一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

女流王座戦第1局を見て

2012-10-20 01:50:46 | 女流棋戦
きのう19日から、第2期女流王座戦五番勝負がいよいよ始まった。
対局者は、現役奨励会1級の加藤桃子女流王座と、女流棋士生活21年目にして初めての大舞台登場となる、本田小百合女流三段。第2期開幕前ではほとんど考えられなかったカードとなった(失礼)。しかしそのぶん、フレッシュといえる。
きょうはその第1局を振り返ってみる。

私は現役奨励会員の実力を過大評価しているので、今シリーズは加藤の防衛と見ていた。本田が奪取する可能性があるとすれば、第1局を快勝して、加藤の焦りを誘う意外にないと思った。つまり本局は私にとって、シリーズの行方を左右する重要な一局だったのだ。
振り駒で本田が先手番を引き、初手▲7六歩。加藤は△3四歩と応じ、以下相居飛車の出だしとなった。
14手目△8六同飛。ここで本田は▲2六飛と穏やかに引く。しかしこれが精神的な敗着。
女ならここは、断乎▲3四飛と取らなければならなかった。前述のとおり、本田はタイトル戦初登場、本局は記念すべき第1局である。とするならば、本田は本局で、タイトル戦に懸ける意気込みを指し手で示さねばならなかった。
然るに▲2六飛とは、何たる手。こんな「棋士生活50年」のような手を指しているようでは、未来がない。
加藤は△8五飛と引いて、すでに十分。▲9六歩に△2五歩と打つ。本田は▲5六飛。さあここだ。加藤が△2五歩と打ったからには、▲5六飛も視野に入れていたはず。しかし飛車成りを受ける△5二玉、△6二玉、△6二金、△6二銀等は、いずれも形が悪く指し切れない。いわゆる利かされというやつで、プロはこういう手を最も嫌う。
加藤は角を換えて△4五角。飛車成りを受けないところはさすがだと思った。本局で、私が最も感心した一手である。ちなみに私なら、ノータイムで△6二玉と上がっていた。
本田は飛車を成り、王手。以下横歩取り△4五角戦法の変化のような形になり、△3三桂まで。
この局面を見ると、通常の△4五角戦法に比べて、後手が歩損をしておらず、無条件で銀香交換の駒得になっている。△4五角戦法なら、ここで▲3六香という手が利くのだが、△3四歩があるため、不可。△2八歩▲同銀の交換がないから、△2七角成も生じている。バカに後手が優勢な局面になったのである。
本田は予定とばかり▲8五飛。もし△8二歩なら▲3三馬△同金▲4五飛と桂得して先手十分、という読みだろうが、△4五角戦法で▲8五飛などという変化は見たことがない。ということは、これも疑問手の可能性が高かった。
ここで再び、加藤の強手が出た。△2七角成! 上の変化でも、▲4五飛の形が中途半端だから後手も指せると思うが、加藤はさらに踏み込んだのだ。
本田、▲8五飛と打った趣旨に則って▲8一飛成だが、これが実質的な敗着。次の一手が厳しかった。
△6九銀!!
△4九馬▲同玉△6九飛なら、▲5九角で凌いでいると読んでいたら、思わぬところへ銀が飛んできたのだ。本田はこの手を見て、意外な厳しさに長考に沈む。しかし時すでに遅かった。読めば読むほど激痛で、思わしい受けがないのだ。何と、これで将棋は終わっていた。
この手があるなら、▲8一飛成では▲2八歩や▲3八銀など、まだ対処法はあったのだが、△6九銀を見落としていたのだからしょうがない(この銀は軽視していたのではなく、あくまでも見落としである。△6九銀に気付けば、その厳しさが瞬時に分かったはずだから)。
さあ弱った、というところで、私ならここで、投了する。米長邦雄永世棋聖なら、「いやあ、△6九銀を見落としてました。これはここまでにしておきましょう」と言うところ。
何しろ、ここから相手は楽しい時間を過ごし、自分は苦しい時間を過ごすことになる。それでいて逆転の目はないのだ。相手にいい思いをさせない、というのも重要なことである。残り1分まで考えて、「あなたの指したい手は全部読みました。でもその手は指させませんから」と投了してしまうのがよいのだ。
ただ、主催社の立場もあるし、本田は指し継いだ。49手目▲4五桂。こんな手を指すくらいなら本当に投了したほうがよかったと思うが、54手目△7五金まで、本田が駒を投じた。
本局、加藤の序中盤の指し回しが素晴らしく、これ以上ないスタートとなった。疲労もほとんどなく、プロ野球プレーオフの、アドバンテージのような1勝になったと思われる。
一方の本田は、痛いスタートとなった。本来本田は、玉を固めて筋よく攻める手厚い棋風だ。それと急戦調の将棋は肌に合っていないと思うが、相手が居飛車党なら、それ系統の将棋は避けて通れない。
なんだか先は暗いが、このままズルズル負けて、やっぱり里見香奈女流四冠が出てきたほうがよかった、などと言われるのは屈辱だろう。第2局以降は、とにかく女の意地を見せてほしい。
コメント (4)
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