたブースは、2人用のソファーが設えられているブースだった。
まあ、今夜の宿が確保できたので、よしとするしかない。ところがこのブースが、戸の下半分がなく、廊下が丸見えだ。いままでいくつものネットカフェを利用したが、こんなレイアウトは初めてである。3つめの誤算、といえようか。
とりあえずブログである。左目でブログを書き、右目で「踊る大捜査線THE MOVIE 3」を観る。私はおカネを出してまで映画は観ないので、地上波初放送の「踊る3」は初見だ。
スマホへの充電もしなければならない。パソコンやテレビに伸びるテーブルタップを確認するが、穴が全部塞がっていた。ちょっと困ったが、奇跡的に私は、トリプルタップを購入していた。これをくっ付けて、充電開始。
「踊る3」を観終えたが、内容的には、いまひとつだった。制作費とおもしろさは比例しない。
ブログの当日分をアップし、日付が31日に変わって、31日分もアップする。これで1年間のブログも無事終了である。お疲れさま、と自分自身をねぎらう。
かけうどんを頼む。夜食は肥満の大敵だが、これがこよなく美味いのだ。
大いに満足して、あとは寝るのみだが、前述のようにソファーだから、横になると体がズリ落ちる。
無理に踏ん張るが、廊下が見える。ということは、廊下からも私が見えるということだ。頭上の光がまぶしい。ハンカチを目に覆う。やっぱり外が気になるので、体勢を反対にする。しかしどうもしっくりこない。また体勢を元に戻す。ダメだこれ。やっぱり体を起こす。
これは、寝られないモードに突入してしまったようだ。
ぐずぐずしていたら、朝になってしまった。これからは、ネットカフェでの宿泊は考えたほうがいいようだ。
さてきょう31日(土)は、三島の立ち寄り温泉で一浴、熱海で途中下車して帰京する予定である。とにかく風呂に入らねばしょうがない。ヒゲ面のまま年を越したくない。
三島発8時10分の上り東海道本線に乗り、定刻を1分遅れの10時33分、三島で下車する。「湯郷三島温泉」に行くべく、北口に出た。昨夜の調べでは、ここから無料送迎車が出ているのだ。
私は先方へ連絡をする。もちろんスマホからである。最近は旅に出ると公衆電話もなくて、見つけるのに往生するのだが、スマホがあればやはり便利だ。
2回目の電話で女性が出た。10時37分だった。
「かくかくしかじか」
「えっ!? 送迎車はもう出ちゃいましたよ! あ、いまどこにいらっしゃいますか? 北口? それじゃそこに、向かって右手に、紺色のバンが停まってませんか!? それが送迎車です、それに乗ってください!」
私は慌てて右手を見る。と、確かに紺色のバンが停まっていた。あれが送迎車なのか? 私はもっと、マイクロバスのようなものを想像していた。
運転手のおじさんに挨拶して、とりあえず中に乗る。前の席の背もたれに、送迎バスの時刻が書かれていた。
「行き 9時50分 10時40分 帰り 14時00分 15時00分」
何と…!! いま私が乗ったこの送迎車が、湯郷三島温泉に行く「最終便」だった。
(つづく)