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空想歴史ドラマ 貧乏太閤記 167  豊臣秀吉の死

2023年02月26日 17時40分51秒 | 貧乏太閤記
 そんな秀吉も昏睡状態になることが多くなってきて、8月にはもはや意識がもうろうとした状態が続くので、面会も断り、政所と前田利家の妻「まつ」
それに京極殿の三人が交代でつきそうだけであった。
ときどき、医師全宗が様子を見にやってくるくらいである、昏睡はしているがすぐに命がどうこうと言うほどではない
だが日増しに衰弱していくのがわかる、もう食べ物らしい食べ物も、それが水のような粥であっても自力では食べることが出来ない
完全な老衰状態になっているのだ、苦しむこと、痛みを訴えることもなく、ただただ寝ているだけなのだ
そんなとき、今まで音沙汰がなかった淀殿が突然伏見にやって来た、供として大野治長がついている、籠を守る衛士たちは別の広間で待っている

 治長は廊下に座って警護の体制で誰も近づけない、秀吉の寝間を淀が開くと、そこには京極殿がつきそっていた
秀吉は、あいかわらず昏睡状態であった。
「殿下の症状はいかがでありましょうか」淀が聞くと
「ずっとこのままです、もう10日以上目を開けられません、医師は見守るしかないと申しております」
「目覚めることはないと?」
「はい、どうやらこのまま・・・」
「亡くなられると?」
「・・・・・」
「わかりました、私がしばし見ておりますから京極殿はお休み下さい」
「そうですか、それではお言葉に甘えて座をはずします」
「お疲れ様です」
全宗が様子を見に来た、廊下に出て話を聞いた
「殿下はこのまま・・ですか?」
「もはや、治ることはありませぬ、もうずっと何も召し上がりません、今は残った体力を少しずつ消化して生きながらえているのです」
「意識は戻りませぬか?あとどのくらい持つのですか?」
「長くても10日は持ちますまい、短ければ明日にでも」
「そんな そんなに悪いのですか」
「悪いと言うより、苦しむこともなく蠟燭の炎が消えるように静かなお最期となりましょう」
「そうなのですか、わかりました、そなたにもたいそうなご苦労をかけました」
「いえ、もったいないお言葉で、お役に立てず心苦しいのです、しかし殿下と言えども天の定めは避けられませぬ」
「わかりました、最期まで看取っていただけますね」
「それはもちろんでございます、私も城内に一部屋いただいて常駐しております、何かあればおよびください」全宗は淀がいるので部屋に戻った

 淀は秀吉の耳元に口を寄せた、そして小声で
「殿下、殿下、わかりますか? 聞こえますか」
かすかに秀吉が反応した、声と言うより、ため息のようなものが漏れた
「殿下、私の言うことを聞いてください、私は殿下を愛して夫婦として生きるのだと申しましたね・・・でも、あれは偽り
殿下をどうして愛せましょうか、けれども鶴松が生まれた、あれは誤算でした、まさか殿下に子を作る力が残っていたとは・・・
私は悲観に暮れました、いきなり計画が狂ってしまったのですから

でも、殿下に鶴松ができたのは神の悪戯だった、 あれ以後、殿下といくら関係を持っても子はできなかった、やはり殿下には子種が無いと、それに体も老いた、鶴松は100万回に一度の奇跡だったのよ
ところが、あなたは唐入りに夢中になって九州へ行ったわ、その時私は殿下の目を盗んでたった2度だけ若い男との逢瀬でたちまち秀頼を宿したのです、
安心して、殿下より素性は良くて家柄もはっきりしている殿方ですから
何と言うことでしょうか、若さとは子種も元気と言うことなのですのね、たった2度の逢瀬でしたが秀頼が出来てしまった
殿下は鶴松を得て、自分に子種があることを確信したから、少しも疑わずに若侍の子を、自分の子として喜んで後継ぎにした、私にとって願ってもない復讐を果たすことができた
鶴松は本当に殿下の奇跡の子でありました、まぎれもなくあなたの子でした
でも秀頼は9割がた、あなたの子ではありません、いえ言い切れます、あなたの子ではありませぬ。
 豊臣の家は秀頼が継ぐことになりましょう、だが秀吉の血は絶えたのですよ
誰が、あなたを愛しましょうや、私の父と義父を・・私の父を二人も殺した、兄をも殺した、憎い敵のあなたを許せましょうや・・・
思ったより、あなたは純情でやりやすかった、母は確かに私の兄を救ってもらったことで、あなたに感謝していた、それは事実よ
でも、それもあなたの嘘でしたね、あの当時のあなたは伯父に背くことなどできないはずと確信して密かに寺を探らせましたのよ、とうとうあの偽物、莫大な黄金に目がくらんで私の兄などでは無いと白状しました、もう寺になどいませんよ
母は五年もたってから会いに行ったけれどわかるはずがなかった
面影があったから自分に万福丸だと無理に思い込ませて納得したのよ
純真な母と私は違う、ずっとあなたを恨んでいたの、父の仇、兄の仇いつか浅井長政と柴田勝家と母の仇を討とうとね
あなたは私を信じた、バカな男よ、天下人と言っても所詮は男の一人、私の体に溺れて自分を見失しない一族を自ら滅ぼしたバカな男
秀頼は、あなたの子ではないの、誰が夫だろうと死んでいくあなたには関係ないことね、ようやく私は自分の体を犠牲にして復讐を遂げた
私を得るなど伯父に引き立てられなければ決してありえなかった、夢を見ることができたことに満足して成仏して頂戴、供養だけは欠かさずするから安心して逝くがいいわ
私も、あなたの加齢臭を我慢して、ようやくここまでたどり着いたのだから、お互い様ね
いずれ朝廷に豊臣を返上して、織田を復活させる、それが当然でしょ、伯父が一時あなたに預けた天下を織田家に帰してもらうだけ、織田秀頼が生まれるわ、いいえいっそ浅井の父と、信長伯父を併せて織田信政にしましょう、あなたは消えてしまうのだから秀はもういらないわ」

秀吉の手がかすかに動いた、何かを話そうとしている
「聞いてあげるわ」淀は秀吉の口元に耳を近づけた
「て・ん・・・・・」声が途絶えた
「そうよ、天罰が下ったのよ」そう言って、秀吉の顔を見た
そこには息絶えた秀吉の顔があった

 淀はしばらくそのまま秀吉の顔を見つめた、死んだとも生きているともどうにでも見える寝顔は目を閉じていた
たくさんの皴が顔を覆っている痩せこけたただの老人、この顔が、この口が天下のあらゆる猛将たちを恐れさせた男かと思うと不思議な気がする
淀のか細い手でも、こづけば泣き出すのではないかと思えるような貧相の老人
淀は急におかしさがこみあげてきた、「くくく」と笑いをこらえながら、なぜか涙があふれてくる、いったい自分の感情がどこにあるのか・・・
淀は我に返った
「誰か全宗を 殿下が! 殿下が!」悲鳴のような声を上げた
駆け付けた全宗が脈をとった
「殿下は薨御(こうぎょ)なされました」と言った
淀は、激しい鳴き声を上げた 急を聞いて京極も、政所もかけつけた
慶長3年8月18日、(新暦9月18日)太閤秀吉は62歳の生涯を終えた





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