2年前の5月21日(日)に行われた将棋ペンクラブ関東交流会は、ゲストが上野裕和五段(当時)と井道千尋女流初段(当時)だった。私は上野五段に指導対局をしていただき、その時の模様は「将棋ペン倶楽部」2017年秋・68号に「将ペン駒落ち道場・天使か、鬼か」のタイトルで掲載された。
今日はその時の棋譜を公開しようと思う。将棋ペンクラブには了承を取っていないが、文章もリライトするので、大丈夫であろう。
△五段 上野裕和(角落ち)
▲アマ 一公
初手からの指し手。△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△6二銀▲2六歩△4二玉▲2五歩△2二銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2五飛(第1図)
上野五段の指導対局は特色があり、「天使」「普通」「鬼」のカードを用意する。それらは上手の力の入れ方を表しており、下手が忖度は要らないと思えば、鬼モードを選択するわけだ。もちろん私も鬼モードを所望した。これで上手に勝てれば、心おきなく自慢できる。
△8四歩からスタート。上野五段には前回、大野教室で負かされたので、気合を入れて▲7六歩と指した。すると、上野五段は早くも△8五歩ときた。大野八一雄七段なら絶対に指さない手で、こんなところにも棋士の棋風が表れている。
私は反射的に▲7七角と上がったが、ちょっとマズかった。この歩は交換させても、あとで飛車をぶつける手があるから構わないのだ。ただ▲7七角自体は正着であろう。
△2三歩に▲2五飛が、私の得意とするいつもの手である。

第1図以下の指し手。△7四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3二玉▲7四飛△7三銀▲2四飛△6四銀▲2五飛△5四歩▲7八金△5五歩▲6九玉△7二飛▲6六歩△6二金(第2図)
上野五段は傍らにノートパソコンを用意している。何とここに対局の棋譜を入力し、後でプリントアウトしてくれるのだ。
下手から見ればこれ以上ないサービスで、たぶんこれをやっている棋士は上野五段だけであろう。この事実ひとつだけで、対局者は上野五段のファンになってしまう。むろん私もそうだった。
第1図から上野五段は△7四歩。だがこれには▲2四歩と合わせて、この歩を取る狙いがある。上手はこの歩を犠牲に銀が素早く出て行く狙いで、プロの実戦でも出現している。
しかし歩得のチャンスがあるのに行けないようでは男ではない。私は誘いに乗って▲2四歩と合わせた。
果たして上野五段は銀を繰り出してきたが、私は飛車を定位置の2五まで戻して一安心。次の狙いは▲6六角~▲7七桂~▲8五飛で、こうなれば上手の△8五歩を咎めている。
それを防いで上野五段の△5四歩~△5五歩は当然であろう。
△7二飛に7六の歩を守る手はないので、▲6六歩とした。

第2図以下の指し手。▲6五歩△同銀▲5五角△7三桂▲4八銀△4二金▲7三角成△同金▲6五飛(第3図)
第2図で▲6七金は金銀の連携が崩れて気合が悪い。▲6五歩は下手も怖いが、思い切って突いた。△同銀で上手の駒を呼び込んだようだが、下手も▲5五角の飛び出しが気持ちよく、十分。▲2五飛戦法は、元気よく指すことが肝心だ。
△7三桂に、筋は▲同角成△同金▲6五飛の二枚換えである。だが△7四角~△4七角成の狙いも見えるので、▲4八銀と一手ため、△4二金に角切りを決行した。

第3図以下の指し手。△2八角▲8五飛△1九角成▲8一飛成△7一歩▲2四歩△2三歩▲5四桂△1八馬▲4二桂成△同玉▲9一竜△2四歩▲6一銀△4五馬▲7二銀成△同金(第4図)
交流会は基本的に3面指しだが、現在は私の左にひとり入って4面指しになっていた。上野五段は指し手の合間に4人分の記譜も入力せねばならないから大変だ。
果たして上野五段には、天使モードか? と訝る手も出現している。対局に専念できず、自然と指し手が甘くなってしまうのだろう。
上野五段の△2八角に、私は▲8五飛と回った。これに△8四歩なら▲5五飛△5三歩▲2五飛△1九角成▲2四歩で、次に▲2三銀や▲3五桂を見て下手よし。これは上手の2三歩がない弱点を見事に衝いている。
上野五段は黙って△1九角成と香を取ったが、私は▲8一飛成として好調だ。
▲2四歩△2三歩を利かして、▲5四桂。これに△4一金なら、▲6一銀と飛車取りに打って何とかしようと思った。
上野五段は単に△1八馬と自陣に利かしたが、私は▲4二桂成と金を取り、はじめて有利を自覚した。
△4二同玉に▲9一竜と香を補充したのも落ち着いていたと思う。続く△2四歩には▲6一銀から飛車を入手し、これはもう負けられないと思った。
ところが第4図で、私はおかしな手を指してしまう。

