今から浜松町00時34分発の京浜東北線に乗るのは無理である。ゆえに上野まで行先を変更したのはやむを得ない。上野から自宅までも徒歩で35分かかるが、少しでもタクシー代を浮かしたかった。
その乗車料金が気になるが、これは個人タクシーだからか、料金メーターがハッキリ掲示されていなかった。現在速度とか距離とかが、小さい数字で出ていた。
私はしばらくボーッとしていたが、スマホで乗換案内を見た。現在時刻だと「浜松町00時34分」が出たが、その「1本後」をタップした。すると「00時51分」と出てビックリした。これが本当の、浜松町発の最終電車だったのだ!!
だけど、まだ時間はある!!
「すみません運転手さん、行先を浜松町に変更してもらえませんか? 京浜東北線がまだ走っていることが分かったんで!」
私は焦りながら告げる。だが運転手は、
「すみません、それはちょっと…」
と乗り気でない。
どうも、首都高に入っていたらしいのだ。こういうのは客に断らなくても、勝手に利用していいものなのか? だが運転手は
「浜松町も上野もそんなに変わりませんから」
と平然としたものだ。
はあ~!? それは時間的に変わらない、ということだろうか。たわけ!!
こっちは料金のことを言ってるのだ料金のことを!! 浜松町と上野で、料金がほとんど同じということがあるかボケ!
…しまったと思う。浜松町からJRに乗る時、最終電車の「00時51分」は、いつもホームで確認していた。それが今回は、スコーンと頭から抜けていた。
いやそもそも、なぜ新千歳空港で浜松町の最終電車を確認しなかったのか。「浜松町00時34分発」を出したあと、「1本後」をタップするだけでよかったのだ。
いやそれを言うなら、タクシー待ちの時だって、確認する時間はあったのだ。タクシーに乗ってから調べるとは、手順前後も甚だしい。
現在の時刻は0時30分である。やがて左手に東京タワーが見えてきた。これは浜松町か田町あたりだろう。しかし運転手はもちろん、高速を降りない。
私も東京の鉄道路線図はだいたい頭の中に入っているが、高速道路関係は不案内なのだ。
だけど、いくら運転手が高速を降りるのは無理と言っても、浜松町から上野までで、いくつか出口はあっただろう。たとえば銀座あたりに出口はなかったか?
この運転手…。私があの時間に空港から乗ったということは、到着の飛行機にトラブルがあったと認識していたのだろう。となればこのタクシー料金も航空会社が肩代わりするとフンで、私をタクシーから下ろさなかったのかもしれない。
しかし今回の場合、AIR DO!からの謝礼は、定額の10,000円なのだ。コトによったら赤字の可能性も出てくるのだ。
まあ羽田空港から上野までは、せいぜい4~5,000円だろう。しかしそれに高速料金や深夜料金が加われば、6,000円はいってしまう。迷惑料を加味すれば、これでトントンくらいだ。
「お客さん、上野からはご自宅近いんですか。上野に着いたらメーターを下ろしてご自宅までお送りしますよ」
まさか上野から徒歩35分とは言えず、私は断った。運転手はこれがサービスと思っているのかもしれないが、本当のサービスは、浜松町周辺で下ろしてくれることだった。
そういえば、私はなぜ浜松町に拘ってしまったのだろう。
モノレールが浜松町行きだから浜松町という駅名が浮かんだのだが、タクシーの行先は田町でも品川でも、ことによったら蒲田でもよかったのだ。要するに、京浜東北線の最終電車が捕まればよかったのだ。
ああー、新千歳空港で時間はたっぷりあったのに、なぜ私はもっと最善策を講じなかったのか。のんびり旅行日誌を書いているとは、アホの極みだ。
タクシーは上野に着いたが、高速の一部が工事中で、降りられない。
「ここでメーターを止めますね」
「ああ、もうどうでも。もっと手前で下ろしてもらいたかったんですけど」
私は完全に不貞腐れている。この感情が運転手に伝わっているだろうか。
タクシーは高速を降り、地下鉄の入谷駅前に出た。私は上野がゴール地点ではないので、ここで降ろしてもらう。そして注目の料金は、
9,690円
きゅ、きゅうせんろっぴゃくきゅうじゅうえん!?!?!? だった。
