付け焼き刃の覚え書き

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「宇宙への序曲」 アーサー・C・クラーク

2008-03-23 | 宇宙・スペースオペラ
「長い目で見れば、知識は必ず現金の形で戻ってきます。しかし、それでもやはり、金にはまったく換えられないものです」
 ハイパーダイナミックスの専門家レイ・コリンズの言葉。

 1978年、人類初の月ロケット打ち上げを記録に残すため、シカゴ大学からロンドンへ派遣された歴史学者ダーク・アレクスンが見た、慌ただしい発射前の日々の記録。アレクスンはやがてオーストラリアの砂漠の中に建設されたルナシティへと飛び、いままさに打ちあげられようとしているプロメテウス号を目の当たりにする……。

 アーサー・C・クラークの処女長編というのだけれど、技術者たちの物語を歴史家が物語るだけ……という、なんというか極めてクラークらしい一篇。しかも「ロケット打ち上げの話」と言いつつ、月ロケットを開発することになった経緯をスパーンっと飛ばしたところから始め、宇宙機が離陸したところで終わるという大胆な構成。
 当然、見せ場となるべき山場も何もなく、『プロジェクトX』にあるような突然の危機や障害も無し。そりゃそうだ。発生が想定できるあらゆる問題に対して対策を施して進行するのが本来のプロジェクトなのだから、これこそ由緒正しい『プロジェクトX』に違いない。
 それでも面白く読ませてしまうのが筆の冴えだし、1947年の執筆なのに今読んでも違和感がない仕上がりなのは技術的な未来予測に長けたクラークならでは。なんというか、新聞や雑誌で巨大プロジェクトの特集記事を読んでわくわくする感じですね。

【原子力ラムジェット】【心臓治療】【宇宙開発史】
コメント
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