付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「アンドロメダ病原体」 マイクル・クライトン

2007-09-26 | 破滅SF・侵略・新世界
「死ぬときに血を流すということが、われわれを人間らしくしているのだ」
 医師チャールズ・バートンの言葉。

 まだ子供の頃、この作品を原作にした映画の広告が下段ぶち抜きで新聞に掲載されていました。それはいかにも恐ろしげで、子供心に怯えてしまったものです。映画は観ることなく終わってしまい、それから何年かして原作を手に取ることになります。
 文庫を出している早川書房は、作品が映画化されるとジャケットをすぐに映画スチールに差し替え、ほとぼりが冷めるとまた(元の表紙に戻さずに)別のイラストにすると仲間内では不評でした。だって、そうすると3種類揃えないといけないじゃないか……。
 それはともかく、購入したときの表紙は映画の1シーンを切り出したもので、真っ青な青空の下、真っ白な気密服に身を包んだ医師が赤ん坊を抱き上げているという、作品を象徴するシーンでした。その選択には文句はないよね。

 地球へ帰還した人工衛星を回収に向かった軍のチームと連絡が途絶。前後して周辺の街で奇妙な事件が発生する。そして調査に発進した偵察機のカメラは、すべての人間が死に絶えたように見える街の光景を映し出した。
 なんらかの汚染が発生したと判断されるや、ワイルドファイア警報が発令された。事前に定められていた手続きに従って秘密裏に招集されたメンバーは、人里離れた砂漠の地下に建設された研究施設にて原因の究明と解決に取り組むことになった……。

……ということで、科学者たちが科学的な危機に立ち向かった5日間の記録という形で、細菌汚染の顛末について語られます。50人以上の人々が突然気が狂ったようになって死んでしまった中で、なぜ酔いどれの老人と赤ん坊だけが生き残ったのか。未知の病原体と研究チームの戦いが繰り広げられ、オッドマン理論や細菌戦による被害予想シミュレータのデータとか、虚実も定かでない理論やデータがぶち込まれ、妙なリアリティを醸し出しています。
 あと、この作品の大きな魅力の1つは、農業試験場地下に設置されたワイルドファイア研究所にあります。ほとんど研究施設の中だけで話が進むので、この舞台に魅力がないと面白くないわけですが、期待に十分応えてくれます。(同時期の「謎の円盤UFO」でも見られた)カムフラージュされた部屋ごと降下するエレベータとか、瞬間的に全身の皮膚を焼き払う消毒システムとか、マニピュレータとか隔離エリアの作業システムとか、秘密基地としての外連味もたっぷり。

 書庫整理をしていて他のバージョンも出てきたので、表紙イラストを掲載。
 右が映画化に合わせて文庫化されたときの表紙、真ん中がペーパーバック版、左が復刻された文庫版。(2017/11/21)

【アンドロメダ病原体】【マイクル・クライトン】【ハヤカワ文庫SF】【バイオハザード】【自爆装置】【地下秘密基地】【細菌戦】【核兵器】【プリンター】
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イヴ・ポール・ガストン・ル=プリウール

2007-09-26 | 雑談・覚え書き
 潜水具の歴史をひもとけば、真っ先に、かつもっとも大きく記述されているのは、1943年のクストーとガニアンによるアクアラングの開発です。
 フランス海軍の軍人として、潜水用の呼吸装置(アクアラング)を開発し、水中考古学という分野を生み出したジャック=イヴ・クストーらの功績の偉大さは誰も否定できないでしょう。
 けれど、それ以前に個人用潜水具を開発する試みがまったくおこなわれていなかったわけではありません。1番に着目するのは大事だけれど、2番以下を無視してもいけません。

 日本でも1913年には大串式、1933年には浅利式と呼ばれる水中活動用マスクが開発されていましたし、1926年にはフランスのル=プリウールが高圧ボンベとレギュレーターを使うスキューバを開発していました。
 ここで、もう少し詳しいことを知りたくなり、このプリウールという人について調べてみましたが、なかなか見つかりません。しかしそこはそれ、半可通の付け焼き刃ですが、インターネットというのは便利なものです。

「日本語サイトがないなら、英語でもフランス語でも探せばいいじゃありませんの!?」

 ということで、日本語サイトで名前の綴りを調べ、さらに検索を続けてみると、イヴ・ポール・ガストン・ル=プリウール (1885-1963)という名前がちゃんと出てきます。フランス海軍士官。クストーの先輩ですね。
 1925年から1937年にかけて潜水具の開発をおこない、1926年に、フルフェイス式のマスクを利用し、ボンベに入れた圧縮空気を利用したFernez/プリウール・システムで特許を取る……。
 しかし意外なことに、彼の功績について言及したサイトで真っ先に言及されているのが「日本で最初に飛行機を飛ばした」ということだったのです。あ、意外……。

 では本当に彼が日本で最初に飛行機を飛ばしたのでしょうか?

 無人グライダーを可とするなら、凧作り名人と言われた二宮忠八。1891年4月29日のことです。二宮はさらに有人飛行機の開発を志しますが、資金援助をどこからも受けられず、1903年12月17日、ライト兄弟に先を越され、以後の開発を断念してしまいます。
 そして1909年。大使館付武官として東京に赴任していた海軍士官イヴ・ポール・ガストン・ル・プリウールは、海軍中尉相原四郎や物理学者田中舘愛橘らの協力を得て有人グライダーを開発。同年12月5日には不忍池にて子供を乗せての初飛行に成功。その5日後にはル・プリウール中尉自身が自動車に引かせて100mの滑空に成功(アジア初の有人飛行)。同日、相原中尉が同じく飛行を試み、失速、墜落しています(アジア初の墜落事故)。
 プリウールはその後も海軍士官として航空機にかかわったようです。
 世界大戦が勃発して1916年4月。フランス軍は世界初の空対空ミサイルを戦闘に導入。ドイツ軍の偵察気球に攻撃を仕掛けました。このミサイルはル・プリウール・ミサイルと呼ばれ、ツェッペリン飛行船の迎撃にも用いられていたそうです。
 しかし、このミサイルには射程が短いという致命的な欠点がありました。目標を射程範囲にいれるためには、搭載した飛行機が目標と接触しかねないほど近くまで接近しなければならなかったのです。そんなものは体当たりと一緒です……。
 そして世界大戦が終わるとル・プリウールは再び海に戻り、今度は潜水具の開発に着手したのですから、基本的にメカ好き発明好きな人間だったのでしょう。しかし飛行機もミサイルも潜水具も、いずれも国を守るための道具でもあり、軍人としての職務とも矛盾しなかったのです。

【グライダー】【潜水具】【ミサイル】
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「がんばっていきまっしょい」 敷村良子

2007-09-26 | スポーツ・武道
 第4回坊っちゃん文学賞受賞という敷村良子の『がんばっていきまっしょい』を読了。

 文武両道の進学校に入学した主人公は、新学期早々に落第生のレッテルを張られるが、彼女はふと見たボート練習の光景に惹かれる。けれども男子ボート部はあっても女子ボート部はなく、少女は何としても女子ボート部を作ろうと決意する。だが試合に出るには漕手4人に舵手1人の5人が最低でも必要なのだが……。
 四国を舞台にした、1人の少女の3年間の物語。


 ……ということで、映画化され、またテレビドラマ化もされた作品だそうですが……普通に面白くはありましたが、特別にむちゃくちゃ面白いというほどでもなく……そう、すべてが淡々と進みます。シンプルなストーリーで、キャラクターの掘り下げもさほど深くないので、そういう意味では映像向きかもしれません(膨らますも端折るも自由自在ですから)し、逆に映画のノベライズといった方がしっくり来るかな。
 長けりゃ良いってもんじゃない、人間の心の中をあれこれ書き込みゃ上等ってわけじゃない、というのが持論ではありますが、なんか、もう少し人物を掘り下げてみても良いかと思います。

【がんばっていきまっしょい】【敷村良子】【茂本ヒデキチ】【幻冬舎文庫】【ボート】【伝統】
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「肝盗村鬼譚」 朝松健

2007-09-26 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 父親危篤の知らせに忌み嫌っていた故郷へ妻と共に足を踏み入れることになった宗教学者・牧上文弥は、不可解な現象に悩まされながら、いつしか奇妙な儀式へと巻き込まれていく。だがそれは周到に用意された儀式の始まりに過ぎなかった……。

 朝松健が大病後の復帰第1作に選んだのは、北海道の海辺に位置する僻村で繰り広げられる事件の顛末でした。排他的な海辺の街、記録に残っているだけでも官憲の大規模な摘発が何度もあり、付近の海域では海軍が不可解な演習をしていた……となれば、もちろんクトゥルフものの王道パターン。話が進んで行くにつれ、あいまいだった伝承唄や風習や姻戚関係が明らかになり、その背後に隠された邪神復活の試みの胎動が激しくなっていきます。
 なんというか、H.P.ラブクラフトと横溝正史を足して割ったような怪奇と混沌の物語です。

「肝盗村鬼譚」★★★★

【クトゥルフ】【井戸】
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「戦艦大和欧州激闘録~鋼鉄の破壊神」 内田弘樹

2007-09-26 | 架空戦記・仮想戦史
 内田弘樹の『戦艦大和欧州激闘録~鋼鉄の破壊神』を読了。
 面白かった。
 ろくな活躍をすることなく消えていった戦艦大和を、いかに最強の兵器として甦らせるかの一点に絞った架空戦記。航空機による劇的な戦術の変化も無視することなく、その上で極限にまで戦艦大和を強化するにはどう改造したら良いか、その改造を実現するためには状況をどう変化させれば良いか、改造した大和に見せ場を与えるためには……そういう方向に思考実験を繰り返した作品。

「みんな、強い戦艦が大好きなのさ」

「みんなが『戦艦は役に立つ』、なんて勘違いしちゃ困るだろ?」

 この2つのセリフで、作品すべてを言い表しているんじゃなかろうか。戦艦の限界もわきまえてはいるけれど、それでも最強最悪にしてやるぜ!!という作品。
 だいぶ文章もこなれてきて面白く読めました。もう少し構成をシンプルにした方がいいかな。キャラ的にはロシア軍人たちが良い味出してました。願わくば、「燃え」だけでなく「萌え」を……というか、これでもか! そうきたか! これならどうだ! 漢の生き様を見せてやる! ただの戦艦と思うなよ!と畳みかけるような構成なので、肩の力を抜いて、にやりと笑える箇所も欲しい気がします。無くても面白いけど、あれば最高。

「戦艦大和欧州激闘録~鋼鉄の破壊神」★★★★

【大和】【魔改造】
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