付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「team root-T」 遊演体

2007-09-14 | 超能力・超人・サイボーグ
 ちょうど10年ばかり前の夏の終わり。1ヶ月ほどの短期間、インターネット上で1つのゲームが動きました。主催は日本のネットワークを意識したRPGの草分けである遊演体。
 当時は大規模オンライン専用ゲームがやっと出始めた時期でしたが、まだインターネットもない時代に『ネットゲーム'88』を発表した遊演体です。少数参加者による参加費無料の実験作ではありましたが、郵便を利用したアクションやリアクションのやりとりをeメールに置き換えただけのようなPBeMが主流となりつつあった時代に、インターネットの可能性をとことん模索した作品を送り出してきました。
 他のプレイヤーとのやりとりがすべてメールやチャットや掲示板の書き込みだけでできる時代。(女性と思ってメールをやりとりしていた相手が実は男性であったというケースもあるように)果たしてモニターの向こうから話しかけてくる相手は現実の存在なのでしょうか。あるいは逆に、インターネットでつながっている相手は、(どんなに信じがたい相手であろうと)本当に存在するのだと仮定して良いのかもしれません。つまり、インターネット空間に限定したバーチャル・リアリティを追求したゲーム。
 それが『影岡探偵事務所』であり『team root-T』でした。

 この作品は、今、その一部分をネット上で閲覧することができます。

http://touch-your-dream.org/
http://www7b.biglobe.ne.jp/~manase/history/trt/trt.html

 しかし、これはあくまでも一部分。割合でいえば半分に満たないかも知れません。なぜなら、その醍醐味はeメールや掲示板における他のプレイヤーやNPCとのやりとりにあったのですから。
 ゲームの基本はサイトに掲示されるニュースや情報をもとに的確な行動を考え、NPCたちに調査や作戦を指示することです。つまりプレイヤーはあくまでプレイヤー自身であり、第三者にインターネットを経由して調査依頼や協力依頼をしていきます。それがNPCであろうと他のプレイヤーであろうとやることは変わりません。
 そしてストーリーの内容とプレイヤーの役割をひとことでいうと、巨大人型兵器や使徒の代わりに超能力者が出てくるエヴァンゲリオンで、プレイヤーは葛城ミサトみたいな役を演じて年少の少女たちを叱咤しおだて戦場へとかりだすけれど、敵は強大で正体不明。そのくせ味方は情報を出し惜しみするし裏切り者もいるみたいだし……で、最後は戦略自衛隊はネルフ突入してくるし、補完計画は発動しそうだし……という話。真面目にやればやるほど精神的に負荷がかかるゲームですよ。
 つまり単なるゲームなら、1対200とかとんでもない負け戦に放り込まれたら、ゲームを投げ出したり、気軽に一か八かの特攻とかやれるんですよね。でもこのゲームでは、コマンド1つで突撃!なんてことはできません。それをやるのは自分とか自分の分身ではなく、それまで半ば照れながら文通していたNPC少女たちなんだもの。
 それまで、ちゃんと能力を発揮できるよう、心を開いて指示に従ってくれるよう、メールで応援したり叱咤し続けていた少女たちに、ちゃんとeメールで手紙を書くのですよ。「君は1人で敵が待ちかまえている中に突入して下さい。囮だから、せめて500人くらいは引きつけて。できたら相手を全滅させて、基地の爆破もしておくように」ってさ。最低!
 
 で、最後の最後に返事が届きます。各プレイヤーがそれぞれもっとも親しくしていた少女や女性たちが出撃前に書いた最後の手紙。これでトドメ。
 今までのめり込んだゲームはいろいろあったし、苦しかったゲームも多かった。メインNPCと親しくさせてもらったことも少なくありません。でもこれは別格。まあ、なんだ。自分が死地に送り込んだ相手から届く御礼の手紙って辛い。ありがとう。愉しかった。でも死にたくないよ……って……。

「team root-T」★★★★★

【超能力者】【横浜】【日本軍の遺産】【文通】
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「予知夢を見る猫」 木村初

2007-09-14 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 インターネットでのトラブル処理が仕事の主人公が遭遇したクイズサイトの問題写真は、いずれも近い未来に起きるはずばかりのものだった。ネット・カフェに届けられるメールの出所は? そしてこの予知映像は何なのだ。トリック映像、あるいは本当の予知なのか?
 学生運動や安保闘争の残り香が次第に漂い、主人公の周囲に死の影が迫る。

 ドリームキャスト版で発売された同名ウェブ・ミステリーのノベライズという位置づけらしい。ただ、そのせいなのか、説明不足だったり、ご都合主義すぎたりと、ゲームノベルのシナリオの1つなら気にならないけれど、これ1冊がすべてとなるとムチャクチャ気になるし、腹も立つなあ。
 ええ、未来予知の映像は猫が見た夢でしたが、それがなにか!?

