ノートパソコンのキーボードの調子がさらに悪くなり、もうどうしようもない。「A」「I」「U」「N」が感度不良なのに加え、さらにスペースキーの反応まで悪くなった。
と思うと同じ文字が重なったりして、書き直すこと数度。これなら手書きの方が速い……。
◇
中休みである。私の左には、画家の小川敦子さんが座っていた。小川さんは「将棋ペン倶楽部」の表紙絵を長く務めていたが、このたび卒業を発表した。
私はそれを惜しみ、続投をお願いしてみた。すると、幹事諸氏からも同じ懇願があったらしく、続投が決まったという。まずはめでたく、これで一安心である。
中休みが終わり、後半は「観戦記者トークショー」からスタートである。題して「観戦記者の注目するポイント」。演者は椎名龍一氏と藤井奈々さん。異色の組み合わせだが、これも将棋ペンクラブならではである。司会進行はFさん。将棋ペンクラブ期待の幹事である。
ネットでの参加申し込み時に演者への質問欄があり、その質問をもとに、トークを進めていく。
まずは、「観戦記を書き上げるのに何日かかる?」。これは私が質問したものだ。
椎名氏「4日から5日ですかね。全6譜として、1譜1日を3日間。最後の1日で3譜を一気に書きます」
藤井さん「本当は2週間くらいかけたいんですけど、実際は4、5日ですね」
これは私が質問しておいてアレだが、愚問だった。観戦記は対局を観戦し、感想戦を聞き、必要なら対局者に後日質問をする。文字におこさないまでも頭の中で構想を組み立てる。もろもろの作業を合わせれば、「○日」と一括りでは答えられないのだ。
次の質問は「どこで書く?」
椎名氏「観葉植物を台にして、ノートパソコンを使って書きます」
藤井さん「喫茶店で書くのが7割です。感想戦はボイスレコーダーに録音します。お気に入りの喫茶店はコメダ珈琲です」
喫茶店で原稿を書くのは、物書きの夢野シチュエーションではないだろうか。
そのほかの質問と答えをまとめると、椎名氏のメインの舞台は名人戦・A級順位戦で、糸谷哲郎八段に3局連続で当たったことがあるそうだ。
AIソフトは20年前から使っていて、終盤の検討に大いに役に立っているとのこと。
関西在住の藤井さんは、竜王戦がメインステージ。観戦記を書き始めて3年だが、3年前は関西担当が池田将之氏しかおらず、いいタイミングで観戦記者になれたという。
藤井さんは、AIソフトを使わない。感想戦での検討を重視するようだ。
ここで参加者からも質問を募る。遠藤正樹氏の手が上がり、「対局者の、前日や後日の描写もほしい」との意見がでた。これには両者とも、「対局者はナーバスになっているから、前日の取材はない」と異口同音の回答だった。
また対局後は、むかしは感想戦のあとに一杯、が多かったが、最近は感想戦が終わったらお開き、の風潮だという(椎名氏)。
これにて観戦記者トークショーは修了。場慣れしている椎名氏が流暢に応えていたのは当然として、藤井さんも見事な受け答えだった。
将棋を活かすも殺すも、観戦記者の腕次第。これからも面白い観戦記をお願いしたい。
最後は、「将棋文芸トークショー」。題して「小説家が魅せられた将棋の世界」。演者は芦沢央さんと、気象予報士・森田正光氏である。
森田氏「私は宵っ張りでして、きのうも1時過ぎまでぴよぴよをやっていました」
芦沢さん「私は詰将棋を解くのが好きです。文藝春秋の将棋部で、加藤結李愛先生に教えてもらっています」
詰将棋は、そこに駒がある意味、最後に一本の糸になる感じが好きだという。
森田氏は、今回の芦沢さんの短編集では、「ミイラ」がお気に入りだったようだ。
「福崎文吾先生の言葉だったかな、考えに考えて考えて指した瞬間に悪手と分かる。ここが将棋の不思議なところです」
今回、森田氏が将棋ペンクラブ大賞の最終選考委員になった経緯がよく分からなかったが、将棋がお好きなことは分かった。
芦沢さん「将棋は人生が詰まっていませんか? 感想戦とか、そのふたりにしか分からない世界が繰り広げられていますよね」
芦沢さんの話を聞いていると、「盤上の向日葵」の柚月裕子さんとイメージがダブる。そんな芦沢さんに期待されるのは長編将棋小説である。本人も書く気十分のようだ。
森田氏の好きな棋士は、「羽生善治九段と芹沢博文九段」。芹沢九段は、ちゃらんぽらんに見えて、将棋に真摯に取り組んでいるのがいいという。
これでトークショーは終わり、すべてのプログラムが滞りなく終了した。今回は参加者同士の交流はなかったが、そのぶんプログラムに集中できて、有意義な会だったのではなかろうか。
最後はちょっとおしゃべりする時間ができ、私はA氏とともに、藤井さんとお話をさせていただくことができた。
藤井さんは自分のスタンスがはっきりしていて、好感が持てた。今後の観戦記が楽しみである。
