本当にあぶないところだった。もしスマホを持っていなかったら、公衆電話を探すのに手間取り、この送迎車に乗れなかった。友人のいない私にスマホは不必要で、もし取り上げられても何ら支障はないが、旅先では携帯するのも悪くない。でもまあ、なければないで何とかするのだが。
運転手のオジサンと世間話をする。私の旅行切符の種類を聞かれたから「青春18きっぷ」と答えると、オジサンもこれを使って旅行をすることがあると言った。例えば姫路は日帰り圏内なので、それで姫路城をたっぷり見学してくるという。これで1日2,300円である。青春18きっぷは、うまく使えば相当トクになる。
送迎車は山を登る。真新しい一軒家が林立しているが、ここら辺は急速に宅地化が進んで、いずれも10年以内に建てられたものだという。
三島から東京まで新幹線通勤しているサラリーマンや、週末だけこちらで過ごす夫婦も多いという。新幹線なら朝は座って行けるだろうし、通勤時間もそんなにかからない。家からは富士山が望めるし、慣れてしまえば素晴らしい環境だろう。東京に住むのがステータスだと考えている人は、再考してみるとよい。
11時05分すぎ、送迎車は「湯郷三島温泉」に着いた。山頂にそびえる3階建ての建物で、富士の眺めが素晴らしい。辺りはゴルフ場が併設されており、駐車場には品川や横浜ナンバーのクルマが多数あった。
2階の湯処に早速入る。700円。洗い場を通って、露天風呂に入る。よく分からぬが、源泉かけ流し100%らしい。内湯より2、3度低く、いい湯だ。いつまで浸かっていても、のぼせない。
温泉といえば中倉宏美女流二段である。岩根忍女流二段もよい。ちょっとマニアックなところでは、蛸島彰子女流五段という手もある。しかしここはまあ、宏美女流二段が本筋だろう。
その宏美女流二段、温泉好きという話は聞かないが、実際はどうなのだろう。私も元広告代理店マンである。もし本人が望むなら、温泉とワイン、美味しい食事処の1泊2日プランを、本気でプランニングする用意はあるのだが。
湯に浸かっていては富士山が見えないので、立ち上がる。前方の生垣が邪魔だからだが、それを排除したら、外から丸見えになってしまう。痛し痒しだ。とにかく富士山が見たかったら、宏美女流二段も立たなければならない。
きのうは快晴だったが、きょうは曇り空だ。残念だが、富士の頂きにも、すっぽり雲がかぶさっている。きのうの雲ひとつない天気をきょうに回したかったが、とにかく天候ばかりはどうしようもない。
時間はたっぷりあるし、このまま浸かっていたいのだが、どうも落ち着かなくて、湯から上がって体を洗う。そのあともう一度露天風呂に入ったら、妙に熱く感じた。
いい温泉だったが、予定より早く上がり、階下の休憩処兼食堂に行く。日帰り温泉施設にはよくあるパターンである。
「ミニ天丼と半そばのセット」をオーダーする。それと白牛乳も1本。温泉から上がったら、牛乳をグイッとやるのが定跡である。こういうところの食事はハズレがない。天丼もそばも上品な味で、美味かった。
帰りは14時ちょうどの送迎車に乗る。行きはライトバンだったが、帰りは乗用車だ。同乗者は年配の女性ひとりだった。この送迎車を利用する人は、かなり限られているようだ。
接続よく、三島発14時29分の東海道本線に乗り、熱海で下車。そのまま東京に帰ってもいいのだが、「NHK紅白歌合戦」は午後7時15分からなので、急がない。
熱海といえば梅園だが、公開はあす1月1日からだから、見送り。もうひとつ、熱海といえば「干物」である。旅行最終日の明るい時間に、私が熱海に降り立つのは珍しく、土産物屋もまだ開いている。きょうは大晦日だがふだんどおりに客はいるし、ふつうの休日となんら変わらない。
目当ての干物だが、駅前の商店街にはその手の店が10軒以上あり、どの店がいいのか見当がつかない。魚屋さんがよく身に着けている「前掛け」をしている旦那さんがいた店と、商店街の1本外れにあって、あまり客を呼び込んでいない魚屋で、それぞれアジの干物(100円×6)と、金目鯛の干物(1カゴ1,000円)を買った。言うまでもないが、自宅用である。ここでも、将棋関係者へのお土産は買わなかった。