一瞬、気が遠くなった。またずいぶんのびのびとした金額である。通常料金に高速料金830円、深夜料金が加算され、80円の値引きがあったものの、この数字になった。バスの回数券を買えば100円安くなるとか、札幌で下車すれば70円安くなるとか、そんな旅行中の細かい節約がすべて吹っ飛ぶほど、この額は大きかった。深謝の10,000円がほぼなくなるとは、完全に想定外だった。
運転手はレシートをくれたが、スマホにも同じものを転送してもらった。意趣返しに、少しでも運転手の手を煩わせたかったからだ。
降車して時刻を見ると、0時51分だった。今まさに、京浜東北線の最終電車が浜松町を出たところだった。
終わり悪けりゃすべて悪し。今回は最後の最後で、とんだミソをつけてしまった。
翌14日(水)。オヤジに前夜の私の行動を話した。羽田空港から仕方なくタクシーを使ったことを言うと、
「大森で降りたのか?」
と返され、凹んだ。大森はかつての得意先の最寄り駅で、自動車利用の際はここから高速を利用したものだ。
大森近辺はJRの駅がある。まり私が最初から「大森」と言っていれば、こんな散財をせずに済んだのだ。
私も長年旅行をしているが、肝心のところは、オヤジの一瞬の判断にも及ばない。いかに自分が無能か、きつく思い知らされた。
またスマホのNAVITIMEで調べたら、各地の標準タクシー料金まで表示され、唸った。
これを見ると、高速道路を使わなかったら、蒲田ではJRに乗れず、ギリギリアウト。しかし高速を使えばどこに行くのも余裕で、京浜東北線の最終電車には乗れたようだ。
こんなわけで、最後にいろいろあったが、確実に言えることが2つあった。
ひとつは、今までは新幹線が最も贅沢な乗り物と信じていたが、それは「タクシー」だったこと。短時間であんなに高額になる乗り物は、タクシー以外に存在しない。
もうひとつは、私用では絶対にタクシーを利用しない、と決めたこと。
自分がこの先、金持ちになることはないが、もし実現しても、もうタクシーはごめんである。とても重宝な乗り物だが、私にとっては心臓に悪い。
その乗車料金が気になるが、これは個人タクシーだからか、料金メーターがハッキリ掲示されていなかった。現在速度とか距離とかが、小さい数字で出ていた。
私はしばらくボーッとしていたが、スマホで乗換案内を見た。現在時刻だと「浜松町00時34分」が出たが、その「1本後」をタップした。すると「00時51分」と出てビックリした。これが本当の、浜松町発の最終電車だったのだ!!
だけど、まだ時間はある!!
「すみません運転手さん、行先を浜松町に変更してもらえませんか? 京浜東北線がまだ走っていることが分かったんで!」
私は焦りながら告げる。だが運転手は、
「すみません、それはちょっと…」
と乗り気でない。
どうも、首都高に入っていたらしいのだ。こういうのは客に断らなくても、勝手に利用していいものなのか? だが運転手は
「浜松町も上野もそんなに変わりませんから」
と平然としたものだ。
はあ~!? それは時間的に変わらない、ということだろうか。たわけ!!
こっちは料金のことを言ってるのだ料金のことを!! 浜松町と上野で、料金がほとんど同じということがあるかボケ!
…しまったと思う。浜松町からJRに乗る時、最終電車の「00時51分」は、いつもホームで確認していた。それが今回は、スコーンと頭から抜けていた。
いやそもそも、なぜ新千歳空港で浜松町の最終電車を確認しなかったのか。「浜松町00時34分発」を出したあと、「1本後」をタップするだけでよかったのだ。
いやそれを言うなら、タクシー待ちの時だって、確認する時間はあったのだ。タクシーに乗ってから調べるとは、手順前後も甚だしい。
現在の時刻は0時30分である。やがて左手に東京タワーが見えてきた。これは浜松町か田町あたりだろう。しかし運転手はもちろん、高速を降りない。
私も東京の鉄道路線図はだいたい頭の中に入っているが、高速道路関係は不案内なのだ。
だけど、いくら運転手が高速を降りるのは無理と言っても、浜松町から上野までで、いくつか出口はあっただろう。たとえば銀座あたりに出口はなかったか?
