MRI、人間の臓器を輪切りにした映像を撮る、体が丸ごと入る大きな機械だ。
一度だけ母がこれで検査した時、立ち合いをしたが廊下まで「が~ん が~ん」とブリキの一斗缶をバチで叩き続けるような音が聞こえた。
これは機械にかかっている母は、そうとうダメージだなと思っていたが、わりとケロリとしていたのを覚えている。
そして今日は、いよいよ私がその機械にかかることになった
まずは内科の準備室で点滴の準備、ガドリニュウム造影剤を入れるので太さも針の長さも普通の点滴より大きい。
最初は失敗、まだ若い看護師だった、針を刺した途端に親指の先に電気が走った、針先も痛い「電気が走ったよ」と言ったら、本人も気づいて「すみません針を抜きます」と言って抜いた。
私は、こんなことは慣れっこだ、入院中も二度血管からはみ出て液漏れした
私の血管は細くて、看護師泣かせなのだ、だから失敗を責めたことは無い
「すみません、代わります」と言って年配の看護師と代わった。
小太りのにこやかな50歳前後、話も旨いし余裕がある、最初の子は少し緊張気味だったからなあ、まだ経験も少ないのだろう。
さすがベテラン、上手に針も収まった。
そこから歩いてMRI室へ、40代の男性技師もにこやかだ
「この部屋寒いですね」と技師に言ったら、「機械を冷やすために冷房が強いんですよ、寒ければ毛布掛けますけど」と言うので頼んでかけてもらった
外は暑いので半袖で来たのだ。
思ったより快適、目を閉じると寝てしまいそうだ。
ベッドに横になって、そのままカマクラのような機械の中に吸い込まれていく
最初に「音がうるさいですから」とヘッドホンを耳につけた、そして両手は頭の上に万歳の姿勢
「『息を吸ってください、吐いてください、止めてください』と言いますから、その通りにしてください、一回だけ20秒の息止めがありますから苦しくても我慢してください」
「ヘッドフォンしていても聞こえますか?」「大丈夫と思いますが、聞こえなかったらこれを押してください」と言って、ブザーのスイッチを渡してくれた
「顔も中に入ります?」と聞いたら「全部は入りませんが」と言ったが、始まったら全部入ってしまった、たぶん撮影のカメラ部分までは入らないという意味だったのか。
それにしても、天井までは15cmあるだろうか?、かなり低くて狭い
狭所恐怖症には無理だと思う。 昔一度だけカプセルホテルで泊まったことがあるが、あれはまだ顔の上30cmはあった、もう30年くらい前だから、今は遥かにカプセルHも快適になっただろう。
そして始まった、体が顔まですっぽり入った、「ブーブーブー」という少し大きいブザーが鳴って、そのあと切れ切れのブザーの連続音、そして「息を吸ってください・・・」が始まった。
息を止めると別の独特な音が何度も鳴り響くが、ヘッドフォンのお陰でうるさいまでは行かない。
母の時に廊下で聞いたけたたましい音とは、全然違っていた、頭にも響かない
最初から造影剤の点滴かと思っていたが、途中で技師が「ここから造影剤を入れますよ」ヘッドフォン越しに小さな声で聞こえて来た
(へえ!なんか普通だなと思っていたが、これから本番か)
緊急入院の時にCTにかかったが、その時、初めて造影剤を使った、体がカ~っと熱くなるあれだ、危険度もあるので一応は許可を得る、書いたものを読むと腎臓などに障害がある場合最悪、重態もあるというから、絶対安全ではないのだ。
この日も前もって承諾書を渡しておいた。
だんだん上げている両手がしびれて来た、こんな姿勢で15分20分が過ぎたからだ、特に右手は点滴の長い針が入っているから余計に気を使って疲れる。
20分くらい経ってから、一度外に出た、「手を前に下ろしてもいいですよ」
「ああ、この姿勢結構疲れますね、痺れて来た」と言ったら、両方の肩を少しマッサージしてくれた、大きな男だが、なかなか気が付く。
再び入って10分少々撮って終わった。
「お疲れさまでした、点滴を抜きますよ」,
やっとらっくりした、「息止め20秒は楽勝だったよ」と言ったら
「そうですねぇ、息止めは全部バッチリでしたから、予定よりかなり早く終わりました、ありがとうございました」と礼を言われた。
そして「30秒でも大丈夫ですかね」「30秒も余裕ですね」なんて言っちゃった
「うまくやってくれる人もいますけど、10秒もできない人もいるんですよね
何回もやり直しになるんで時間かかります、なにか運動してるんですか?」
「いや別に! 毎日散歩しているだけですよ」
「ああ、それで息が続くんですね、どのくらい歩くんですか」
「7000歩だけど、退院後は3000歩くらいだね」
「へえ!7000歩、僕も歩かなきゃいけないんですよね、少しこんな体型だし」
「ああ、歩くといいよ、絶対いいよ」
「そうですよね」
「ずっと歩いていると飽きるから、バスに乗って行って、停留所から停留所までとか、駅から駅までとか歩くと気分転換になるよ、高岡の万葉線に乗って行ったりね」
「凄いです、それいいですね」「いいよ、やって見たら」「はい」
なんか病院の職員と話が合う、退院した後の虚脱感はこれだったのかもしれないな。
ワシントン広場の夜はふけて/ヴィレッジ・ストンパーズ