一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

新橋に行くんだった

2018-04-14 00:09:06 | 男性棋戦
佐藤天彦名人と羽生善治竜王による第76期名人戦が、11(水)日に開幕した。
名人戦といえば、東京・新橋駅前での大盤解説会が恒例である。私は2年前の名人戦で初めてお邪魔したが、大内延介九段の小気味いい解説が面白く、いままで行かなかったことを激しく後悔したものだ。名人戦はネットの無料中継をしないから、新橋でのそれは貴重である。私はその後もたびたびお邪魔した。
しかし昨年大内九段が亡くなり、今年はネットでもAbemaTVとニコ生が中継するなど、2年前とは環境が変わった。大内九段の後継には鈴木大介九段が着任し、今年も新橋で行われることが将棋連盟から発表されたが、私には以前ほどの枯渇感はなくなっていた。
2日目の12日は、LPSA麹町サロンin DISで、中倉宏美女流二段の指導対局に空きがあり、ほかにも午後7時からTBSで「プレバト2時間スペシャル」があった。新橋に行くのは、名人戦の形勢次第だと思った。
さて12日の夕方である。局面は先番羽生竜王が成桂と角を刺し違え、▲4八銀、と馬を叱りつけた。

私は麹町には行かず、AbemaTVを観ていた。解説は屋敷伸之九段、聞き手は山口恵梨子女流二段で、山口女流二段から大橋貴洸四段に交代した。
屋敷九段が大橋四段に形勢を問うと、ここから「△4八同馬▲同玉△6八角として、先手の受けがむずかしいように思います」と言った。
屋敷九段は別の筋の寄せを読んでいたから意外そうだったが、調べてみるといずれの変化も後手がよい。最終盤でその形勢なら、後手が勝つ、ということになる。
だが佐藤名人は容易に手を進めようとしない。しかもそのまま夕休に入ってしまった。
解説会は6時半からなので、今から新橋に急げば間に合う。しかし行ったらすぐに終局した、ではバカバカしいし、オフクロも夕食を作ってしまった。プレバトも今週は「第2回俳桜戦」があり、私はそのまま自宅に籠ることにした。
夕休が開けたが、AbemaTVでは、佐藤名人の苦考がまだ続いている。もはやここは△4八同馬の一手にしか見えないが、その先が難しいのだろうか。
そう考えれば、羽生竜王の▲4八銀も、これで寄せられてしまうなら、着手が早かった気がする。実はこれで耐えているのだろうか。
次にAbemaTVを見たら、▲5九玉の局面になっていた。何と、佐藤名人は△5九金と捨てたのだ。なるほどこっちの筋と並行して読んでいたなら、考慮も長くなるわけだ。しかしこれで、寄っているのだろうか。
▲5九同玉以下は、△6八金▲4九玉△5八金▲3八玉△4八金▲2八玉と進んだが、う~む。これは佐藤名人らしからぬ順だと思った。何か、玉の追い方がダサイのだ。後手は金を捨てて銀桂を入手したが、先手玉を2八に逃し、馬の働きもいまひとつになった。これが佐藤名人の寄せの構図とは思えなかった。

もう7時を過ぎたので、名人戦はとりあえず置いておき、私はプレバトを観る。私の将棋熱は、その程度のものである。
ネットの掲示板を見ると、「△6一銀!」と悲鳴が上がっていた。何と佐藤名人は第2図から、△6一銀と受けたのだ!

私は27年前のA級順位戦・▲大山康晴十五世名人VS△青野照市八段(当時)の一戦を思い出していた。終盤、劣勢だった大山十五世名人は、そこで▲6九銀、という受け一方の手を指し、そこから逆転勝ちして見せた。

しかしあの銀とこの銀は、若干意味合いが違う。名人、ここで受けに回るのは、明らかに流れがおかしい。それに、ここからもう一勝負とやり直すのは、名人の残り時間が少なすぎる。結果論で言うわけではないが、その数手前、▲3八玉に△4九馬と切るところで名人は1時間半以上の長考をしたが、あれが考え過ぎだったのではあるまいか。
そしてここに至って、私は鈴木九段の解説を聞きたくなってきたのである。
考えてみれば、プレバトは録画すればよかった。それより名人戦開幕局の帰趨を、鈴木九段のライブとともに楽しむべきで、そちらのようがよほど充実した時間の使い方だった。
名人戦第2局が行われる時点では、私は就職しているイメージだが、もし時間があれば、新橋へ赴こうと思う。
さてAbemaTVを見ると、後手の△7一金が△7二金になっていた。▲7二歩△同金とした形だが、7六に先手の歩がいるからそれはできない。羽生竜王はどんなテクニックを使ったのか。
いずれにしても、これは攻守ところを変えた。つまり羽生竜王ペースである。
次に見た時は、羽生玉が1八に寄っていた。「玉の早逃げ八手の得あり」は有名な格言だが、先手玉が急に彼方に遠のき、名人の馬と金が取り残されてしまった。これは羽生竜王が勝ったと思った。
次に見た時は、佐藤名人が△7五馬と桂を取っていた。あの馬でこの桂を食いちぎるようでは名人、もうダメである。
しばらくすると、AbemaTVでの中継は終わっていた。ネットを見ると、羽生竜王が勝ったようだった。
記譜を検索すると、第3図からは以下のように進んだ。

▲6二歩成△同金▲6三歩△7二金▲8一飛△7一桂▲6二歩成△同玉▲6四桂△6三歩▲7二桂成△同銀▲8二飛成△8一銀打▲5一金(第4図)

△5一同玉▲7一竜△6一桂▲1八玉(第5図)

△6二角▲5二歩(第6図)

△5二同玉▲8一竜△7五馬▲7二竜(投了図)
まで、97手で羽生竜王の勝ち。

まったく、流れるような寄せである。ダンスの歩で相手陣を翻弄し、竜取りを無視して▲5一金(第4図)。▲5二歩△同玉を利かしての▲8一竜など、ニクイばかりだ。
ただ最後は、ちょっと呆気ないと思った。2年前の「佐藤八段」だったら、投了図から△7一金と指し継いだのではなかろうか。あぁ、佐藤八段の投げっぷりが悪いので、大内九段が苦言を呈していたことを思い出した。佐藤名人も、名人の将棋になったということか。
戻って本局は、羽生竜王の玉捌きに目を瞠った。羽生玉の動きは5八~4八~3八~4九~5九~4九~3八~2八~1八だったが、ほとんどが危険地帯から逃げている図である。何か、玉の動きだけで勝ってしまった感さえある。それは先のプレーオフ・稲葉陽八段戦にも同じことを感じた。羽生竜王の玉には、何かが宿っている気がする。
これで羽生竜王は公式戦通算1,400勝となった。47歳でこの数字は、神がかりだ。
一方の佐藤名人は残念だったが、2年前だって初戦を負けていた。
七番勝負はこれからである。
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