10月24日、杉並区阿佐ヶ谷の「Asagaya LoftA」にて、中倉宏美女流二段、島井咲緒里女流二段、囲碁の万波奈穂(まんなみ・なお)二段、麻雀の涼崎いづみプロのトークショーがあることを知ったのは、将棋ペンクラブ大賞贈呈式の二次会だったか(いや、今月のジョナ研の席だったかもしれない)。
ペンクラブ会員のTag氏、Hak氏らはすでに申し込み済。のちにKun氏、Fuj氏らも参加を表明したが、私はほとんど興味がなかった。
ところが23日、Kun氏のブログを見ると、そのトークショーの告知が再度なされていた。これは予約状況が芳しくないことを物語っている。私は反射的に、ネット予約をしてしまった。心の底では、彼女らのトークを期待していたのかもしれない。スマホのメールに返ってきた予約番号は「62」だった。
24日はふつうに仕事を終え、最寄駅に向かった。山手線池袋回りに乗り新宿で中央線に乗り換えるか、秋葉原から御茶ノ水まで出て中央線を利用するか、ここは思案のしどころだが、私は秋葉原方面に向かった。
秋葉原で総武線(正式名称は中央総武緩行線)に乗り換え、御茶ノ水で降りる。ここから中央線に乗れば、20分近くで阿佐ヶ谷に着く。
ところがその中央線が、信号故障だか何だかで、遅れているという。私がサラリーマンだったときの勤め先は四ッ谷だが、ある月の中央線などは、人身事故等で15回も不通になったことがあった。相変わらず信頼できない中央線である。
全くいい思い出のない四ッ谷をすぎ、新宿着。私はドア付近に立っている。多くの乗客が入れ替わったが、そのとき、おばちゃんのけたたましい声がした。
「ここはケータイを使っちゃいけないところなんだから! ケータイをやめなさいッ!! 電源を切りなさいよッ!!」
うわ…なんだなんだ…。場所は優先席の一隅である。おっしゃることはごもっともだが、何をそんなにカリカリきてるんだ?「ケータイを使うのはやめなさいッ!! こっちは12年半も我慢してたんだから! 街頭ビデオだって、映ってないのは分かってるのヨッ!!」
……。出た…。季節は秋だというのに、頭のおかしいおばちゃんが出た。黒山で声の主は見えないが、反射した窓から見える乗客の表情は、みな強張っている。
中野に着いた。何だか、下車する乗客が多い気がする。これから乗ってくる人はかわいそうだと思う。
果たして、新たな乗客にも、おばちゃんが罵声を浴びせる。
「そこの髪の長い女性! あなた私の言ってることが聞こえないのッ!! ケータイを使うのはやめなさい!」
そこで初めて、乗客の女性が反論した。もっとやれ、と思ったが、そこまで。
さすがに人の波が減っていたので、私はおばちゃんを確認する。おばちゃんはつり革に捕まって、白のチューリップハットをすっぽりとかぶり、その隙間から薄暗い眼でこちらを窺っていた。
今度はこちらの番である。私は意味もなくスマホを取り出して眺めてみた。
「私がこれだけ言ってるのに、ケータイを取り出すってどういうことよ、そこのメガネの人!」
おお、これは私に向かって言っているのか? 私は内心のよろこび?を押し殺して、スマホをいじる。またおばちゃんからの非難が来た。
次も怒鳴ってくるようなら睨み返してやろうと思ったが、おばちゃんはそれ以後黙ってしまった。
と思う間に阿佐ヶ谷である。私が降りると、おばちゃんもそこで下車した。これはおもしろいことになった。
おばちゃんはホームをうろうろしている。そこへ上りの中央線が入線してきた。車内で喚くのがおばちゃんの目的だから、上りに乗り直す可能性はある。
しかしおばちゃんは乗車せず、そのまま改札口方面に歩ていく。いまは6時半ごろか。トークショーの開場は6時半だが、開演は7時半だから、まだ時間がある。私は悪戯心を起こし、彼女を尾けてみることにした。
おばちゃんはエスカレーターをトントンと降りる。私も後を追う。踊り場にあるゴミ箱に、何か捨てた。やはりホームに戻るのだろうか。あ、改札口に向かった。私はポケットをまさぐるが、切符がない。
