きのう1日に行われた倉敷藤花戦挑戦者決定戦、中井広恵女流六段と矢内理絵子女流四段の一戦は、96手にて矢内女流四段の勝ち。2005年以来の三番勝負登場を決めた。きょうはこの一戦を振り返る。
今期の倉敷藤花戦も、私はLPSA現役女流棋士を対象に「勝手にマッカラン勝負」を行った。結果は中井女流六段ただひとりが、私の提示した条件(本戦3連勝)をクリアした。
ところが中井女流六段は当ブログを読んでいないので、うまくやればしらばっくれることもできそうだ。
しかしそうはうまくいかず、棋友が中井女流六段に知らせたそうだ。余計なことをしてくれる。すると中井女流六段は、お酒はあまり飲まないので、ほかの商品が欲しい、と回答したらしい。
本局に中井女流六段が勝ち、さらにタイトルまで奪取するようだと、中井女流六段からの所望もとんでもないことになりそうだがそこはそれ、とりあえずは中井女流六段の勝利を祈った。
中井の先手で▲2六歩。やや珍しいか。△3四歩▲7六歩△4四歩。あれっ? と私は首を傾げる。矢内は何を指すつもりなのだろう。
▲4八銀に△3二飛! 何と、いまは珍しくなった、角道を止めるふつうの三間飛車だった。負ければ敗着とも言われかねない、意表の一着だ。
先日植山悦行七段は、「後手三間飛車は勝てません」といった。「△3二飛」を見て、中井は己の勝利を確信しただろう。
対三間飛車では、中井は十中八九、一目散に穴熊に囲う。いわゆる「中井システム」である。果たして本局もそうなった。
矢内も、自分が三間に振れば、中井がそう来ることを予想していただろう。しかしそれにしては、矢内にこれといった工夫が見られなかった。
中井は難なく玉を囲い、▲7八金右まで、ガチガチの穴熊を完成させる。しかし勝敗を知っているから書くわけではないが、この手は▲7八飛の筋などを消して、ちょっと固めすぎの気もした。
矢内の△6五歩に、中井は再び▲7七角。私の棋力でプロの将棋を批評することは無理なのだが、この手には違和感を覚えた。△6四銀の進出には▲4四角出を見ているが、何となく利かされた気がする。
対して△8四角と出た手が素朴な好手。▲5七銀取りが妙に受けにくいのだ。▲6八金寄や▲6八角はバカバカしくて指せないし、▲5八飛では元気が出ない。▲6六歩はプロとして当然だが、矢内は△7三桂。
中井はやむなく▲6七金と上がったが、これで穴熊が弱体化した。
ここで矢内は△1二香! 遠い将来の▲1一角成を避けたものだが、手を渡すなら△9四歩と懐を拡げたいところ。この辺の感覚は独特である。
▲8六角△6六歩▲同銀△6五歩。ここで中井は当然のごとく▲5七銀と引いたが、強く▲6五同銀はなかったか。△同桂▲6六歩は先手無理気味だが、△6五に位を張られ、以下△6四銀と出られた形も、居飛車が不満である。
先手は6筋から動き、むずかしい戦いになった。戦いが始まれば、穴熊の遠さ(固さではない)が生きる。
中井は3筋に飛車を展開し、▲3四飛と△3三桂取りに飛び出す。これはハッキリ悪手。敗着と思う。
矢内は当然ながら、勇躍△4五桂と跳ぶ。この銀取りが気持ちいい。振り飛車党なら手がしなるところである。中井が△3二歩▲4四飛の展開を考えていたとは思えぬがこの辺り、何か誤算があったとしか思えない。
銀が逃げれば△6六歩があるから中井は▲6六銀とぶつけるが、△同銀▲同金に△5七飛成の金取りが幸便。繰り返すが、これが中井の予定だったとは思えない。
中井は一本▲6二歩だが、この手も一長一短。将来の△6六歩に、▲6八歩が利かなくなるからだ。
矢内は△7一金と寄り、相手にしない。この辺り、1992年3月2日に行われた、谷川浩司竜王・王位・棋聖・王将対大山康晴十五世名人のA級順位戦最終局を思い出した。
中井は▲7五金と角取りに出るが、△8四角はもうだいぶ働いたから、矢内としては、穴熊の金との交換は大歓迎。何より7筋の歩が切れたのが大きいのだ。この局面で駒の損得はないが、▲2九桂と△4五桂、▲3四飛と△5七竜の差に加え、先手の持ち駒「歩3」がほとんど意味がなくなったのに対し、後手の持ち駒「歩3」が、俄然輝きを放ってきたのである。
▲7五金を尻目に、矢内は早速△7八歩。中井は▲6九金とよろけるが、矢内の△7一金と違い、こちらは泣きたい辛抱だ。
矢内△7九銀。こうやって駒を剥がしにいくのがよいのだ。こういう展開になっては、穴熊といえども受けはない。
90手目△7七歩(最後の歩だ)の好手に、▲9六歩はホントに泣きたいくらいで、私なら投了しているところ。最後は矢内が綺麗に詰め上げた。
中井は女流王将戦に続いて、本局でも残念な敗戦となった。しかし切り替えの早い中井のこと、心は次の対局に向かっているだろう。
対して矢内は、終わってみれば、終始落ち着いた指し回しだった。本局のみで「ニュー矢内」を断定することはできないが、これは里見香奈倉敷藤花との三番勝負が楽しみになった。
本局、もし中井女流六段が勝っていれば、第2局か3局で行われるであろう倉敷での公開対局に、私も応援に行かなければならない雰囲気になっていた。
物事は何でもいいほうに考えなければならない。中井女流六段の敗退は残念だったが、小さくない交通費の出費がなくなって、私は助かったのだ、と考えることにした。
