私は去る1月16日にTBSで放送された「結婚したら人生激変!○○の妻たち」をビデオに録り、2月某日に見た。今回の夫婦は渡辺正和五段と、渡辺令恵さんだった。
棋士が誰と結婚しようが構わないが、渡辺五段の場合は異色で、相手は知る人ぞ知る「かるたクイーン」。しかも新婦が22歳年上、かつ渡辺五段が婿に入ってしまうという、格好の週刊誌ネタだったのである(旧姓・吉田)。番組はその新婚生活(実際はもう違うが)を綿密に取材し、将棋を知らない人にはおもしろい番組となった。
が、将棋の世界を知っている人には、疑問だらけの構成だった。
お二人が今もアツアツなのはいいとして、渡辺五段を「崖っぷちの状態」にあるとしたのがどうかと思う。
当時、というか現在渡辺五段は順位戦C級2組に所属していて、放送当時は3勝3敗。番組はこの成績を黄信号と見た。全10局で指し分けは必要、としたのだ。
たしかに5勝すれば絶対に降級はしないが、C級2組は50人を越える大所帯だから、4勝すればまず安全圏である。
ちなみにこの時点で、渡辺五段より成績の悪かった棋士―すなわち2勝(3勝)4敗以下か、3勝3敗でも渡辺五段より順位が下の棋士―は、19人もいた。
局数が進んで残り1、2戦ならともかく、リーグ中盤ゆえ渡辺五段にいくらかの余裕があったはずで、それを「崖っぷち」とは、オーバーな表現だったといわざるを得ない。
さらに書けば、崖っぷちというのは、降級点を2コ持っている棋士が負けが込んできて、リーグを陥落したらフリークラス行き、という場合に使われるのが適当と思う。あるいはフリークラスに陥落して数年が経ち、「引退」がチラついてきた棋士のことを云うと思う。
渡辺五段は降級点を1つ持っているが、同じクラスで降級点持ちは自身も含めて17人いたから、番組の見立てだとこのクラスは崖っぷちだらけになってしまう。
さらに誤解を与える表現があった。番組では順位戦をピラミッドに譬えていて―まあこれは必ず用いられる手法だが―、C級2組の下をアマチュアにし、ここからの降級を「プロ落ち」と表現していた。
これは将棋ファンでもよくある誤解なのだが、棋士は引退しても、プロ棋士である。決してプロの資格は剥奪されない。現役と引退の違い、それは公式戦を指さなくなることだけなのだ。プロ野球選手とは違うのである。よってC級2組の下は、フリークラスか奨励会でなければならない。
番組が演出として、物事をオーバーに描くのは構わない。しかし視聴者に事実誤認を起こさせる演出があってはならないと思う。
日本将棋連盟がこの放送を事前に見たかどうかは知らないが、もし見たなら、「プロ落ち」の表現だけでも改めるよう要望してもらいたかったと思う。
ちなみに渡辺五段の最終成績は5勝5敗。来期はC級2組26位で、15位ランクアップした。番組では今後もこの夫婦の取材を続けるとしていたが、渡辺五段が今期、番組の定義する「崖っぷち」になるか分からないし、どうするのだろう。
棋士が誰と結婚しようが構わないが、渡辺五段の場合は異色で、相手は知る人ぞ知る「かるたクイーン」。しかも新婦が22歳年上、かつ渡辺五段が婿に入ってしまうという、格好の週刊誌ネタだったのである(旧姓・吉田)。番組はその新婚生活(実際はもう違うが)を綿密に取材し、将棋を知らない人にはおもしろい番組となった。
が、将棋の世界を知っている人には、疑問だらけの構成だった。
お二人が今もアツアツなのはいいとして、渡辺五段を「崖っぷちの状態」にあるとしたのがどうかと思う。
当時、というか現在渡辺五段は順位戦C級2組に所属していて、放送当時は3勝3敗。番組はこの成績を黄信号と見た。全10局で指し分けは必要、としたのだ。
たしかに5勝すれば絶対に降級はしないが、C級2組は50人を越える大所帯だから、4勝すればまず安全圏である。
ちなみにこの時点で、渡辺五段より成績の悪かった棋士―すなわち2勝(3勝)4敗以下か、3勝3敗でも渡辺五段より順位が下の棋士―は、19人もいた。
局数が進んで残り1、2戦ならともかく、リーグ中盤ゆえ渡辺五段にいくらかの余裕があったはずで、それを「崖っぷち」とは、オーバーな表現だったといわざるを得ない。
さらに書けば、崖っぷちというのは、降級点を2コ持っている棋士が負けが込んできて、リーグを陥落したらフリークラス行き、という場合に使われるのが適当と思う。あるいはフリークラスに陥落して数年が経ち、「引退」がチラついてきた棋士のことを云うと思う。
渡辺五段は降級点を1つ持っているが、同じクラスで降級点持ちは自身も含めて17人いたから、番組の見立てだとこのクラスは崖っぷちだらけになってしまう。
さらに誤解を与える表現があった。番組では順位戦をピラミッドに譬えていて―まあこれは必ず用いられる手法だが―、C級2組の下をアマチュアにし、ここからの降級を「プロ落ち」と表現していた。
これは将棋ファンでもよくある誤解なのだが、棋士は引退しても、プロ棋士である。決してプロの資格は剥奪されない。現役と引退の違い、それは公式戦を指さなくなることだけなのだ。プロ野球選手とは違うのである。よってC級2組の下は、フリークラスか奨励会でなければならない。
番組が演出として、物事をオーバーに描くのは構わない。しかし視聴者に事実誤認を起こさせる演出があってはならないと思う。
日本将棋連盟がこの放送を事前に見たかどうかは知らないが、もし見たなら、「プロ落ち」の表現だけでも改めるよう要望してもらいたかったと思う。
ちなみに渡辺五段の最終成績は5勝5敗。来期はC級2組26位で、15位ランクアップした。番組では今後もこの夫婦の取材を続けるとしていたが、渡辺五段が今期、番組の定義する「崖っぷち」になるか分からないし、どうするのだろう。