新庄行き奥羽本線は2両編成。先頭車両に行くと、運転士は女性だった。横に若い運転士がいて、彼がコーチしていた。「前方よし! 最高速度○キロ!」など、女性運転士の口調はハッキリしている。
08時42分、定刻に発車。しばらく走ると、霞城公園のお堀に出た。下から見上げる桜も艶やかだが、運転士の目には入っていないだろう。桜と女性運転士。これは絵になると思ったが、私は着座してしまったので、もう撮れない。絶好のシャッターチャンスを逃した。
タイム21分で天童に着いた。天童に来るのは2008年以来、9年振りである。前回は船戸陽子女流二段と島井咲緒里女流初段の人間将棋だったが、初日は天候不順で、天童市市民文化会館での対局となった。今日、幸い天気は回復したので、予定通り舞鶴山で行われるだろう。
駅前に出ると、シャトルバスが待機していた。でも10時開演なので、まだ時間はある。
スタッフにチラシをもらうと、「舞鶴山山頂まで徒歩30分」と教えてくれた。もちろん私は歩きで行く。舞鶴山は不案内だが、山を目標に行けばいいから分かりやすい。
途中に鳥居があり、ここが舞鶴山への入口になっているらしかった。その先の舗装道路を、さっきのシャトルバスが抜けて行った。
建勲神社は山の中腹にあった。織田信長を祀っているそうだが、ここで深い勉強をしないのが私の甘いところだ。とりあえずお賽銭だけは投じた。
それはそうと、市街の眺めが素晴らしい。ここまでで十分な観光になっているが、山頂はどうなのだろう。山頂までは急斜面だが、登るしかない。私の前を行く3名の男子中学生は軽快で、歳の差を感じた。
山頂に出ると、桜でいっぱいだった。あたりは綺麗に舗装されており、その先はまた斜面になっていた。下を見下ろすと巨大な将棋盤が設えてあり、まさにここが人間将棋会場だった。
階段は座席を兼ねていて、すでに多くの観客が座っていた。手前には、大山康晴十五世名人の書による巨大な王将碑があった。天童は将棋駒の産地なのだ。
私は最後列に腰を下ろすと、10時ちょうど、女性アナウンサーのナレーションがあった。
「本日は第62回天童桜まつりに、ようこそお越しくださいました。このまつりは昭和31年から始まり…。ここ舞鶴山には2,000本の桜が咲き…」
そして今日のスケジュールが案内された。メインはもちろん、13時からの人間将棋・室谷由紀女流二段×中村桃子女流初段である。11時50分からの島井女流二段×山形県小学生名人戦も見逃せない。個人的には15時ごろからの指導対局で、ここは室谷女流二段に教えていただくチャンスである。ただ、いつ、どこで申し込みをすればいいのだろう。
その前に現実的な問題として、ここからでは遠い。人間将棋を高見するのはいいが、私は局面を見たいわけではないのだ。で、ちょっと下に降りる。
10時10分、まずは「将棋供養祭」である。御坊様が何人も登場し、厳かに階段を上る。王将碑の前で般若心経を唱えた。
10時30分から開会式。関係者がズラッと並ぶ中、ピンクの制服の女性に目をひかれた。いわゆる「将棋の女王」である。私は階段をさらに降り、また彼女らに近づいた。
…あれっ? 向かって右手にいるハッピ姿の女性は、室谷由紀ちゃんたちじゃないか?
