付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「バベル-17」 サミュエル・R・ディレーニイ

2007-09-28 | 宇宙・スペースオペラ
 異世界を構築する究極の方法は"ことばをつくる"ことです。ベルディンは「人は言葉で思考する。言葉がなければ思考はない」といいました。実際、単語や文法を分析すれば、その言葉を使う人たちの思考法から生きている世界まで推測することは可能です。
 (異説もあるようですが)順序からいえば環境と生活があって言葉が生まれ、言葉が生まれて人は意識して思考するようになるといえるわけです。
 エスキモーには雪の白さを表す単語が何十とありますしモンゴルの遊牧民には馬の毛並みの状態を表す単語が同じくらいあります。逆に南米のある部族はヨーグルトの一種以外に食べるものが周りにないので、食事に関して美味いとか不味いといった単語はなく、ただ満腹か空腹かの区別しかないそうです。
 これらの単語の有無からでも、そこで生きる人々の生活環境や何を重視しているかを知ることができます。つまり"ことばをつくる"ということは、単に単語や文法をつくるだけではなく、その世界とそこで生きる人たちの生き方まで創造することになるのです。

 しかし、逆もまた真なりで、言葉によって思考を制御することも可能かもしれません。
 その独特の世界設定で知られるディレイニの『バベル17』は星間戦争の舞台裏の諜報戦を扱った作品ですが、その核となるのが敵国が生み出した暗号バベル17です。これは単なる暗号ではなく、れっきとした人工言語であり、その特徴は主語が存在しないこと。言葉としては洗練されており、単純に思考するだけなら最高の言語なのですが、"自分"という存在を認識しないため、この言葉を使い続けるに従い、無意識に言語そのものに組み込まれたプログラムに従って行動してしまうという、洗脳プログラムと一体化したような優れものです。
 まあ、トールキンのように神話や言語を丸ごと構築するのは無理としても、異世界と架空言語をつくるなら、これくらいの芸は見せて欲しいというお手本です。

「わたしは現代の一部ですわ。現代を超越したいと思ってはいるんですけど、現代そのものが、わたくしという人物を作り上げるのに、大きな役割をしていますから」
 言語学者リドラ・ウォンの言葉。誰しも生まれながらの立ち位置を変えるのは困難なものです。

【バベル-17】【サミュエル・R・ディレーニイ】【言語】【防諜】【癒着ペット】
コメント (2)
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「クトゥルー神話ダークナビゲーション」 森瀬繚

2007-09-28 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 クトゥルフ神話を解説したムックを入手。
 ただこれはこれまでに刊行された類書と異なり、ライトノベルやゲームまで、今までなら(イロモノとして)ほとんど無視されてきたジャンルまで網羅した意欲作、というか企画の盲点。今までは紹介者の「まず正統派を認知してもらわなければ」という志が邪魔してたのかね?
 いや、もう、なんでもありのラインナップに「よくぞ、ここまでまとめてくれた!」と感涙。ラブクラフトから連なる正統派の年表や事典があるかと思えば、書籍としては『邪神ハンター』や『拝テンション』まで紹介され、古橋秀之、西川魯介、後藤寿庵、友野詳、芝村裕吏、広江礼威といった面子へのインタビューの合間に内田弘樹クトゥルーVS自衛隊の仮想戦記が挿入されるという福袋状態!
 あえていうなら『イクサー1』への言及が……。

【クトゥルー神話ダークナビゲーション】【森瀬繚】【クトゥルフ】
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「ガンパレード・オーケストラ ドラマCD 青の章」

2007-09-28 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
 ゲーム『ガンパレード・オーケストラ 青の章』のドラマCDです。
 
 これは「二十四の瞳」さながらの島の分校の生徒たちが、建造半ばで放棄された天体望遠鏡<たんぽぽ>での観測を成功させるまでの話です。
 前半は年長組を中心に、島に左遷されたカタブツ・永野英太郎と同じくカタブツの委員長・田上由加里、それに夜行性引きこもり少女・蔵野みずほの三角関係を中心に話は進みます。恥ずかしくなるくらいラブコメしてます。それから、未完成の<たんぽぽ>への想いが、さまざまな人たちの口を通して語られます。

 夢の墓標ですよ、夢の墓標。単に、宙を見たくて人々が頑張り、そして挫折した記録。観測班として訓練を続け、観測開始に備えながらも放置され続けた観測隊の無念。そんなものの塊です。
 後半のVol.2は少し時間が戻って、男先生が島の放棄を告げるあたりから観測成功までを、超人田島とチエゾーと辻野の三角関係を中心に文化の相違から来る誤解を……って三角関係ばっかりだな……んでもって、Vol.1での一介の学兵として赴任しつつ実は天才ウォードレス・デザイナーだった嶋丈晴と、Vol.2での食いしん坊の二重人格として登場する鈴木俊郎のゲームが絡んで話が進むことになります。
 彼らの繰り広げるゲームとは何か? 嶋先生はなぜ島に棲息する小動物シマシマを01ネコリスと呼ぶのか? 超人田島はなぜ超人と呼ばれるのか?……って、こっちはゲーム情報としてオープンになってますね。七つの世界を通じて最強の戦士の一人で、火星人イルル・アイシン(マイケル・コンコード)と太陽系総軍中佐ハリー・オコーネルの子孫。実家は植木屋。三段跳びの記録4000m以上(正確な記録不可能)、棒高跳び記録1万mという記録の保持者。
 それでも田島は言います。自分は超人なんかじゃない。本当の超人は、もっと優しく、もっと強いものだと。

 言い寄る佐久間浩司を軽くあしらう飛子室アズサも良い味です。

【ガンパレード・オーケストラ】【ドラマCD】【青の章】【ラブコメ】【ネコリス】【絢爛舞踏祭】【介入限界】【黒い月】
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「[冲方式]ストーリー創作術」 冲方丁

2007-09-28 | エッセー・人文・科学
「何でもいいので、何かを過剰にしてみましょう」

 『[冲方式]ストーリー創作術』を読了。
 『マルドゥック・スクランブル』『蒼穹のファフナー』の冲方丁が、自作をサンプルにストーリーの創作について伝授するというもの。デビューが96年ですから、そんなにベテランの作家ではありません。でもそれはつまり、ピチピチの現役最先端の作家ということであり、その作家の創作手法とか編集者とのやりとりというのは勉強になりそうです。
 これから小説やゲームのシナリオなどに取り組もうという人には格好の入門参考書かな。

「[冲方式]ストーリー創作術」★★★

【小説の書き方】
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「銀河英雄伝説」 田中芳樹

2007-09-28 | 宇宙・スペースオペラ
「体制に対する民衆の信頼を得るには、ふたつのものがあればよい。公平な裁判と、同じく公平な税制度。ただそれだけだ」
 ラインハルト・フォン・ローエングラムの言葉。

 とはいえ、これほど難しいものはありません。税制だって、公平にしようと思うから補則や例外事項が付きまくって複雑怪奇になってしまうのです。「公平」の定義だってさまざま。わかりやすく例をあげるなら、「年収300万円の人も月収300万円の人も一律10%の税金を納める」ことが公平なのでしょうか。あるいは「年収が300万円の人は税金を納めなくても良いけれど、月収が300万円の人は半分を税金に納める」ことが公平なのでしょうか。才能とか努力とか境遇とか、人それぞれ千差万別であるはずのものを、1つの型に収めようとするところに無理が生じます。
 つまりは程度問題なんで、この場合は「ほどほど」の意味だと理解しましょう。

「政治家とは、それほどえらいものかね。私たちは社会の生産に何ら寄与しているわけではない。市民が納める税金を、公正かつ効率よく分配するという任務を託されて、給料をもらってそれに従事しているだけの存在だ。私たちはよく言っても社会機構の寄生虫でしかないのさ」
 いや、そこまで卑下しなくても……。こちらは政治家ホワン・ルイの言葉。

「『それがどうした』 この世で一番、強い台詞さ。どんな正論も雄弁も、この一言にはかなわない」
 イゼルローン駐留艦隊分艦隊司令官ダスティ・アッテンボロー少将の言葉より。
 もちろん、それを言い切るだけの面の皮の厚さも必要なのですが……。

 『銀河英雄伝説』は田中芳樹の出世作であり、日本スペオペのターニングポイントともなった作品。
 80年代はみんな『銀河英雄伝説』が好きでした。でも、これ以後、類似のファンタジーやスペースオペラがあちこちから発表されて、嬉しいのを通り過ぎて食傷気味に。でもそれは『銀英伝』が成功したからこそ発表できるようになったようなもの。だから(自負心は大事だけれど)「オレの作品は『銀英伝』なんかとは違う」と豪語するようなのは忘恩の徒だよね。もしくは虚勢。
 さて、中学生の長男に読ませてみたけれど、まだあいつには面白さが伝わってない模様。早すぎたか。2巻読了後の感想を聞いていて「え、キルヒアイスって死んだの?」といわれたときにはぶん殴ろうかと思いました。家庭内暴力だろうと、これだけは許して欲しい。

「恋愛の10や20やらなくて、一人前といえるものか」

 オリビエ・ポプランの言葉。

「女というものは、愛してもいない男の子を宿すことができるのです。そして男はというと、自分の妻が産んだ子は自分の子だと信じることで幸福になれるのです」
 オスカー・フォン・ロイエンタールの言葉。女性不信の度合いではレルグと双璧です。

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アリス・ステヴィンス・ウェルズ

2007-09-28 | 雑談・覚え書き
 今さらですが、日本で最初の婦人警官が誕生したのは1946年4月27日。GHQの指示により東京警視庁が62人を採用したのですね。ちなみにこのときの制服はズボン……っていうかスラックス?

 では、世界最初の婦人警官がいつ頃誕生したかというと…………1910年9月12日のロサンジェルス市警。第1号の名はアリス・ステヴィンス・ウェルズ(Alice Stebbins Wells)。
 それも単に任命されたのではなく、女性しかできない仕事もあるんだから警察にも女性が必要なんだと嘆願書に署名を添えて突きつけ、自分で認めさせたらしい。
 青少年の補導とかあれこれやる一方で、アメリカやカナダを講演して回って女性警官の採用を促して回った上に、国際的な連絡組織である国際婦人警察官協会(IAWP)まで作ってしまった女傑です。
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