第1図以下の指し手。△7七銀▲同銀△同桂成▲同玉△8八角(第2図)
第1図で私の読みは△7四飛▲同歩△8八桂成▲同玉△4八竜▲同金△7六桂。しかしこれは▲9八玉と寄られ、以下王手は続くものの難しい。
星野氏は△7七銀と放り込んだ。△8八桂成と銀を取れるのに、その銀の利きに駒を打つのだから奇手だ。
これには▲同桂と取ると思ったが、三上氏(だったと思う。Kan氏ではなかったと思う)は▲同銀。以下△同桂成に▲同桂は△8九角▲同玉△8八銀▲7八玉△8九銀打まで詰み。
よって▲7七同玉と取り、星野氏は△8八角。この角の利きが長い。
第2図以下の指し手。▲7六玉△8五銀▲6五玉△3五竜▲4五桂(第3図)
▲7六玉に△8五銀▲6五玉。ここで駒不足になったかに思われたが、△3五竜と引っ張る手があった。
これに▲4五銀は△同竜▲同歩△5四銀以下詰み。よって三上氏は桂合いだが、私は先手玉の詰みが見えなかった。
第3図以下の指し手。△6四銀▲同馬△同歩▲同玉△4四竜(投了図)
まで、星野氏の勝ち。
第3図で△5四銀は▲5六玉で、馬の利きが妙に強く詰まない。
星野氏は△6四銀と打った。これが打たれてみればナルホドの好手。あえて馬の陰に打つことで、▲5六玉に△5五角成を可能にしている。
本譜は▲同馬△同歩▲同玉に△4四竜まで、三上氏の投了となった。
結果的には、△3五竜▲4五桂を経なくても先手玉は詰んでいたが、そういうことを言ってはいけない。
感想戦も熱を帯び、湯川博士氏が熱心にペンを走らせている。どうも、「将棋ペン倶楽部」の次号にこの観戦記が載るらしかった。
この後しばらく経って、お開き。これから忘年会である。場所は神保町の某居酒屋の2階。参加者は湯川氏、恵子さん、星野氏、三上氏、Kan氏、A氏、山野氏、Itoh氏、En氏、私の10人。のちに山本氏が合流予定だ。なお木村晋介会長は所用のため不参加となった。
私は壁際に座ったが、向かいは湯川氏である。湯川氏はいつも面白い話を聞かせてくれるので楽しみだ。
やがて山本氏が到着し、11名でアルコールで乾杯。私はふだん飲まないが、ビールの最初の一口はうまいと思う。
つまみも適当に頼み、みなでモグモグ。と、湯川氏が「ンゴッ!!」と言って上アゴをもぞもぞやった。
何事もなかったようだが、入れ歯に何かあったのかと、ドキッとした。
聞けば、湯川夫妻は、今年金婚式になるという。そしてその記念パーティーを、和光市の長照寺でやるという。湯川氏のホームだ。
「めでたい席だと神社だが、寺でやったって構わないんだよ。会は7月9日の日曜日。そこで大沢君にお願いなんだが」
私はつい身構えてしまう。「アンタにそのレポートを書いてもらいたい」
私は文章を書くのは得意でないのだが、この願いは聞かねばなるまい。当日は休みを取ろう。
と、湯川氏が再び、口をモゴモゴやりだした。と、湯川氏が上の入れ歯を取り出し、ポンッと置いた。
湯川氏は自分の前のスペースは何も置かないので、その入れ歯がこちらのテリトリーにある。上だけの入れ歯が妙にシュールだ。
En氏は写真係になっていて、さっきから一眼カメラでカシャカシャ撮っている。
湯川氏が観戦記者をしていた時、中倉姉妹の顔と名前が一致しなくなったという。それで湯川氏は女流棋戦の観戦記を辞めたらしい。
私だったら女流棋士の勉強をして少しでも多く仕事をもらおうとするが、湯川氏その逆をやった。もう私などとは器が違うのである。
三上氏と山野氏は向こうのテーブルに異動し、差し掛けの将棋を再開した。将棋飲み会の「あるある」である。
将棋ペンクラブの今後に話がおよび、熱を帯びてくる。Kan氏が「だから黙れって!!」激高したりする。Kan氏はふだん穏やかなので、怒ったときは廻りが悪いということだ。
湯川氏はいよいよ酔っぱらってきた。
「大沢君は誰のファンなの?」
「大山先生でしょうか」
「大山先生、いいねえ。じゃあね、その大山先生のことを書きなさい。オレはあんたの文章が読みたいんだよ。原稿用紙2~3枚でいい。半年以内に書いてよ、待ちますから。ああ楽しみだ」
大山康晴十五世名人の話なら、書いてみたいネタはある。ただ、将棋ペン倶楽部に載る可能性も考えると、ちゃんと資料を読みこんで、完璧な数字と文章を書かなければならない。しかしいまは、それを書く気力がない。人生に張りがないと、こういう精神状態になる。
そろそろいい時間になり、これにて散会である。最後は一本締めで幕。私は忘年会自体参加したのが久し振りだったが、やっぱり楽しかった。2022年は苦しい思い出ばかりで、文字通り1年を忘れたい。2023年は、もう少しマシな日々にしたいものだ。