私がボーッとしている間に、いつの間にか現れた感じだった。
将棋の女王の引継ぎ式である。前女王から花束の贈呈があり、私は何故だかうるうるしてしまう。そして「さっぽろ雪まつり」でのミスさっぽろ引継ぎ式を思い出した。現在は廃止してしまったが、あれは感動的なセレモニーだった。
現実に戻り、今度は出場棋士が紹介された。左から阿部健治郎七段、室谷女流二段、北尾まどか女流二段、中村桃子女流二段、島井女流二段。阿部七段は地元山形県酒田市の出身。今年の春から地元に戻っているという。室谷女流二段は相変わらずの美形で、現・将棋の女王さえしのぐ麗しさだが、女王にも庶民的なかわいらしさがあり、これは好みが分かれるところだ。
今回はトルネギスタンの方が来賓として出席していた。人口は5~600万人、面積は日本の1.3倍で、日本との国交はこの21日で25年になるという。
10時50分からは演舞である。まずは幼稚園児による「ニャー将棋音頭」。アニメ「3月のライオン」の挿入歌らしい。「こま八」なるゆるキャラも出てきて、賑やかに踊る。
幼稚園児はよほどおけいこをしたのか、一糸乱れぬ踊りに驚きを禁じ得ない。音頭は駒の働きを歌ったもので、この曲を覚えれば将棋が指せるというくらいのものだ。
ちびっ子諸君、まことに感動的な踊りだった。
続いて南部小学生による、「維新音楽隊」。
「私たちが通う小学校は、織田藩の城跡に建った小学校です…」
と主将の言葉。総勢30人前後の小学生が、太鼓や笛で演奏する。赤の鉢巻に赤のちゃんちゃんこ?、赤の幟で、何だか知らないが勇壮だ。
続いては北部小学生による「北部太鼓」。こちらも総勢30人前後で、和太鼓の演奏だ。こちらは青の祭りハッピで、南と北、赤と青で対比しているのかもしれない。
小学生の演舞が終わり、私はあたりを散策する。舞鶴山は霞城公園をはるかに凌駕する桜の森だった。しかも枝が低いので、すぐ目の前にキッ、と開いた桜の花がある。空は快晴、絶好の花見日和だ。失職の危機がなかったら、心から楽しめるのにと思う。
会場ではもちろんブースが出ていて、将棋駒関係や天童ワイン、出張郵便局、食事処などがあった。もちろん対局スペースもある。私も一局指したいが、ここで時間を取るわけにはいかない。
私は前夜に買ったおにぎりをほおばった。ここまで天童市には5円しかおカネを使っていないが、仕方ない。
イベント再開。11時50分、島井女流二段と山形県小学生名人・清野君の対決である。私は大盤解説場の近くまで来て観戦する。すぐ前の通路は進入禁止になっているが、ここは歩行者用なのだろう。
まずは出場者にインタビュー。
島井女流二段「今日の風のように、さわやかな将棋にしたいと思います」
そのあと、しっかりネコShogiバトルの宣伝をした。
清野君「悪手を指さないように、正確に指したいです」
阿部七段「今日は解説です。島井さんのパンチに期待します」
北尾女流二段「人間将棋には毎年来ているんですが、今年は桜がすばらしいです」
本局は将棋盤の中央に対局場を配置し、ふつうの対局。島井女流二段の角落ちで対局開始となった。
△6二銀▲7六歩△8四歩▲5八金右。
と、島井女流二段が「左利きとはカッコイイね」と切り出した。
阿部七段「(対局中なのに)…話すんですか!?」
場内に笑いが起こる。
島井女流二段「ここにマイクがあるんで」
DJ・シマイを見るようだった。
(つづく)
08時42分、定刻に発車。しばらく走ると、霞城公園のお堀に出た。下から見上げる桜も艶やかだが、運転士の目には入っていないだろう。桜と女性運転士。これは絵になると思ったが、私は着座してしまったので、もう撮れない。絶好のシャッターチャンスを逃した。
タイム21分で天童に着いた。天童に来るのは2008年以来、9年振りである。前回は船戸陽子女流二段と島井咲緒里女流初段の人間将棋だったが、初日は天候不順で、天童市市民文化会館での対局となった。今日、幸い天気は回復したので、予定通り舞鶴山で行われるだろう。
駅前に出ると、シャトルバスが待機していた。でも10時開演なので、まだ時間はある。
スタッフにチラシをもらうと、「舞鶴山山頂まで徒歩30分」と教えてくれた。もちろん私は歩きで行く。舞鶴山は不案内だが、山を目標に行けばいいから分かりやすい。
途中に鳥居があり、ここが舞鶴山への入口になっているらしかった。その先の舗装道路を、さっきのシャトルバスが抜けて行った。
建勲神社は山の中腹にあった。織田信長を祀っているそうだが、ここで深い勉強をしないのが私の甘いところだ。とりあえずお賽銭だけは投じた。
それはそうと、市街の眺めが素晴らしい。ここまでで十分な観光になっているが、山頂はどうなのだろう。山頂までは急斜面だが、登るしかない。私の前を行く3名の男子中学生は軽快で、歳の差を感じた。
山頂に出ると、桜でいっぱいだった。あたりは綺麗に舗装されており、その先はまた斜面になっていた。下を見下ろすと巨大な将棋盤が設えてあり、まさにここが人間将棋会場だった。
階段は座席を兼ねていて、すでに多くの観客が座っていた。手前には、大山康晴十五世名人の書による巨大な王将碑があった。天童は将棋駒の産地なのだ。
私は最後列に腰を下ろすと、10時ちょうど、女性アナウンサーのナレーションがあった。
「本日は第62回天童桜まつりに、ようこそお越しくださいました。このまつりは昭和31年から始まり…。ここ舞鶴山には2,000本の桜が咲き…」
そして今日のスケジュールが案内された。メインはもちろん、13時からの人間将棋・室谷由紀女流二段×中村桃子女流初段である。11時50分からの島井女流二段×山形県小学生名人戦も見逃せない。個人的には15時ごろからの指導対局で、ここは室谷女流二段に教えていただくチャンスである。ただ、いつ、どこで申し込みをすればいいのだろう。
その前に現実的な問題として、ここからでは遠い。人間将棋を高見するのはいいが、私は局面を見たいわけではないのだ。で、ちょっと下に降りる。
10時10分、まずは「将棋供養祭」である。御坊様が何人も登場し、厳かに階段を上る。王将碑の前で般若心経を唱えた。
10時30分から開会式。関係者がズラッと並ぶ中、ピンクの制服の女性に目をひかれた。いわゆる「将棋の女王」である。私は階段をさらに降り、また彼女らに近づいた。
…あれっ? 向かって右手にいるハッピ姿の女性は、室谷由紀ちゃんたちじゃないか?
