一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

中尾五段の順位戦復帰の目を考える・10「中尾五段、敗れる」

2018-03-28 00:06:16 | 目を考える
昨日27日に行われた、第44期棋王戦予選4回戦・中尾敏之五段と青嶋未来五段の一戦は、青嶋五段の勝ち。中尾五段はフリークラスの10年間で規定の成績を取れず、引退がほぼ決定した。
以下、ネットで拾ったこの一局の模様を、再構築して記す。
本局は、矢倉の出だしだった。昨今矢倉といえば後手の急戦が定番だが、青嶋五段は大人しく追随し、純正相矢倉となった。中尾五段最後の大一番に、青嶋五段は相手の得意を受けて立ったのだ。これは青嶋五段の精一杯の「譲歩」だったと思う。
ただし相矢倉なら中尾五段に一日の長がある。やがて中尾五段が指しやすくなり、有利の局面になった。

ここで中尾五段は▲4四角! 大駒を切って、一気の寄せを目指したのだ。
だが△4四同金▲5三銀△4三金▲1四桂△3一玉▲3三歩の詰めろに、△2一銀と素朴に受けられてみると後手玉に寄りがなく、先手の切れ筋になってしまった。
ネット観戦していた応援団は、あまりの急転直下に、茫然とするのみである。どうも▲4四角が性急で、▲3三歩がトドメの疑問手だったらしい。
何てことだと思う。▲4四角と切る直前まで、中尾五段には持ち時間が2時間以上残っていた。ここはじっくり腰を落とし、どうやって後手玉を寄せようかと構想を練るべきだった。全然慌てる必要はなかったのだ。
そこを短考で突撃してしまったココロが分からないが、恐らく、見えない重圧に、何かをせかされてしまったのだろう。
私は28年前の、第48期順位戦C級2組9回戦・青木清五段(現七段)と中川大輔四段(現八段)の一戦を思い出していた。
この時青木五段は、負ければ順位戦降級の危機だった。だが中盤までうまく指し、有利に運ぶ。そこで大駒を見捨てて決めに出たのだが、最後中川四段に△4三金、という受けの妙手が出て、青木五段は惜敗した。
青木五段も中尾五段も、幻の寄せを見てしまった。中川四段や青嶋五段の俊英が、そんな簡単な寄せを許すはずがなかった。何か受けがある、とその先を読むべきだったのだ。
ちなみに大野教室でも、Ok氏は大駒を切るのが好きで、私との二枚落ち戦などでは、いつも大駒を切っていた。
が、そこでカナ駒を入手して王手しても、いつも一歩足りずため息をついていた。そういう時私は、
「終盤で大駒を切るのはいいけど、それはどういう変化になっても自分が勝ち、と読み切った時にしてください」
と口を酸っぱくしてアドバイスしたものだ。
しかしプロが同じ過ちを犯したんではしょうがない。しかも本局は中尾五段にとって、負ければ引退という崖っ淵の一戦だった。慎重に慎重を重ねるべきだった。
戻って図では、▲3七桂がよかったらしい。だがこの桂は1四に打つ構想で読みを進めていたのだ。とうてい打てるものではなかった。
実戦は△2一銀の局面で中尾五段が長考に入ったが、もう遅い。悪くなってから考える。それじゃあ私たちとやってることが同じである。
以下は中尾五段も奮戦したが、プロ的には逆転不可能である。私は確認しなかったが、午後7時過ぎに投了したらしい。
無念である。私はフリークラス棋士の頑張りを見るのが好きで、昨年の初冬から中尾五段の戦いぶりに注目していた。佐藤康光九段戦は246手の死闘を制し、この粘りは何だ、この熱意があれば順位戦復帰も十分あると、私は期待を寄せた。その後も所司和晴七段戦は226手で勝利。そして極め付きが、牧野光則五段との、420手の持将棋だったのである。
それが最後の最後でフイになった。ああ、私は3年前の熊坂学五段の悪夢を、再び見てしまった。
先日の藤原直哉七段もそうだが、「年度18勝」の壁は、絶妙に厚い。年度中盤までは好調でも、終盤にくると勝ったり負けたりになり、最後は息切れして、あと1勝が届かない。本当にフリークラスからの脱出はむずかしい。
ただ、中尾五段にはまだ、竜王戦6組の昇級者決定戦がある。この勝ち進みによっては順位戦復帰の可能性もないとはいえないが、その一方でフリークラス満10年をもって引退、の見解もあり、私はどちらが正解か分からない。
とりあえず中尾五段の2017年度の全成績を掲げ、健闘を讃えておく。
中尾先生、ここまで、お疲れ様でした。

◎2017年度全成績
5月9日 第30期竜王ランキング戦6組昇級者決定戦1回戦 ○木下浩一七段
6月1日 第30期竜王ランキング戦6組昇級者決定戦2回戦 ○堀口弘治七段
6月8日 第89期棋聖戦一次予選1回戦 ●小林宏七段
6月14日 第3期叡王戦五段戦1回戦 ○金沢孝史五段
7月24日 第30期竜王ランキング戦6組昇級者決定戦3回戦 ●牧野光則五段
7月30日 第26回銀河戦予選1回戦 ○室岡克彦七段
7月30日 第26回銀河戦予選決勝 ●村山慈明七段
8月1日 第3期叡王戦五段戦2回戦 ●高見泰地五段
8月9日 第59期王位戦予選1回戦 ○室岡克彦七段
8月31日 第11回朝日杯将棋オープン戦一次予選1回戦 ○上田初美女流三段
8月31日 第11回朝日杯将棋オープン戦一次予選2回戦 ○野月浩貴八段
9月5日 第59期王位戦予選2回戦 ●佐々木勇気六段
9月11日 第66期王座戦一次予選1回戦 ○木下浩一七段
10月3日 第66期王座戦一次予選2回戦 ●高野秀行六段
10月19日 第11回朝日杯将棋オープン戦一次予選3回戦 ○門倉啓太五段
11月14日 第11回朝日杯将棋オープン戦一次予選決勝 ○高橋道雄九段
12月14日 第31期竜王ランキング戦6組1回戦 ○香川愛生女流三段
12月21日 第11回朝日杯将棋オープン戦二次予選1回戦 ○佐藤康光九段
12月21日 第11回朝日杯将棋オープン戦二次予選決勝 ●高見泰地五段
12月25日 第44期棋王戦予選1回戦 ○川上猛七段
1月11日 第68期王将戦一次予選1回戦 ○中座真七段
1月23日 第44期棋王戦予選2回戦 ○飯塚祐紀七段
2月3日 第31期竜王ランキング戦6組2回戦 ○所司和晴七段
2月8日 第68期王将戦一次予選2回戦 ●宮田敦史六段
2月19日or23日 第68回NHK杯テレビ将棋トーナメント予選1回戦 ●佐藤慎一五段
2月27日 第31期竜王ランキング戦6組3回戦 持●牧野光則五段
3月22日 第44期棋王戦予選3回戦 ○日浦市郎八段
3月27日 第33期棋王戦予選4回戦 ●青嶋未来五段
以上、17勝11敗。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする