付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「指輪物語」 J・R・R・トールキン

2007-09-03 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 よく「××を見ずして/読まずして○○を語ることなかれ」という言い方をします。教養主義とかアカデミズムにとらわれすぎるのは愚かなことだけれど、先駆者や前例や代表的なものを知らずにエラぶるのもくだらない。
 ま、僕よりも石井くんの文章を引いた方が意図は伝わるでしょう。彼の方が言葉使いが巧みだからだ。何もへたくそが言葉を紡ぐのに苦労する必要はない(……ということで以下に2002年1月5日の「這いうねる日記」より勝手に引用する。文句があれば本人が直接言いに来るように)。

 しかしながら多くの独創は単なる独りよがりだという現実を思い出す必要がある。私は妄想を愛するが、しっかりと訓練されない独創は単なる妄想に留まるものだ。そしてやっと到達した地点は、前人がはるか昔に通り過ぎた場所であったりする。
 数学を独学で続けた少年の、残酷な物語がある。
 彼は貧しかったために上の学校に進むことができなかったが、励ましてくれた教師の恩に報いるべく、農作業の傍ら数学を勉強しつづけた。そして老年になり、少年だった男は教師のもとを訪れる。発見を報告するためだ。
 彼の発見とは、連立方程式の解法であった。
 独力で連立方程式の解法を発見する。それは天才的なことだ。しかし、そんなものは中学校であっさりと習うのだ。半生を費やして、やっと到達した地点とは、つまりこんなものだ。

 というわけで、ファンタジーRPGについて語ったりそれを仕事にしようとする人は、一度は『指輪物語』を読むべきでしょうね。好き嫌いは別。一読して、二度と読みたくない、嫌いと宣言しても結構。そうでなければ、その人の作品は独学で解法する連立方程式と同じことになります。どうせなら、スタートは高い位置から始めた方が楽じゃないですか。

 単に「ファンタジーについて語る」というなら、他に逃げ道はいくらでもあるわけです。「自分は『ゲド戦記』は読んでいるけど」とか「ミヒャエル・エンデを目標にしているので」とか「日本の作家を読み込んでいます」とか幾らでも「原点」「古典」「中心軸」とみなせるものはありますからね。でも、それがさらにゲームとの関わり合いまでいってしまうと、『指輪物語』を無視していては「インスタントラーメンしか知らずに中華料理を語るようなもの」になってしまいます。
 わたしも指輪物語は高校時代に友だちから文庫を借りて苦労して読んだけれど、愛読といえるほど好きにはなれませんでした。映画はDVDで何度も見直すくらい好きですし、結婚のお祝いに評論社の愛蔵3巻本をもらうくらいには好きですが。

 ちなみに2007年のワールドコン「日本2007」のディーラーズルームに、古書店が1つだけ顔を出していました。古書店と言っても本が10数冊並べてあるだけ。しかし「すべて初版」と英語で書かれた張り紙付。
 ラブクラフト初の単行本あたりは2冊セットで60万円とか聞きましたが、「ホビットの冒険」には幾らの値段が付いていたのでしょうか……。

【指輪物語】【J・R・R・トールキン】【アラン・リー】【評論社】【指輪】【光と闇】【エルフ】【ホビット】
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「タムール記」 デイヴィッド・エディングス

2007-09-03 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 ファンタジー作家であるデイヴィッド・エディングスの作品にエレニア記、タムール記という2つのシリーズがありますが、この2シリーズ共通のヒロインが女王エラナです。しかしエラナはエレニア記ではほとんど出番がありません。なにしろ冒頭から死にかけています。

 王国を我が物にしようとたくらむアニアス司教は、アルドレアス王を毒殺し、跡を継いだエラナが意に従わぬと見るや、また同じ毒を使います。しかし意識不明となったエラナは、死の寸前、教母セフレーニアによってクリスタルに封印されます。けれど、それは時間稼ぎにしかなりません。セフレーニアは彼女の命を忠臣である12人の聖騎士に結びつけました。女王の命の灯が消えるまでに、なんとしても毒の正体を暴き、解毒法を手に入れんと12人の聖騎士は探索の旅へと出ます。しかし、それは過酷な旅でした。瀕死の女王の命を背負うことにより、騎士たちには通常以上の負担がかかります。また、行く手を阻む敵の魔手によって騎士が1人倒れれば、それは女王の命がそれだけ縮むことを意味するのです……。

 エレニア記は、この女王を救うための探索の物語なのですが、見事に助け出された女王は、確かに愛くるしい少女でしたが、決して天真爛漫で無垢な少女ではありませんでした。そんな少女に王国を統治できるわけがないのです。

