第6図以下の指し手。▲8五歩△5五銀▲3五角△6六歩▲8四歩△6七歩成▲同飛△6六歩▲8七飛(第7図)
気が付くと、背後にずいぶんギャラリーがいる。でも自分の将棋が見られているのは、わるい気分ではない。
私は飛車の侵入を急ぎ、▲8五歩。しかし石田直裕五段の△5五銀が力強く、若干指し辛くなった。
△6六歩にも相手をしている余裕はなく、▲8四歩。私はとにかく飛車の侵入を果たすしかない。
△6七歩成には▲同飛が一瞬金取りで、下手もうまく指していると思ったのだが…。
第7図以下の指し手。△6七桂▲同銀△同歩成▲同飛△6六歩▲8七飛△7五歩▲6八歩△7六歩▲8三歩成△7四金▲7三と△7五金▲8二飛成(第8図)
左の女性は勝ったようだ。飛車を成って堂々の勝利で、すばらしい。これで彼女は、さらに将棋にのめり込むだろう。
第7図から△6七桂。この平凡な両取りを見落としていた。これがあるなら先の▲8四歩は疑問で、悪いながらも▲6六同歩と応じるべきだった。
本譜は▲6七同飛に再び△6六歩。ここを抑えられると下手はどうにも具合がわるい。
▲8七飛には△7五歩。狙いが分からぬが、いかにも上手っぽい指し手ではないか。
私は▲8三歩成と、ようやく狙い筋の半分まで成就したが、上手は右金を7五まで活用し、ますます好調。
私は▲8二飛成とし、当初の目的を達成したが…。
第8図以下の指し手。△6七歩成▲同歩△6六歩(投了図)
まで、89手で石田五段の勝ち。
ギャラリーはいつの間にかいなくなってしまった。この将棋も見切りをつけられたか。
△6七歩成。拠点の歩を捨ててくれるのでありがたいと思ったが、△6六歩と合わされて参った。
これを▲同歩は△同銀で、7六の垂れ歩もあるし、もう下手は支えきれない。
これ以上指しても上手の気分がよくなるだけなので、ここで投了した。
「あっ」
(早い投了ですネ)と石田五段。
「(第4図から)△8五歩と打たれて、下手がまずかったですか?」
と私。
「いえいえ、その後がちょっと…」
と、石田五段は第6図まで戻す。「ここで▲6二成桂(参考図)とされたら」
「あっ!」
△6二同金に▲6四角。これは銀桂交換の駒得で下手優勢だ。いやこの筋はまったく見えなかった。「いやいや、そうですねえ。うーむ」
「だから△5一飛と指す時は、マズイと思ってました」
「あー…。でも、△5四金と指されたら?」
「それは飛車を取れるんで(▲5一成桂)」
「あっ!!」
では▲6二成桂なら、どう転んでも私がよかった。しかしこの手が見えないとは、どれだけ私生活に余裕がないのだろう。呆れた。
「いやいや飛車の侵入ばかりを考えていて…」
「△5五銀と出られて、よくなったと思いました」
専門的に見れば、この2手で将棋は終わったということだろう。中盤まではうまく指していただけに残念だが、仕方ない。おのが弱さを再認識しただけでも収穫だった。
ともあれ石田先生、ありがとうございました。
石井健太郎五段はとうに指導対局を終わり、手持ち無沙汰だ。
「石井先生、どうも。この前の順位戦は残念でしたね…」
「はあ…」
「まさかあんな結果になるとは」
「運がなかった…」
「でも来期は順位1位ですよね」
「それは、C級1組から(降級者が)落ちてきますから」
「ああ…でも落ちてきたって1人か2人ですよね。やっぱりかなり有利じゃないですか」
「……」
「来期は頑張ってください」
「はあ」
「私、昨年ここで先生に教わりまして」
「そうでしたね」
石井五段は憶えていてくれたようだ。
「だから今年は違う先生にと思って、石田先生に教わりました。すみません。また来年、よろしくお願いします」
結局、石井五段に話しかけてしまった。やっぱりこんな会話になるわなあ。
さて「世界の将棋」といっても、私は将棋以外の競技を楽しむつもりはないから、指導対局が終われば、会場にいる意味がない。会場内は、月に一度のマルシェとして、地元の店舗が店を出している。私は宇都宮餃子を買い、ちょっと早いが、これで会場を後にした。
来年またこのイベントがあったら、その時は会社員の身でお邪魔したいものだ。