なんとなく帰りそびれていると、A氏に打ち上げに誘われた。
(つづく)
と思うと同じ文字が重なったりして、書き直すこと数度。これなら手書きの方が速い……。
◇
中休みである。私の左には、画家の小川敦子さんが座っていた。小川さんは「将棋ペン倶楽部」の表紙絵を長く務めていたが、このたび卒業を発表した。
私はそれを惜しみ、続投をお願いしてみた。すると、幹事諸氏からも同じ懇願があったらしく、続投が決まったという。まずはめでたく、これで一安心である。
中休みが終わり、後半は「観戦記者トークショー」からスタートである。題して「観戦記者の注目するポイント」。演者は椎名龍一氏と藤井奈々さん。異色の組み合わせだが、これも将棋ペンクラブならではである。司会進行はFさん。将棋ペンクラブ期待の幹事である。
ネットでの参加申し込み時に演者への質問欄があり、その質問をもとに、トークを進めていく。
まずは、「観戦記を書き上げるのに何日かかる?」。これは私が質問したものだ。
椎名氏「4日から5日ですかね。全6譜として、1譜1日を3日間。最後の1日で3譜を一気に書きます」
藤井さん「本当は2週間くらいかけたいんですけど、実際は4、5日ですね」
これは私が質問しておいてアレだが、愚問だった。観戦記は対局を観戦し、感想戦を聞き、必要なら対局者に後日質問をする。文字におこさないまでも頭の中で構想を組み立てる。もろもろの作業を合わせれば、「○日」と一括りでは答えられないのだ。
次の質問は「どこで書く?」
椎名氏「観葉植物を台にして、ノートパソコンを使って書きます」
藤井さん「喫茶店で書くのが7割です。感想戦はボイスレコーダーに録音します。お気に入りの喫茶店はコメダ珈琲です」
喫茶店で原稿を書くのは、物書きの夢野シチュエーションではないだろうか。
そのほかの質問と答えをまとめると、椎名氏のメインの舞台は名人戦・A級順位戦で、糸谷哲郎八段に3局連続で当たったことがあるそうだ。
AIソフトは20年前から使っていて、終盤の検討に大いに役に立っているとのこと。
関西在住の藤井さんは、竜王戦がメインステージ。観戦記を書き始めて3年だが、3年前は関西担当が池田将之氏しかおらず、いいタイミングで観戦記者になれたという。
藤井さんは、AIソフトを使わない。感想戦での検討を重視するようだ。
ここで参加者からも質問を募る。遠藤正樹氏の手が上がり、「対局者の、前日や後日の描写もほしい」との意見がでた。これには両者とも、「対局者はナーバスになっているから、前日の取材はない」と異口同音の回答だった。
また対局後は、むかしは感想戦のあとに一杯、が多かったが、最近は感想戦が終わったらお開き、の風潮だという(椎名氏)。
これにて観戦記者トークショーは修了。場慣れしている椎名氏が流暢に応えていたのは当然として、藤井さんも見事な受け答えだった。
将棋を活かすも殺すも、観戦記者の腕次第。これからも面白い観戦記をお願いしたい。
最後は、「将棋文芸トークショー」。題して「小説家が魅せられた将棋の世界」。演者は芦沢央さんと、気象予報士・森田正光氏である。
森田氏「私は宵っ張りでして、きのうも1時過ぎまでぴよぴよをやっていました」
芦沢さん「私は詰将棋を解くのが好きです。文藝春秋の将棋部で、加藤結李愛先生に教えてもらっています」
詰将棋は、そこに駒がある意味、最後に一本の糸になる感じが好きだという。
森田氏は、今回の芦沢さんの短編集では、「ミイラ」がお気に入りだったようだ。
「福崎文吾先生の言葉だったかな、考えに考えて考えて指した瞬間に悪手と分かる。ここが将棋の不思議なところです」
今回、森田氏が将棋ペンクラブ大賞の最終選考委員になった経緯がよく分からなかったが、将棋がお好きなことは分かった。
芦沢さん「将棋は人生が詰まっていませんか? 感想戦とか、そのふたりにしか分からない世界が繰り広げられていますよね」
芦沢さんの話を聞いていると、「盤上の向日葵」の柚月裕子さんとイメージがダブる。そんな芦沢さんに期待されるのは長編将棋小説である。本人も書く気十分のようだ。
森田氏の好きな棋士は、「羽生善治九段と芹沢博文九段」。芹沢九段は、ちゃらんぽらんに見えて、将棋に真摯に取り組んでいるのがいいという。
これでトークショーは終わり、すべてのプログラムが滞りなく終了した。今回は参加者同士の交流はなかったが、そのぶんプログラムに集中できて、有意義な会だったのではなかろうか。
最後はちょっとおしゃべりする時間ができ、私はA氏とともに、藤井さんとお話をさせていただくことができた。
藤井さんは自分のスタンスがはっきりしていて、好感が持てた。今後の観戦記が楽しみである。
なんとなく帰りそびれていると、A氏に打ち上げに誘われた。
(つづく)