一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

大野七段VS和田あき女流初段の公開対局(中編)

2014-12-21 00:04:44 | 将棋イベント

△6六歩▲同金△9七歩▲4八飛△6五銀(第3図)

大野八一雄七段、和田あき女流初段とも、開始当初から正座の姿勢は変わらない。棋譜読み上げ氏と秒読み係氏はシビレが来たが、脚をモジモジさせている。
大野七段は△6六歩と取り込んだ。しかしこれが、秒読みに焦った疑問手だったというから将棋は難しい。でもそんなことはこちらは分からないから、対局中は、上手十分だと信じていた。
△9七歩の垂らしに、和田女流初段が考慮中、こちらの持ち時間も切れた。この複雑な局面で1手30秒はつらい。しかしそこで乱れないのがプロなのだ。
この歩には応接せず、和田女流初段は▲4八飛と、攻めの力を蓄える。しかし5七の地点がいかにもあぶない。解説の植山悦行七段も飛車金接近を危惧する。
果たして大野七段は△6五銀とぶつけた。が、これも勝気に逸った疑問手で、これで決定的に差が付いた。…と分かったのは、これも局後のこと。対局中は、あきちゃんどうするのだろうとハラハラした。

▲6二歩△同飛▲6三歩△同飛▲6四歩△同飛▲5五金△6一飛▲4四歩△4二金▲4五銀△4七歩▲同飛△4五桂▲同桂△5二金引▲6二歩△同飛(第4図)

▲6二歩からの連打が習いある筋。▲5五金と飛車取りに出て、天王山の金が輝いている。
△6一飛に、▲4四歩が気持ちいい一手。一局の中でこういう手はなかなか指す機会がない。そしてゆうゆうと▲4五銀と出た。
植山七段「やっぱり▲4五桂は危険と見たわけですね。桂は渡せない、と(△9六桂がある)。でも飛車角金銀桂で攻めているから、下手好調ですね」
△4七歩。下手にみすみす1歩を渡すだけに、植山七段は意味を図りかねているふうだったが、対局者なりの深い読みがあるのだろう。
結局△4五桂と取ったが、▲同桂がまた金当たり。▲6二歩△同飛と再び呼んで、次に軽い決め手がある。

▲4三歩成△同金直▲6二角成△同金▲6五金△6九角▲4八飛△5七銀▲2八飛△4四歩▲3三歩△同銀▲同桂成△同金▲2五桂△9六桂▲7九玉△5八銀成▲3三桂成△同玉
▲3一飛△3二桂▲4三金(投了図)
まで、116手で和田女流初段の勝ち。

室内に、秒読み係氏の明瞭な声がとどろく。
▲4三歩成が当然とはいえ好手だった。やむない△同金直に▲6二角成と飛車を取り、飛車のヒモが外れた銀をボロッと取ったのが大きい。
和田女流初段はゴリゴリ攻めに定評があるが、本局は実にスマートな攻めで、成長の跡が見て取れる。本局76手目からの進行も、ダンスの歩を見ているかのようだった。
「もう上手、『やるたなし』です」
と植山七段はサジを投げたが、私たちはこういう局面から上手の手練手管で、何度も誤魔化されているのだ。和田女流初段だって気を引き締めねばならない。
大野七段は△6九角~△5七銀と飛車を攻めるが、和田女流初段は冷静に対処し、手順に▲2八飛と逃げた形が好位置だ。
大野七段は△4四歩とゲタを預けたが、和田女流初段は▲3三歩から銀桂交換し、さらに▲2五桂と追撃し、素人目にも筋に入ったのが分かった。
しかし△9六桂から△5八銀成が、△7八角成~△6八金の詰めろ。私が対局者だったらアワを食って、受けにならない受けで逆転負けするところ。しかし植山七段は和田女流初段を信用していて、少しも慌てるそぶりはなかった。
▲3一飛△3二桂に、▲4三金が最後の好手。この金を見つめること数秒、大野七段が投了した。以下は△同玉に▲2三飛成で、簡単な追い詰めである。
会場に大きな拍手がおこる。しばし口頭で感想戦が行われ、大野七段が棋譜読み上げ氏に何事かを語りかけた。△6六歩がマズかった…? という感じだった。
場所を大盤に移し、改めて感想戦。仕掛けから、△6六歩~△6五銀のあたりを中心に行われた。大野七段が悔やんだのもここで、七段は「△6六歩が敗着」と切り捨てた。
△6六歩▲同金を決めたために忙しくなったからだが、これに代わる手も難しい。△7五歩なども検討されたが、よく分からなかった。
もっともプロ相手に角を落としているのだから、そう上手がうまくはならない。ただ、面白い形勢に持って行っただけに、大野七段には悔やまれることが多かったのだろう。
ここで色紙のプレゼントタイム。今回は大野七段と和田女流初段が4枚ずつ用意している。当人とじゃんけんをし、勝ち残った人がゲットできるというものだ。
大野七段はもちろん、和田女流初段の色紙はこれから価値が出る。勝ち残った皆さん、おめでとうございます。

さて、午後8時30分からは3棋士の指導対局である。
その間に、大野七段が私に言う。
「△5二金と上がったのは、△4一飛と回る手も含みにしてたんですよ。これで下手に好きに攻めていらっしゃいというね。だけど指してるうち、△6六歩から若々しくいこうと思っちゃった」
「それでいいんじゃないですか。私たちもそれで面白く拝見しましたし」
「そうだね、やっぱり△6五銀とキビキビといかないとね」
最後は自分に言い聞かせるようだった。結果は大野七段に残念だったが、遊び駒のない、好局だったと思う。
(つづく)
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