川上七段の順位戦復帰の目を考える・１

川上猛七段は今年47歳のベテランである。中学生名人戦優勝の実績をひっさげ、1987年、奨励会入会。以後順調に昇級昇段し、1993年３月、三段リーグを15勝３敗で駆け抜け、同年４月１日、弱冠20歳で四段デビューした。
棋士１年目の第52期順位戦Ｃ級２組は、７勝３敗の好スタートだった。翌年度は銀河戦で準優勝する活躍も見せるが、順位戦のほうはふるわず、２勝８敗で降級点を取ってしまう。まだ22歳なのに、何たる不覚か。
それから川上七段は目を覚ましたのか、順位戦は指し分け以上の勝星をよく取った。だがどんなに勝っても昇級（か降級）しない限り、Ｃ級２組では１個目の降級点は消えない。俗に「イレズミ」といわれるゆえんである。
いっぽう竜王戦では2005年の第18期、ランキング戦４組で優勝し、３組に昇級した。
だが高田尚平七段と同じく、竜王戦では昇級できても順位戦は昇級できない。しかし実力はあるから「Ｃ２の番人」などと呼ばれもした。この異名を取った棋士は何人かいるが、自身は昇級しないケースが多い。
川上七段もそのひとりで、そうこうするうち、2011年度の第70期順位戦では１勝９敗となり、２回目の降級点を取ってしまった。実に17年ぶりである。当然ながら、何年経っても１回目の降級点は消えていなかった。げに恐ろしき「１回目の降級点」である。
これで緊張の糸が切れたか、川上七段は翌期も２勝８敗で、何と３度目の降級点。フリークラスへ降級となってしまったのだった。
この「事件」は当時ほとんど話題にならなかったと思うが、順位戦マニアからすれば、これは相当なニュースであった。
だが川上七段は、フリークラスに落ちても成績はよかった。実際順位戦復帰が見えたこともあるが、惜しくも届かなかった。
しかし川上七段は今年度も頑張っている。８日の第61期王位戦で山本博志四段に勝ち５連勝。今年度成績を10勝６敗とした。
ではその詳細を記しておこう。○●は、川上七段から見たものである。

４月２日　第45棋王戦予選２回戦　●青嶋未来五段
４月10日　第32期竜王ランキング戦５組昇級者決定戦１回戦　○瀬川晶司六段
５月27日　第91期棋聖戦一次予選１回戦　●日浦市郎八段
５月31日　第69期王将戦一次予選決勝　●近藤誠也六段
６月３日　第32期竜王ランキング戦５組昇級者決定戦２回戦　○窪田義行七段
６月27日　第５期叡王戦七段戦予選１回戦　○大石直嗣七段
６月27日　第５期叡王戦七段戦予選２回戦　●有森浩三七段
７月１日　第32期竜王ランキング戦５組昇級者決定戦３回戦　○竹内雄悟五段
７月か８月　第28期銀河戦予選　○室岡克彦七段
７月か８月　第28期銀河戦予選　●野月浩貴八段
８月８日　第32期竜王ランキング戦５組昇級者決定戦４回戦　●田村康介七段
８月29日　第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選１回戦　○勝又清和六段
８月29日　第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選２回戦　○横山泰明七段
９月26日　第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選３回戦　○伊藤真吾五段
10月４日　第68期王座戦一次予選１回戦　○室岡克彦七段
10月８日　第61期王位戦予選１回戦　○山本博志四段
以上、10勝６敗。

今年度中に指される対局
第61期王位戦予選２回戦　田村康介七段
第68期王座戦一次予選２回戦　遠山雄亮六段
第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選決勝　佐々木大地五段
第33期竜王ランキング戦５組（昇級者決定戦）
第70期王将戦一次予選
第46期棋王戦一次予選
第70回NHK杯将棋トーナメント予選

もうこのブログではお馴染みだが、順位戦復帰のおもな条件は、

・年度の参加棋戦＋８勝で、勝率６割以上。
・年度にかかわらず、良い所取り30局以上の勝率が.650以上。

である。川上七段は順位戦を除く７大タイトル戦に、朝日杯、銀河戦、NHK杯と出場しているので、今年度は「18勝（12敗）」が必要となる。すなわち残り「８勝６敗」となる。
良い所取りだと、直近12局で５連勝中の９勝３敗だが、これはあと「15勝10敗」もしくは「11勝７敗」が必要なので、いまはあまり関係ない。
川上七段の通算成績は395勝386敗で、勝率は５割を越えている。これはいい数字である。いままで当ブログで応援した熊坂学五段や中尾敏之六段は、引退直前の最後の炎、みたいな雰囲気があったが、川上七段はある程度勝星が計算できるのだ。
むろん勝てば勝つほど相手はキツくなるが、今回は不可能な数字ではない。
川上七段は「将棋世界」2016年４月号の別冊付録「囲いの周辺手筋」を執筆したが、これは初級者から有段者まで参考になる名著だった。
川上七段の順位戦復帰を願い、今後も注目して行きたい。