「予知夢を見る猫」★★

【猫】【予知】【探偵】
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「外交舞台の脇役」 パウル・シュミット

2007-09-14 | 時代・歴史・武侠小説
 パウル・シュミットの『外交舞台の脇役』を購入。ドイツの首席通訳官が1923年から45年にかけて見聞きした、ワイマール共和国から第三帝国における外交の舞台裏の記録。
 面白いけど読みにくい。ノンフィクションとか伝記というより学術書として訳されているので、固有名詞が軒並み原語表記(RibbentropとかLondonくらいカタカナ表記でいいじゃないか……)。
 外交の舞台ではヒトラーやリッベンドロップらの傍らに常に控えていた人物だけに、細かなやりとりや人物描写は面白いし、条約の翻訳を巡るてんやわんやや「最後の審判のラッパが吹き鳴らされるまで続くのか!?」という交渉の紆余曲折は一読の価値ありなので、むしろこの本をベースに誰か小説にして欲しいもんです。

「外交舞台の脇役」★★★

【外交】【通訳】【大戦】
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「こどものおもちゃ」 監督:大地丙太郎

2007-09-14 | その他フィクション
 ず~っと気になっていることがあります。

 小花美穂のコミックが原作の『こどものおもちゃ』というアニメがありました。ちょっとした芸能バラエティに出演している倉田紗南は小学校6年生。母親は小説家。その彼女が出生の秘密や崩壊しているクラスの問題などに毅然と挑んでいく元気コメディー・ドラマ(ときどきシリアス)。
 アニメは大地丙太郎監督作品で、なかなかパワフルなハイテンションアニメだったんですが……途中、母親が誰かの保証人になっていたらしく、税務署に突如家財を差し押さえられ、一家が路頭に迷うストーリーになります。
 このシチュエーションはいったいどういう状況なのでしょう?
 他人の保証人になっていて借金取りに追われるのはよく聞く話。でも、ここで差し押さえにやって来たのは、ヤクザでも裁判所でもなく、税務署……。
 税金をよほど滞納したって、納税方法について管理徴収部門と相談していれば差し押さえまでは普通いかないし、差し押さえてもせいぜい給料とか預金口座とか売掛金まで。特に社会的知名度のある作家なら、差し押さえるのはまず版権と印税だろうに……。家屋敷から追い出して生活権を侵害するような危険なマネはしないと思うし、税務署にそこまでさせたのだとしたら、あの母親はよほど悪質な行為を常習的にしてたんでしょうか?
 いじめとか離婚といった問題まで丁寧に描いているだけに気になります。

「こどものおもちゃ」★★★★

【作家】【税金】【芸能界】
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「対訳 ブレイク詩集―イギリス詩人選(4)」 ウィリアム・ブレイク

2007-09-14 | エッセー・人文・科学
 アルフレッド・ベスターという作家がいます……いました(調べたら1987年没でした)。コミック『スーパーマン』の脚本とかも書いたりした人ですが、その人の代表作が宇宙を舞台にした復讐譚『虎よ、虎よ!』。けっこう有名な作品で、ベストSFにはかならずといっていいくらい名前の挙がるもの。
 で、そのタイトルの元となったのがロマン派詩人、ウィリアム・ブレイクの詩『The Tyger』。

 Tyger! Tyger! burning bright,
 In the forests of the night,
 What immortal hand or eye
 Could frame thy fearful symmetry?

 詩は中学高校時代に(ゲーテとか高村光太郎とか)ちょこちょこ読みましたが、たいして面白いとは思いませんでした。いかにも教科書的だったり甘ったるかったり……。取り柄といえば簡単に読み飛ばせるので、図書の貸出記録数を伸ばせるくらいです。
 でも、ブレイクの詩って、カッコイイんですよ。ときに神話的で、ときに叙情的で、荒々しかったり優しかったり、野獣が駆け、天使が舞い、ファンタジー好きの心をくすぐります。

「対訳 ブレイク詩集」★★★

【女神】【野獣】【詩】
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