去る1日(土)に、第2期電王戦・佐藤天彦叡王(名人)とPONANZAの第1局が行われた。
今年の正月に発表した「クイズ・正解は1年後2017」で私は、この二番勝負を「1勝1敗」と予想したが、これは願望が入っている。巷の感覚は、叡王が一番でも入れば上出来、だったと思う。
PONANZA注目の初手は▲3八金。人間同士なら人を食った手で、以前千田翔太六段が永世名人相手に初手▲5八玉を指したことがあるが、▲3八金も相当な悪手である。
これを咎めるなら振り飛車がよく、先手は2八飛がいるから、囲いようがない。
片上大輔六段は自ブログで「糸谷流右玉に囲うか」と書いていたが、それなら後手は先手の作戦をかなり限定できる。
しかし佐藤叡王は△8四歩。指しなれない振り飛車より、自分の将棋を指すことに舵を切ったのだ。
PONANZAは3手目▲7八金とし、初心者みたいな形になった。
以下は通常の進行になったが、これでは初手▲3八金が「通って」しまった。
というところで19手目▲3六歩が波紋の一手。佐藤叡王は△8六歩と合わせ、この歩を取りにきた。
人間同士ならこの手がイヤだから、▲3六歩では▲9六歩と指す。以下△8六歩▲同歩△同飛▲3七銀に△8七歩なら、▲9七角△8二飛▲5三角成で先手優勢だ。
本譜は佐藤叡王が▲3六歩を取り、これは後手が一本取ったと思った。
だが数手進んでみると、先手の駒がずいぶん前戦に出ている。後で分かったのだが、佐藤叡王の△8六歩の合わせがわるかったらしい。もっとも考えてみれば、▲3六歩を取られてPONANZAがわるいのなら、スンナリ取らせない。
むかしは「横歩三年の患い」といって、先手が横歩を取るのは、その間に後手の駒が進出してくるから良くないとされた。
後にこの格言は否定されたが、本局を見るとこの格言も意外に本質を衝いていると思わせた。
以下数手進んで、気が付けばPONANZAが優勢になっていた。
わけても47手目▲6五歩、53手目▲7四歩~▲7七桂が好手だったとされる。とくに▲7四歩と▲7七桂の組み合わせはプロも読めなかったという。
以下▲5五馬まで、佐藤叡王が投了した。先手は次に▲8四歩△9三飛▲9四香があり、指す手がない。また持ち時間も佐藤叡王は1分将棋、対してPONANZAは3時間以上残しており、こちらも大差だった。ただアマ同士なら投了図から△9七馬と指し、最後の一勝負というところ。それで後手が勝つ可能性も高い。
それはともかく本局、PONANZAの快勝だった。先手は▲7四歩の好手はあったが、全体的にふつうの手を指しているように思った。自然に指し、自然に勝ってしまった感じなのである。
それはまるで、対振り飛車に舟囲いから角交換を目指し、気が付けば優勢になっている、中原誠名人の将棋を見ているかのようだった。これは劣勢の局面から逆転勝ちするより、恐ろしい勝ち方といえる。PONANZA、どんどん強くなっている感じである。
名人の敗戦を受け、巷では「現役タイトルホルダーが初めて負けた」と散文的に報道された。だが「名人」は、ほかのタイトルとはちょっと違うと思う。名人は全棋士の目標であり、最高峰だと思う。その名人がコンピューターソフトに平手で負けたことは、将棋界を揺るがす大事件である。現役棋士が初めて負けた時より、私にはインパクトが強かった。
電王戦第2局は5月20日に行われる。今や棋士が負けても、責めるものはいない。佐藤叡王は思う存分戦ってください。
今年の正月に発表した「クイズ・正解は1年後2017」で私は、この二番勝負を「1勝1敗」と予想したが、これは願望が入っている。巷の感覚は、叡王が一番でも入れば上出来、だったと思う。
PONANZA注目の初手は▲3八金。人間同士なら人を食った手で、以前千田翔太六段が永世名人相手に初手▲5八玉を指したことがあるが、▲3八金も相当な悪手である。
これを咎めるなら振り飛車がよく、先手は2八飛がいるから、囲いようがない。
片上大輔六段は自ブログで「糸谷流右玉に囲うか」と書いていたが、それなら後手は先手の作戦をかなり限定できる。
しかし佐藤叡王は△8四歩。指しなれない振り飛車より、自分の将棋を指すことに舵を切ったのだ。
PONANZAは3手目▲7八金とし、初心者みたいな形になった。
以下は通常の進行になったが、これでは初手▲3八金が「通って」しまった。
というところで19手目▲3六歩が波紋の一手。佐藤叡王は△8六歩と合わせ、この歩を取りにきた。
人間同士ならこの手がイヤだから、▲3六歩では▲9六歩と指す。以下△8六歩▲同歩△同飛▲3七銀に△8七歩なら、▲9七角△8二飛▲5三角成で先手優勢だ。
本譜は佐藤叡王が▲3六歩を取り、これは後手が一本取ったと思った。
だが数手進んでみると、先手の駒がずいぶん前戦に出ている。後で分かったのだが、佐藤叡王の△8六歩の合わせがわるかったらしい。もっとも考えてみれば、▲3六歩を取られてPONANZAがわるいのなら、スンナリ取らせない。
むかしは「横歩三年の患い」といって、先手が横歩を取るのは、その間に後手の駒が進出してくるから良くないとされた。
後にこの格言は否定されたが、本局を見るとこの格言も意外に本質を衝いていると思わせた。
以下数手進んで、気が付けばPONANZAが優勢になっていた。
わけても47手目▲6五歩、53手目▲7四歩~▲7七桂が好手だったとされる。とくに▲7四歩と▲7七桂の組み合わせはプロも読めなかったという。
以下▲5五馬まで、佐藤叡王が投了した。先手は次に▲8四歩△9三飛▲9四香があり、指す手がない。また持ち時間も佐藤叡王は1分将棋、対してPONANZAは3時間以上残しており、こちらも大差だった。ただアマ同士なら投了図から△9七馬と指し、最後の一勝負というところ。それで後手が勝つ可能性も高い。
それはともかく本局、PONANZAの快勝だった。先手は▲7四歩の好手はあったが、全体的にふつうの手を指しているように思った。自然に指し、自然に勝ってしまった感じなのである。
それはまるで、対振り飛車に舟囲いから角交換を目指し、気が付けば優勢になっている、中原誠名人の将棋を見ているかのようだった。これは劣勢の局面から逆転勝ちするより、恐ろしい勝ち方といえる。PONANZA、どんどん強くなっている感じである。
名人の敗戦を受け、巷では「現役タイトルホルダーが初めて負けた」と散文的に報道された。だが「名人」は、ほかのタイトルとはちょっと違うと思う。名人は全棋士の目標であり、最高峰だと思う。その名人がコンピューターソフトに平手で負けたことは、将棋界を揺るがす大事件である。現役棋士が初めて負けた時より、私にはインパクトが強かった。
電王戦第2局は5月20日に行われる。今や棋士が負けても、責めるものはいない。佐藤叡王は思う存分戦ってください。