(つづく)
今日はその時の棋譜を公開しようと思う。将棋ペンクラブには了承を取っていないが、文章もリライトするので、大丈夫であろう。
△五段 上野裕和(角落ち)
▲アマ 一公
初手からの指し手。△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△6二銀▲2六歩△4二玉▲2五歩△2二銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2五飛(第1図)
上野五段の指導対局は特色があり、「天使」「普通」「鬼」のカードを用意する。それらは上手の力の入れ方を表しており、下手が忖度は要らないと思えば、鬼モードを選択するわけだ。もちろん私も鬼モードを所望した。これで上手に勝てれば、心おきなく自慢できる。
△8四歩からスタート。上野五段には前回、大野教室で負かされたので、気合を入れて▲7六歩と指した。すると、上野五段は早くも△8五歩ときた。大野八一雄七段なら絶対に指さない手で、こんなところにも棋士の棋風が表れている。
私は反射的に▲7七角と上がったが、ちょっとマズかった。この歩は交換させても、あとで飛車をぶつける手があるから構わないのだ。ただ▲7七角自体は正着であろう。
△2三歩に▲2五飛が、私の得意とするいつもの手である。

第1図以下の指し手。△7四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3二玉▲7四飛△7三銀▲2四飛△6四銀▲2五飛△5四歩▲7八金△5五歩▲6九玉△7二飛▲6六歩△6二金(第2図)
上野五段は傍らにノートパソコンを用意している。何とここに対局の棋譜を入力し、後でプリントアウトしてくれるのだ。
下手から見ればこれ以上ないサービスで、たぶんこれをやっている棋士は上野五段だけであろう。この事実ひとつだけで、対局者は上野五段のファンになってしまう。むろん私もそうだった。
第1図から上野五段は△7四歩。だがこれには▲2四歩と合わせて、この歩を取る狙いがある。上手はこの歩を犠牲に銀が素早く出て行く狙いで、プロの実戦でも出現している。
しかし歩得のチャンスがあるのに行けないようでは男ではない。私は誘いに乗って▲2四歩と合わせた。
果たして上野五段は銀を繰り出してきたが、私は飛車を定位置の2五まで戻して一安心。次の狙いは▲6六角~▲7七桂~▲8五飛で、こうなれば上手の△8五歩を咎めている。
それを防いで上野五段の△5四歩~△5五歩は当然であろう。
△7二飛に7六の歩を守る手はないので、▲6六歩とした。

第2図以下の指し手。▲6五歩△同銀▲5五角△7三桂▲4八銀△4二金▲7三角成△同金▲6五飛(第3図)
第2図で▲6七金は金銀の連携が崩れて気合が悪い。▲6五歩は下手も怖いが、思い切って突いた。△同銀で上手の駒を呼び込んだようだが、下手も▲5五角の飛び出しが気持ちよく、十分。▲2五飛戦法は、元気よく指すことが肝心だ。
△7三桂に、筋は▲同角成△同金▲6五飛の二枚換えである。だが△7四角~△4七角成の狙いも見えるので、▲4八銀と一手ため、△4二金に角切りを決行した。

第3図以下の指し手。△2八角▲8五飛△1九角成▲8一飛成△7一歩▲2四歩△2三歩▲5四桂△1八馬▲4二桂成△同玉▲9一竜△2四歩▲6一銀△4五馬▲7二銀成△同金(第4図)
交流会は基本的に3面指しだが、現在は私の左にひとり入って4面指しになっていた。上野五段は指し手の合間に4人分の記譜も入力せねばならないから大変だ。
果たして上野五段には、天使モードか? と訝る手も出現している。対局に専念できず、自然と指し手が甘くなってしまうのだろう。
上野五段の△2八角に、私は▲8五飛と回った。これに△8四歩なら▲5五飛△5三歩▲2五飛△1九角成▲2四歩で、次に▲2三銀や▲3五桂を見て下手よし。これは上手の2三歩がない弱点を見事に衝いている。
上野五段は黙って△1九角成と香を取ったが、私は▲8一飛成として好調だ。
▲2四歩△2三歩を利かして、▲5四桂。これに△4一金なら、▲6一銀と飛車取りに打って何とかしようと思った。
上野五段は単に△1八馬と自陣に利かしたが、私は▲4二桂成と金を取り、はじめて有利を自覚した。
△4二同玉に▲9一竜と香を補充したのも落ち着いていたと思う。続く△2四歩には▲6一銀から飛車を入手し、これはもう負けられないと思った。
ところが第4図で、私はおかしな手を指してしまう。

(つづく)