何とか見つけて、自動改札を抜けた。おばちゃんは北口を出る。え? そこに行くのか? それは私の予期しない行動だった。
(つづく)
ペンクラブ会員のTag氏、Hak氏らはすでに申し込み済。のちにKun氏、Fuj氏らも参加を表明したが、私はほとんど興味がなかった。
ところが23日、Kun氏のブログを見ると、そのトークショーの告知が再度なされていた。これは予約状況が芳しくないことを物語っている。私は反射的に、ネット予約をしてしまった。心の底では、彼女らのトークを期待していたのかもしれない。スマホのメールに返ってきた予約番号は「62」だった。
24日はふつうに仕事を終え、最寄駅に向かった。山手線池袋回りに乗り新宿で中央線に乗り換えるか、秋葉原から御茶ノ水まで出て中央線を利用するか、ここは思案のしどころだが、私は秋葉原方面に向かった。
秋葉原で総武線(正式名称は中央総武緩行線)に乗り換え、御茶ノ水で降りる。ここから中央線に乗れば、20分近くで阿佐ヶ谷に着く。
ところがその中央線が、信号故障だか何だかで、遅れているという。私がサラリーマンだったときの勤め先は四ッ谷だが、ある月の中央線などは、人身事故等で15回も不通になったことがあった。相変わらず信頼できない中央線である。
全くいい思い出のない四ッ谷をすぎ、新宿着。私はドア付近に立っている。多くの乗客が入れ替わったが、そのとき、おばちゃんのけたたましい声がした。
「ここはケータイを使っちゃいけないところなんだから! ケータイをやめなさいッ!! 電源を切りなさいよッ!!」
うわ…なんだなんだ…。場所は優先席の一隅である。おっしゃることはごもっともだが、何をそんなにカリカリきてるんだ?「ケータイを使うのはやめなさいッ!! こっちは12年半も我慢してたんだから! 街頭ビデオだって、映ってないのは分かってるのヨッ!!」
……。出た…。季節は秋だというのに、頭のおかしいおばちゃんが出た。黒山で声の主は見えないが、反射した窓から見える乗客の表情は、みな強張っている。
中野に着いた。何だか、下車する乗客が多い気がする。これから乗ってくる人はかわいそうだと思う。
果たして、新たな乗客にも、おばちゃんが罵声を浴びせる。
「そこの髪の長い女性! あなた私の言ってることが聞こえないのッ!! ケータイを使うのはやめなさい!」
そこで初めて、乗客の女性が反論した。もっとやれ、と思ったが、そこまで。
さすがに人の波が減っていたので、私はおばちゃんを確認する。おばちゃんはつり革に捕まって、白のチューリップハットをすっぽりとかぶり、その隙間から薄暗い眼でこちらを窺っていた。
今度はこちらの番である。私は意味もなくスマホを取り出して眺めてみた。
「私がこれだけ言ってるのに、ケータイを取り出すってどういうことよ、そこのメガネの人!」
おお、これは私に向かって言っているのか? 私は内心のよろこび?を押し殺して、スマホをいじる。またおばちゃんからの非難が来た。
次も怒鳴ってくるようなら睨み返してやろうと思ったが、おばちゃんはそれ以後黙ってしまった。
と思う間に阿佐ヶ谷である。私が降りると、おばちゃんもそこで下車した。これはおもしろいことになった。
おばちゃんはホームをうろうろしている。そこへ上りの中央線が入線してきた。車内で喚くのがおばちゃんの目的だから、上りに乗り直す可能性はある。
しかしおばちゃんは乗車せず、そのまま改札口方面に歩ていく。いまは6時半ごろか。トークショーの開場は6時半だが、開演は7時半だから、まだ時間がある。私は悪戯心を起こし、彼女を尾けてみることにした。
おばちゃんはエスカレーターをトントンと降りる。私も後を追う。踊り場にあるゴミ箱に、何か捨てた。やはりホームに戻るのだろうか。あ、改札口に向かった。私はポケットをまさぐるが、切符がない。
何とか見つけて、自動改札を抜けた。おばちゃんは北口を出る。え? そこに行くのか? それは私の予期しない行動だった。
(つづく)