この運転手…。私があの時間に空港から乗ったということは、到着の飛行機にトラブルがあったと認識していたのだろう。となればこのタクシー料金も航空会社が肩代わりするとフンで、私をタクシーから下ろさなかったのかもしれない。
しかし今回の場合、AIR DO!からの謝礼は、定額の10,000円なのだ。コトによったら赤字の可能性も出てくるのだ。
まあ羽田空港から上野までは、せいぜい4~5,000円だろう。しかしそれに高速料金や深夜料金が加われば、6,000円はいってしまう。迷惑料を加味すれば、これでトントンくらいだ。
「お客さん、上野からはご自宅近いんですか。上野に着いたらメーターを下ろしてご自宅までお送りしますよ」
まさか上野から徒歩35分とは言えず、私は断った。運転手はこれがサービスと思っているのかもしれないが、本当のサービスは、浜松町周辺で下ろしてくれることだった。
そういえば、私はなぜ浜松町に拘ってしまったのだろう。
モノレールが浜松町行きだから浜松町という駅名が浮かんだのだが、タクシーの行先は田町でも品川でも、ことによったら蒲田でもよかったのだ。要するに、京浜東北線の最終電車が捕まればよかったのだ。
ああー、新千歳空港で時間はたっぷりあったのに、なぜ私はもっと最善策を講じなかったのか。のんびり旅行日誌を書いているとは、アホの極みだ。
タクシーは上野に着いたが、高速の一部が工事中で、降りられない。
「ここでメーターを止めますね」
「ああ、もうどうでも。もっと手前で下ろしてもらいたかったんですけど」
私は完全に不貞腐れている。この感情が運転手に伝わっているだろうか。
タクシーは高速を降り、地下鉄の入谷駅前に出た。私は上野がゴール地点ではないので、ここで降ろしてもらう。そして注目の料金は、
9,690円
きゅ、きゅうせんろっぴゃくきゅうじゅうえん!?!?!? だった。
一瞬、気が遠くなった。またずいぶんのびのびとした金額である。通常料金に高速料金830円、深夜料金が加算され、80円の値引きがあったものの、この数字になった。バスの回数券を買えば100円安くなるとか、札幌で下車すれば70円安くなるとか、そんな旅行中の細かい節約がすべて吹っ飛ぶほど、この額は大きかった。深謝の10,000円がほぼなくなるとは、完全に想定外だった。
運転手はレシートをくれたが、スマホにも同じものを転送してもらった。意趣返しに、少しでも運転手の手を煩わせたかったからだ。
降車して時刻を見ると、0時51分だった。今まさに、京浜東北線の最終電車が浜松町を出たところだった。
終わり悪けりゃすべて悪し。今回は最後の最後で、とんだミソをつけてしまった。
翌14日(水)。オヤジに前夜の私の行動を話した。羽田空港から仕方なくタクシーを使ったことを言うと、
「大森で降りたのか?」
と返され、凹んだ。大森はかつての得意先の最寄り駅で、自動車利用の際はここから高速を利用したものだ。
大森近辺はJRの駅がある。まり私が最初から「大森」と言っていれば、こんな散財をせずに済んだのだ。
私も長年旅行をしているが、肝心のところは、オヤジの一瞬の判断にも及ばない。いかに自分が無能か、きつく思い知らされた。
またスマホのNAVITIMEで調べたら、各地の標準タクシー料金まで表示され、唸った。
これを見ると、高速道路を使わなかったら、蒲田ではJRに乗れず、ギリギリアウト。しかし高速を使えばどこに行くのも余裕で、京浜東北線の最終電車には乗れたようだ。
こんなわけで、最後にいろいろあったが、確実に言えることが2つあった。
ひとつは、今までは新幹線が最も贅沢な乗り物と信じていたが、それは「タクシー」だったこと。短時間であんなに高額になる乗り物は、タクシー以外に存在しない。
もうひとつは、私用では絶対にタクシーを利用しない、と決めたこと。
自分がこの先、金持ちになることはないが、もし実現しても、もうタクシーはごめんである。とても重宝な乗り物だが、私にとっては心臓に悪い。