「アニアスはとても優秀な政治家だったわ。人を殺すのにふさわしい時期というものを正確に心得ていたの」

 彼女の魅力は、後のタムール記においてアニアス司教を先に殺さなかったのは自分が弱すぎたからであり、単に先手を取られただけだと認めた上で、この一言をさらりといえる点にあります。とてもステキで、誰もが守りたくなるヒロインですね。ちゃんと帝王教育受けてますね。
 そんな彼女の言葉を幾つか拾ってみました。

「実に破廉恥なやりかたです、陛下」
「賛成してくれてうれしいわ」
(摂政との会話より)

「政治はれっきとした犯罪なのよ」
(言い切りました)

「殺人も最初のふたつが終われば、あとはぐっと楽になるわ」

「死ぬまで危険がついて回る事実を受け入れたほうがいいわ。だけど、結構わくわくさせられることなのよ、いったん慣れてしまえばね」

「"泥ん中ころげまわる豚みてえに喜んでる"って表現を書きとめておいて、レンダ。公的文書にうまく使えるかもしれないから」
(『星界の紋章』で似たようなセリフを聞きました)

 何人もの騎士が命懸けで救ったお姫さまは、目覚めてみればこんなやつですよ★ また、こうでなければ救う価値はありません。いろいろファンタジー小説やアニメにはお姫さまが登場しますが、オールタイム・ベストにいれたいお姫さまナンバーワンです。

 翻訳されているエディングス(David Eddings)の作品というと、強い女たちはもちろん、そのいずれもが一癖も二癖もある登場人物たちが織りなす英雄と神の物語。英雄と神の物語というと、まず『指輪物語』なのだけれど、『指輪物語』を読み終えてもっと英雄譚が読みたいけれど読みづらいのは……という人にはお薦めでしょう。エディングスの作品の特徴は会話の軽妙さととにかく女性が強いことなのです。
 いや、男もみんな強いですよ。弓を射れば百発百中、トロルと戦い、幾多の戦いをくぐり抜け、神すら屠る戦士たち。でもそんな勇者たちも女性には誰も勝てません。毒舌や恋のテクニックはもちろんのことだけど……これだけ美女・美少女が揃っていて、1人くらい男の肋にナイフをえぐり込んだり、首に紐を回して引っ張るのを躊躇うキャラが1人くらいいてもいいと思いませんか? なんか、みんな血に飢えてますね。

「タムール記」★★★★★

【光と闇】【探索】【隣の神さま】【指輪】【年の差カップル】
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「地球への追放者」 K・H・シェール

2007-09-03 | 破滅SF・侵略・新世界
 侵略SFのネタの1つに、人間そっくりというのがあります。
 映画でも小説でもアニメでも古今東西人間そっくりの宇宙人なんてのはありふれていて、地球人も宇宙人も同じ姿でした、祖先が同じでした……とかいう話は定番。そうではなく、いつの間にか人間が別の何かと入れ替わっているというネタは面白いよねという話です。
 たとえば手塚治虫の『マグマ大使』のニンゲンモドキ。なんか名前だけで勝ったも同然のインパクトです。全身黒ずくめの人間に似た生き物が、特定の人間と顔かたちや話し方まで瓜二つとなり、人間と入れ替わって侵略を進めていきます。ジャック・フィニィの『盗まれた町』も状況的には似ているかな。パターンとしてはキース・ローマーの『優しい侵略者』やテレビ映画『V』みたいに人間そっくりに作ったボディを被っているのが多いみたいです。『MIB』に出てくる宇宙人もこの手が多いですし、『ミクロイドS』の人虫もそうですね。
 そんなパターンの作品の中でも『ペリー・ローダン』のメインライターであるカール・ハーバート・シェールの『地球への追放者』は個人的に好きな作品ですね。昔の作品だから、長編と言ってもさほど多くないページにしっかり物語が詰まってます。映画にしたらきっちり2時間分。

 天才的科学者であり、またアシュト星の宇宙艦隊提督でもあったトロントゥルは非合法の科学実験を強行したため終身流刑の判決をうけてしまった。超兵器の実験でちょいと星1つ消してしまったのだけれど、正規の手続を経ていなかったのだ。
 トロントゥルは医療過誤で同じく流刑となった医師と共に未開惑星に放逐されるが、その惑星こそ東西冷戦の真っ直中で原子力時代に突入した地球であり、転送機で送りこまれた場所は合衆国の秘密軍事基地の演習場ど真ん中であった。それに気づいたのは基地保安部の司令官ただ1人。しかし彼もまた異星人であり、同じように地球に潜入し要人と入れ替わった仲間たちと共に地球を核戦争に導かんと画策していた……。


