付け焼き刃の覚え書き

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「ガンパレード・マーチ~九州奪還1」 榊涼介

2008-03-11 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「地味な仕事をして、地味に死んでいくのがオートバイ兵だって」
 オートバイ小隊から戦車小隊へ転属になった少女が参考書を開きながらの言葉。

 幻獣の大攻勢により人類はついに九州より駆逐され、さらには山口で敵の上陸部隊と激戦を繰り広げ、一時は各個分断による戦線崩壊の危機を向かえたが間一髪で撃退することに成功した。
 しかしこの多大な犠牲の果てにつかみ取った薄氷の勝利も、後方の軍中央では希望的観測と楽観論が横行して大勝利と解釈され、このまま一気呵成に九州を奪還せんとする作戦がスタートしてしまう。
 止められない攻勢ならば、せめてそれを機会に変えようと、海兵旅団を指揮することとなった善行忠孝は、5121小隊を中核とした部隊を威力偵察に北九州市方面へと送り出したのだが……。

 榊版ガンパレはあいかわらず安心して読めます。30代40代のミリタリーに五月蠅い連中も、中学生の長男やその友人たちも、同じように続きを楽しみに読んでいます(うちの息子は「衛生兵、すげー」といってました☆)。疲れていても眠たくても、とりあえず買ったら読み終わるまでやめられない1冊。

 軍という組織の愚かさも英雄的な主人公たちの限界も踏まえ、補給・整備や編制といった問題もじっくり描きながら、まだ望みの残っている末期戦を……ぜんぜん安心して読めそうにないな……。だから、楽観論に踏み固められた作戦計画とプライドばかりの指揮官の下で戦地に送り込まれる少年少女の……いや、これじゃあ、ちっとも明るくないな……。
 とにかく面白いんです。政治的思惑やら個人の野心とかのフィルターがかけられて、前線で戦い続けてきた者たちが思うようなベターな状態からは遙かに遠いながらも、最善を尽くして戦うための準備を疎かにしていないという点がきっちり描かれているからこそ、神話的な速水=舞らの鬼神のような戦いも、ごく普通の歩兵や工兵隊たちの戦いも1つの物語として収まってしまうのです。

「仕事熱心な技術者というのも困りものだ。状況も、時間も無視してなんでも完璧にこなそうとする」
 植村中隊長のぼやき。それはまた賞賛に値する姿には違いない。

 しかし、この巻はほとんど“無名の一般兵士”たちの話になっています。巻頭のカラー口絵も、ついに軍曹とか事務官とかオリジナルのキャラばかりに。表紙も5人目は橋爪軍曹じゃないかな? 第21旅団の。
 それでもちゃんとガンパレードなんですよね。装備劣悪な学兵たちも進路や恋愛に悩みつつ古参としてのたくましさをみせてくれています。装備と士気は十分なれど経験も訓練も不十分なまま前線に投入された自衛軍も、ここはプロフェッショナルとしての活躍を期待したいところだし、転属した島村小隊長の働きぶりも楽しみです。
 あとは、リターン版ガンパレにおける倉木小輔くんのように、神話の世界をかいま見る一般兵士のエピソードがいつか読めると良いですね。

【愚劣指揮官】【クマモトスズメバチ】【学徒動員】【トラップ】
コメント (2)
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