第3図以下の指し手。▲8五桂△同飛▲8六飛△同飛▲同歩△8二飛▲8七金△4四歩▲6八銀△4三金▲7六金(第4図)
私は「これが悪い手なのは分かってるんですよ。分かってるんだけど行っちゃう」と、▲8五桂と跳ねた。△8五同飛に▲8六飛。桂を犠牲に飛車交換を挑み、飛車の打ち合いは下手がいい。口ではああ言ったがこの開戦、そんなに悪くないと思った。
ところが渡部愛女流二段に飛車交換に応じられ、「逆に打たれちゃ悪いから」と自陣に飛車を打たれてみると、下手が悪いことに気付いた。上手陣にまったくスキがなく、下手の桂損のみがクローズアップされたのだ。
私は歩を守って▲8七金だが、これでは失敗を自認した。
第4図以下の指し手。△3三角▲8五歩△6二銀▲3六歩△4五歩▲7七銀△7四歩▲8七飛△7五歩▲同金△7二飛▲7六歩(第5図)
右の男性は二枚落ちだが、落ち着いて指している。奥の年配の男性は角落ちだったか飛車落ちだったか。あちらも下手は悪くなさそうだ。
渡部女流二段はスキを作らない。△3三角~△6二銀はそれに則った自陣整備だ。「桂持ってるけど動けない」と渡部女流二段が嘆く。しかしこれが三味線なのは承知している。
私も着々と駒を進めたが、桂損が大きく、まったく自信はない。
△7四歩。これに▲同歩は△同銀▲7五歩△8五銀で上手優勢。よって私は▲8七飛と据えた。私のほうは、「根性の自陣飛車」である。
△7五歩▲同金△7二飛に、▲7四歩は△同銀なので、私は▲7六歩と屈服する。しかし金と歩が逆で、これは勝てない流れになってしまった。
が、渡部女流二段にも誤算があった。
第5図以下の指し手。△7四歩▲8四金△7五歩▲同歩△同飛▲7六歩△7一飛▲6六歩△5二金▲8三金△4一飛(第6図)
第5図から渡部女流二段は△7四歩。当然の手に見えたが、「あ、そっかー」と言う。やむない▲8四金に「△8二飛と(指そうと)思ったら…」とつぶやき、「▲8三金があるんですね」と続けた。
すなわち▲8四金には△8二飛で、次に△8三歩の金得を見ていいと思ったら、逆に▲8三金と突っ込む手があったというわけだ。以下△8三同飛▲8四歩A△8二飛▲8三歩成で下手もおもしろい。
が、A△8二飛ではB△7三飛▲8三歩成△7一飛があるし、C△7八金もある。以下▲8三歩成△8八金▲同銀△5五角打(参考1図)で、上手が指せそうに見える。
参考1図以下は▲7二と△8八角成▲同飛△同角成▲6二と△同金▲8二飛が一例だが、とにかく上手は△8二飛と指す価値はあったのではないか。
ただし▲8四金を横目に△7五歩も本筋っぽい手で、私は▲8四金の存在が哀しい。
△5二金に▲8三金も意味不明の手。もう投げちゃおうかと思った。
第6図以下の指し手。▲7五歩△4四金▲7六銀△3五歩▲同歩△同金▲5八金△5五角▲3七歩△4六歩▲同歩△3六歩▲5六歩△4六角▲4七歩(第7図)
私の▲7五歩から▲7六銀は、これくらいしか手が思いつかなかった。気は利かないが、一応飛車の横利きは通している。
しかし上手は△4四金から△3五歩と、下手の急所を衝いてくる。▲3五同歩△同金で、こちらの金の五段目は力強い。
▲5八金は4七の地点の強化だが、冴えない。△5五角には▲3七歩と凹まされ、そこで△3六歩かと思ったが渡部女流二段は△4六歩から攻めてきた。
何だかプロっぽい指し手で、このあと華麗な手筋で負かされるんだろうなと思った。
だが▲4七歩までと進んでみると、上手の角が死んでいる。これは…?
第7図以下の指し手。△3七歩成▲同桂△同角成▲同銀△4五桂▲4八銀△3六桂▲3七歩△4八桂成▲同玉△4六歩▲6五歩△4七歩成(第8図)
「角が死んだ…?」と渡部女流二段は△3七歩成。ここで▲4六歩は△3八とで角銀交換だ。黙って▲3七同桂でも上手は角を切る一手で、この折衝は下手がずいぶんトクをした。
「あれえ? 私が悪くなってます?」
「いえいえ、まだまだ(上手がいい)」
事実、渡部女流二段の△4五桂~△3六桂がいやらしい攻めだ。私も反撃したいが、上手は△4八桂成の前に△3七歩と打ってくるだろう。
それで▲3七歩と先着したが、渡部女流二段は△4八桂成。2手一遍に指したようなもので、やはり上手がよい。
▲4八同玉には△3六歩かと思ったが、渡部女流二段は△4六歩。これが玉頭を直撃して本手か。渡部女流二段の指し手には学ぶところが多い。
これにふつうは▲4六同歩なのだろうが、先手先手と攻められて負けると思った。
私は▲6五歩と突く。受けてばかりじゃしょうがない。時にはツッパリも大事で、これで大駒2枚の利きが大きく通り、何とか勝負になった気がした。
△4七歩成にはどの駒で取るか。
(つづく)