「ガッツ＆ブラッド～蒸気帝国騒動記」 川崎康宏

「バカか貴様？　そんな小さな手柄で私が満足すると思うか」
「満足してください」
　シャツ１枚にブーツだけの姿で市街を走るハイデマリー・コス副長と会計係カイルの会話。

　近衛騎士団から田舎騎士団へと左遷されたハイデマリーが再び帝都の土を踏むときが来た！……いや、年に一度の税金申告と会計監査のためであるが。
　しかしそのとき天の恵みか悪魔の囁きか、帝都を震撼させる一大事件が勃発。謀反である。いったい誰が誰に対してクーデターを仕掛けたかわからないが、とにかく城は大騒ぎ。空中戦艦は砲撃し、第一騎士団は正規の命令を待たずに動き出し、幽閉されていた叛乱首謀者は脱獄し、王女は誘拐され……。
　これを千載一遇の出世のチャンスと、副長ハイデマリーは下着姿で飛び出していく。カイルは思った。副長は悪魔のような笑顔だった。こんなうれしそうな顔は見たことがない……と。

　蒸気機関がすべての技術基盤となった世界で、名誉挽回、汚名返上、再び近衛騎士団に復帰しようと手柄求めて目の色変わったヒロインが、わきゃわきゃどかんどかんな話。つまりスチームパンク・スラップスティック。誤解に誤解が重なり、人は自分の望むものしか見ないのだとばかり、さまざまな勢力が互いを敵だと認識して暴走に拍車がかかります。それで、まだ敵がいなければマシだったのに、本当に敵勢力がいたものだから、ついには未曾有の大惨事へと発展してていきます。
　この作者の人は『革命暮れて皿洗い』とか、身も蓋もない落ちぶれ人生話がうまいです。しかしテンポもいいけれど、映像で視た方が燃えるだろうねえとも思います。そういう意味でイラストの選択もベスト。動きのある良い絵でした。

【左遷軍人】【財政危機】【叛乱】【蒸騎兵】