あ、「勝手にマッカラン勝負」の賞品購入がまだ残っていた…。
今期の倉敷藤花戦も、私はLPSA現役女流棋士を対象に「勝手にマッカラン勝負」を行った。結果は中井女流六段ただひとりが、私の提示した条件(本戦3連勝)をクリアした。
ところが中井女流六段は当ブログを読んでいないので、うまくやればしらばっくれることもできそうだ。
しかしそうはうまくいかず、棋友が中井女流六段に知らせたそうだ。余計なことをしてくれる。すると中井女流六段は、お酒はあまり飲まないので、ほかの商品が欲しい、と回答したらしい。
本局に中井女流六段が勝ち、さらにタイトルまで奪取するようだと、中井女流六段からの所望もとんでもないことになりそうだがそこはそれ、とりあえずは中井女流六段の勝利を祈った。
中井の先手で▲2六歩。やや珍しいか。△3四歩▲7六歩△4四歩。あれっ? と私は首を傾げる。矢内は何を指すつもりなのだろう。
▲4八銀に△3二飛! 何と、いまは珍しくなった、角道を止めるふつうの三間飛車だった。負ければ敗着とも言われかねない、意表の一着だ。
先日植山悦行七段は、「後手三間飛車は勝てません」といった。「△3二飛」を見て、中井は己の勝利を確信しただろう。
対三間飛車では、中井は十中八九、一目散に穴熊に囲う。いわゆる「中井システム」である。果たして本局もそうなった。
矢内も、自分が三間に振れば、中井がそう来ることを予想していただろう。しかしそれにしては、矢内にこれといった工夫が見られなかった。
中井は難なく玉を囲い、▲7八金右まで、ガチガチの穴熊を完成させる。しかし勝敗を知っているから書くわけではないが、この手は▲7八飛の筋などを消して、ちょっと固めすぎの気もした。
矢内の△6五歩に、中井は再び▲7七角。私の棋力でプロの将棋を批評することは無理なのだが、この手には違和感を覚えた。△6四銀の進出には▲4四角出を見ているが、何となく利かされた気がする。
対して△8四角と出た手が素朴な好手。▲5七銀取りが妙に受けにくいのだ。▲6八金寄や▲6八角はバカバカしくて指せないし、▲5八飛では元気が出ない。▲6六歩はプロとして当然だが、矢内は△7三桂。
中井はやむなく▲6七金と上がったが、これで穴熊が弱体化した。
ここで矢内は△1二香! 遠い将来の▲1一角成を避けたものだが、手を渡すなら△9四歩と懐を拡げたいところ。この辺の感覚は独特である。
▲8六角△6六歩▲同銀△6五歩。ここで中井は当然のごとく▲5七銀と引いたが、強く▲6五同銀はなかったか。△同桂▲6六歩は先手無理気味だが、△6五に位を張られ、以下△6四銀と出られた形も、居飛車が不満である。
先手は6筋から動き、むずかしい戦いになった。戦いが始まれば、穴熊の遠さ(固さではない)が生きる。
中井は3筋に飛車を展開し、▲3四飛と△3三桂取りに飛び出す。これはハッキリ悪手。敗着と思う。
矢内は当然ながら、勇躍△4五桂と跳ぶ。この銀取りが気持ちいい。振り飛車党なら手がしなるところである。中井が△3二歩▲4四飛の展開を考えていたとは思えぬがこの辺り、何か誤算があったとしか思えない。
銀が逃げれば△6六歩があるから中井は▲6六銀とぶつけるが、△同銀▲同金に△5七飛成の金取りが幸便。繰り返すが、これが中井の予定だったとは思えない。
中井は一本▲6二歩だが、この手も一長一短。将来の△6六歩に、▲6八歩が利かなくなるからだ。
矢内は△7一金と寄り、相手にしない。この辺り、1992年3月2日に行われた、谷川浩司竜王・王位・棋聖・王将対大山康晴十五世名人のA級順位戦最終局を思い出した。
中井は▲7五金と角取りに出るが、△8四角はもうだいぶ働いたから、矢内としては、穴熊の金との交換は大歓迎。何より7筋の歩が切れたのが大きいのだ。この局面で駒の損得はないが、▲2九桂と△4五桂、▲3四飛と△5七竜の差に加え、先手の持ち駒「歩3」がほとんど意味がなくなったのに対し、後手の持ち駒「歩3」が、俄然輝きを放ってきたのである。
▲7五金を尻目に、矢内は早速△7八歩。中井は▲6九金とよろけるが、矢内の△7一金と違い、こちらは泣きたい辛抱だ。
矢内△7九銀。こうやって駒を剥がしにいくのがよいのだ。こういう展開になっては、穴熊といえども受けはない。
90手目△7七歩(最後の歩だ)の好手に、▲9六歩はホントに泣きたいくらいで、私なら投了しているところ。最後は矢内が綺麗に詰め上げた。
中井は女流王将戦に続いて、本局でも残念な敗戦となった。しかし切り替えの早い中井のこと、心は次の対局に向かっているだろう。
対して矢内は、終わってみれば、終始落ち着いた指し回しだった。本局のみで「ニュー矢内」を断定することはできないが、これは里見香奈倉敷藤花との三番勝負が楽しみになった。
本局、もし中井女流六段が勝っていれば、第2局か3局で行われるであろう倉敷での公開対局に、私も応援に行かなければならない雰囲気になっていた。
物事は何でもいいほうに考えなければならない。中井女流六段の敗退は残念だったが、小さくない交通費の出費がなくなって、私は助かったのだ、と考えることにした。
あ、「勝手にマッカラン勝負」の賞品購入がまだ残っていた…。