熱海からはもちろん普通電車に乗るが、ここでささやかな贅沢をする。東海道本線の熱海-東京間にはグリーン車が連結されており、青春18きっぷ利用者でも、グリーン料金だけで、グリーン車に乗車することができるのだ。そのグリーン車を利用する。
ひとつ注意すべきは購入場所で、駅のみどりの窓口で買うのと、車内で買うのとでは、値段が違う。もちろん、みどりの窓口で買うほうがいくらか安い。当然私は、さっき熱海に下りたとき、みどりの窓口でグリーン券を購入しておいた。
15時18分の普通列車、東京行きのグリーン車の2階席に乗った。座席指定はなく、いわば乗車整理券のようなものなので、席は自由に決められる。
通路を挟んだ斜め前の席はモデル風の女性2人。私の前の席は、夫婦と子供3人の家族が座った。出発後、女性車掌さんが検札に来る。あの「モデルさん」はグリーン券を購入していなかったので、ふたり分で2,000円を取られた。ちなみに私は事前に購入していたので、750円で済んだ。ひとり分250円の差額は大きい。
ナナメに前に座っていたお父さんが、シートを大きく倒す。私に直接「被害」はないが、なんとなく鬱陶しい。このまま東京まで付き合わされたらイヤだなと思っていたら、小田原で降りるようだった。
小田原に着く。お父さんはシートを元に戻さなかったが、小学生高学年と思しき長男クンが、シートを元に戻して下車したのには感心した。
さてここまで来れば、もうグリーン車に乗る客はいない。駅に着いて、グリーン車の前に乗客がいても、彼らはここを避けてほかの車両に乗る。それが愉快だ。
18時06分、電車は定刻に東京に着いた。あとは最寄り駅に帰るだけなのか…。半分消沈していると、エキナカで駅弁大会があり、いまはタイムセール中とかで、おぎのやの「峠の釜めし」が、200円引きの700円で販売されていた。私は嬉々として、3つ買う。しかしこれ、私は得をしたのだろうか。なんだか、損をしたような気もする。
宴は終わった。これで本当に、あとは家へ帰るだけである。「青春18きっぷの旅」後半は、新年1月7日~9日である。
(12日につづく)
運転手のオジサンと世間話をする。私の旅行切符の種類を聞かれたから「青春18きっぷ」と答えると、オジサンもこれを使って旅行をすることがあると言った。例えば姫路は日帰り圏内なので、それで姫路城をたっぷり見学してくるという。これで1日2,300円である。青春18きっぷは、うまく使えば相当トクになる。
送迎車は山を登る。真新しい一軒家が林立しているが、ここら辺は急速に宅地化が進んで、いずれも10年以内に建てられたものだという。
三島から東京まで新幹線通勤しているサラリーマンや、週末だけこちらで過ごす夫婦も多いという。新幹線なら朝は座って行けるだろうし、通勤時間もそんなにかからない。家からは富士山が望めるし、慣れてしまえば素晴らしい環境だろう。東京に住むのがステータスだと考えている人は、再考してみるとよい。
11時05分すぎ、送迎車は「湯郷三島温泉」に着いた。山頂にそびえる3階建ての建物で、富士の眺めが素晴らしい。辺りはゴルフ場が併設されており、駐車場には品川や横浜ナンバーのクルマが多数あった。
2階の湯処に早速入る。700円。洗い場を通って、露天風呂に入る。よく分からぬが、源泉かけ流し100%らしい。内湯より2、3度低く、いい湯だ。いつまで浸かっていても、のぼせない。
温泉といえば中倉宏美女流二段である。岩根忍女流二段もよい。ちょっとマニアックなところでは、蛸島彰子女流五段という手もある。しかしここはまあ、宏美女流二段が本筋だろう。
その宏美女流二段、温泉好きという話は聞かないが、実際はどうなのだろう。私も元広告代理店マンである。もし本人が望むなら、温泉とワイン、美味しい食事処の1泊2日プランを、本気でプランニングする用意はあるのだが。
湯に浸かっていては富士山が見えないので、立ち上がる。前方の生垣が邪魔だからだが、それを排除したら、外から丸見えになってしまう。痛し痒しだ。とにかく富士山が見たかったら、宏美女流二段も立たなければならない。