 核戦争の恐怖に隠された地球侵略の陰謀に気づき、手がかりをつかんでも、相手がうまく人間と入れ替わっているため、誰を信用して良いのか分からない手詰まり感はまさしく侵略者テーマならではの醍醐味。人類側の土壇場での反抗作戦は派手なシーンこそないものの、その盛り上がりは最高。火薬不足はラストの南極基地での掃討作戦で補うという案配。是非とも実写で観たいと思っていたら、なんとスペイン・アメリカ合作で映画化されているんだとか(寡聞にして聞いたことがないし、調べても出てこない…)。

【地球への追放者】【Der Verbannte Von Asyth】【K・H・シェール】【創元推理文庫】【マグマ大使】【盗まれた町】【ミクロイドS】【人間そっくり】【レプティリアン】【原子力】
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「ペリー・ローダン」 マール&ダールトン 他

2007-09-03 | 宇宙・スペースオペラ
 ドイツのSF小説といったら『ペリー・ローダン』、宇宙英雄ローダン・シリーズが有名。スタートは1961年で、複数作家による連作として週刊ペースで書き継がれてはや何十年何千冊(2003年に2200冊突破)で、今なお連載中。日本版は月1冊2話収録でそれなりに頑張ってはいるけれど、本家が今すぐ連載終了となったところで追いつくのは何十年先のことやら。むやみやたらに長いことから笑いのネタになることが多いけれど、年季の入ったSFファン同士が語り出せばその内容の面白さに留まるところを知らない。

 1971年に人類として初めて月面に降り立った宇宙飛行士ローダンが異星文明と遭遇し、その技術力を使って地球統一政府を成立させるなんてのはついでの話で、あとは銀河系単位、文明単位の攻防が100年1000年の単位で繰り広げられ、思いつく限りの壮大・荒唐無稽・奇想天外なアイデアが次から次へと投入されていく。マゼラン雲で時間警察に遭遇したり、生命体を痴ほう化させる小銀河が銀河系に出現したり、超知性体同士の抗争に巻き込まれたり、旗艦の所在も不明な無限艦隊と接触したり、銀河系に障壁が張られたり、過去に飛ばされたり異次元に飛ばされたり平行世界に飛ばされたり。さらにはメイン・キャラクターたちも死んだり蘇ったり髪の色が突然変わったりと大忙し。

 他の作品にインスパイアされている部分も多いので、一読の価値はあり。今さら1巻から読めというのも無理な話だし、ドイツ語の原書で最新作を追いかけるというのも無茶なので、適当に新刊を1冊買ってみるくらいで良いかと。
 ちなみにここ数百話で最高の萌えキャラは16歳の美少女エスパー・エイレーネらしいが、日本語でお目にかかれるのは何十年先のことやら……(ざっと計算したら37年後くらい)。
 でも、もう既にドルーフ艦隊あたりで置いてかれてますので、あらすじ追うのが精一杯。

【ペリー・ローダン】【マール】【ダールトン】【スペオペ】【不死】【超能力者】【無限艦隊】
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「おたくの本懐」 長山靖生

2007-09-03 | エッセー・人文・科学
「女子はめしを食うからな」

 『おたくの本懐』なんていうタイトルだから無視していたのだけれど、会議の時間待ちに手に取ったら面白い。文庫化の際に、「オタクって流行らしいから」でタイトル変えられたかな。軽薄。確かにもともとのタイトルは「コレクターシップ」だったらしい。
 でも中身は重厚。「おたく」というより、「コレクター」であり「ディレッタント」であり「趣味人」と呼ばれる人々の列伝といった方がよい(勝手な定義をするもんじゃない)。なにせ、虎狩りの殿さまことマレー軍制顧問の徳川義親や民俗学者の柳田国男に南方熊楠、渋澤龍彦、路上観察の赤瀬川原平、作家荒俣宏……って、彼らを「おたく」でくくりますか? 「「集める」ことの叡智と冒険」の副題通り、金に糸目をつけずに集めまくった殿さまから、醤油とライスだけで膨大なコレクションを集めたサラリーマンまで紹介しつつ、その生き方からコレクションの価値とか意味について語っていくというスタイルの本です。
 闇雲に集めるだけでは意味が無く、集めることによって意味を持たせることが重要という視点は、『画商デュビィーンの優雅な商売』でのコレクションを集めるのに使った金こそがコレクションそのものの価値というテーマとまったく正反対で、比較して読むのも面白いかな。

「おたくの本懐」★★★★

【コレクター】
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