私がボーッとしている間に、いつの間にか現れた感じだった。
将棋の女王の引継ぎ式である。前女王から花束の贈呈があり、私は何故だかうるうるしてしまう。そして「さっぽろ雪まつり」でのミスさっぽろ引継ぎ式を思い出した。現在は廃止してしまったが、あれは感動的なセレモニーだった。
現実に戻り、今度は出場棋士が紹介された。左から阿部健治郎七段、室谷女流二段、北尾まどか女流二段、中村桃子女流二段、島井女流二段。阿部七段は地元山形県酒田市の出身。今年の春から地元に戻っているという。室谷女流二段は相変わらずの美形で、現・将棋の女王さえしのぐ麗しさだが、女王にも庶民的なかわいらしさがあり、これは好みが分かれるところだ。
今回はトルネギスタンの方が来賓として出席していた。人口は5~600万人、面積は日本の1.3倍で、日本との国交はこの21日で25年になるという。
10時50分からは演舞である。まずは幼稚園児による「ニャー将棋音頭」。アニメ「3月のライオン」の挿入歌らしい。「こま八」なるゆるキャラも出てきて、賑やかに踊る。
幼稚園児はよほどおけいこをしたのか、一糸乱れぬ踊りに驚きを禁じ得ない。音頭は駒の働きを歌ったもので、この曲を覚えれば将棋が指せるというくらいのものだ。
ちびっ子諸君、まことに感動的な踊りだった。
続いて南部小学生による、「維新音楽隊」。
「私たちが通う小学校は、織田藩の城跡に建った小学校です…」
と主将の言葉。総勢30人前後の小学生が、太鼓や笛で演奏する。赤の鉢巻に赤のちゃんちゃんこ?、赤の幟で、何だか知らないが勇壮だ。
続いては北部小学生による「北部太鼓」。こちらも総勢30人前後で、和太鼓の演奏だ。こちらは青の祭りハッピで、南と北、赤と青で対比しているのかもしれない。
小学生の演舞が終わり、私はあたりを散策する。舞鶴山は霞城公園をはるかに凌駕する桜の森だった。しかも枝が低いので、すぐ目の前にキッ、と開いた桜の花がある。空は快晴、絶好の花見日和だ。失職の危機がなかったら、心から楽しめるのにと思う。
会場ではもちろんブースが出ていて、将棋駒関係や天童ワイン、出張郵便局、食事処などがあった。もちろん対局スペースもある。私も一局指したいが、ここで時間を取るわけにはいかない。
私は前夜に買ったおにぎりをほおばった。ここまで天童市には5円しかおカネを使っていないが、仕方ない。
イベント再開。11時50分、島井女流二段と山形県小学生名人・清野君の対決である。私は大盤解説場の近くまで来て観戦する。すぐ前の通路は進入禁止になっているが、ここは歩行者用なのだろう。
まずは出場者にインタビュー。
島井女流二段「今日の風のように、さわやかな将棋にしたいと思います」
そのあと、しっかりネコShogiバトルの宣伝をした。
清野君「悪手を指さないように、正確に指したいです」
阿部七段「今日は解説です。島井さんのパンチに期待します」
北尾女流二段「人間将棋には毎年来ているんですが、今年は桜がすばらしいです」
本局は将棋盤の中央に対局場を配置し、ふつうの対局。島井女流二段の角落ちで対局開始となった。
△6二銀▲7六歩△8四歩▲5八金右。
と、島井女流二段が「左利きとはカッコイイね」と切り出した。
阿部七段「(対局中なのに)…話すんですか!?」
場内に笑いが起こる。
島井女流二段「ここにマイクがあるんで」
DJ・シマイを見るようだった。
(つづく)