きのうは快晴だったが、きょうは曇り空だ。残念だが、富士の頂きにも、すっぽり雲がかぶさっている。きのうの雲ひとつない天気をきょうに回したかったが、とにかく天候ばかりはどうしようもない。
時間はたっぷりあるし、このまま浸かっていたいのだが、どうも落ち着かなくて、湯から上がって体を洗う。そのあともう一度露天風呂に入ったら、妙に熱く感じた。
いい温泉だったが、予定より早く上がり、階下の休憩処兼食堂に行く。日帰り温泉施設にはよくあるパターンである。
「ミニ天丼と半そばのセット」をオーダーする。それと白牛乳も1本。温泉から上がったら、牛乳をグイッとやるのが定跡である。こういうところの食事はハズレがない。天丼もそばも上品な味で、美味かった。
帰りは14時ちょうどの送迎車に乗る。行きはライトバンだったが、帰りは乗用車だ。同乗者は年配の女性ひとりだった。この送迎車を利用する人は、かなり限られているようだ。
接続よく、三島発14時29分の東海道本線に乗り、熱海で下車。そのまま東京に帰ってもいいのだが、「NHK紅白歌合戦」は午後7時15分からなので、急がない。
熱海といえば梅園だが、公開はあす1月1日からだから、見送り。もうひとつ、熱海といえば「干物」である。旅行最終日の明るい時間に、私が熱海に降り立つのは珍しく、土産物屋もまだ開いている。きょうは大晦日だがふだんどおりに客はいるし、ふつうの休日となんら変わらない。
目当ての干物だが、駅前の商店街にはその手の店が10軒以上あり、どの店がいいのか見当がつかない。魚屋さんがよく身に着けている「前掛け」をしている旦那さんがいた店と、商店街の1本外れにあって、あまり客を呼び込んでいない魚屋で、それぞれアジの干物(100円×6)と、金目鯛の干物(1カゴ1,000円)を買った。言うまでもないが、自宅用である。ここでも、将棋関係者へのお土産は買わなかった。
熱海からはもちろん普通電車に乗るが、ここでささやかな贅沢をする。東海道本線の熱海-東京間にはグリーン車が連結されており、青春18きっぷ利用者でも、グリーン料金だけで、グリーン車に乗車することができるのだ。そのグリーン車を利用する。
ひとつ注意すべきは購入場所で、駅のみどりの窓口で買うのと、車内で買うのとでは、値段が違う。もちろん、みどりの窓口で買うほうがいくらか安い。当然私は、さっき熱海に下りたとき、みどりの窓口でグリーン券を購入しておいた。
15時18分の普通列車、東京行きのグリーン車の2階席に乗った。座席指定はなく、いわば乗車整理券のようなものなので、席は自由に決められる。
通路を挟んだ斜め前の席はモデル風の女性2人。私の前の席は、夫婦と子供3人の家族が座った。出発後、女性車掌さんが検札に来る。あの「モデルさん」はグリーン券を購入していなかったので、ふたり分で2,000円を取られた。ちなみに私は事前に購入していたので、750円で済んだ。ひとり分250円の差額は大きい。
ナナメに前に座っていたお父さんが、シートを大きく倒す。私に直接「被害」はないが、なんとなく鬱陶しい。このまま東京まで付き合わされたらイヤだなと思っていたら、小田原で降りるようだった。
小田原に着く。お父さんはシートを元に戻さなかったが、小学生高学年と思しき長男クンが、シートを元に戻して下車したのには感心した。
さてここまで来れば、もうグリーン車に乗る客はいない。駅に着いて、グリーン車の前に乗客がいても、彼らはここを避けてほかの車両に乗る。それが愉快だ。
18時06分、電車は定刻に東京に着いた。あとは最寄り駅に帰るだけなのか…。半分消沈していると、エキナカで駅弁大会があり、いまはタイムセール中とかで、おぎのやの「峠の釜めし」が、200円引きの700円で販売されていた。私は嬉々として、3つ買う。しかしこれ、私は得をしたのだろうか。なんだか、損をしたような気もする。
宴は終わった。これで本当に、あとは家へ帰るだけである。「青春18きっぷの旅」後半は、新年1月7日~9日である。
(12日につづく)