本書の存在は、最近の渋沢ブームで知った。
まさか、幸田露伴が、渋沢栄一伝を書いていたとは。
文庫化されたのは、昨年11月。
元は、1939年に出たが、1979年に、露伴全集に収められた以外は、世に出ておらず、知らないわけだ。
後書きによると、渋沢没後1年に、伝記の編集が企画され、岩波書店が、幸田露伴に頼んで書かせたということらしい。
せかさないことという条件付きで、引き受けたそうで、このように時間がかかったのだが、それでも、亡くなってから、8年後には世に出ており、渋沢栄一が生きていた時代の空気を伝えている。
読んでみると、前にご紹介した雨夜譚を引用している部分が多く、そこに幸田露伴の考察や、修正をかぶせる形で、展開している。
例えば、尊王攘夷時代における長州藩のバックアップがもっとあったのではないかとか、平岡円四郎とは、もっと前から知り合いであったのではないかとか、次々と展開するが、その展開の準備は、前の段階で、行われていたのではないかとか。
慶応生まれの露伴だからこその当時の空気感、特に明治維新後の建国?時での出来事の実際など、今からだとなかなか実感がわかないことも、しっかりとリアルに描かれている。
渋沢栄一の半生を、退官時としているが、まさにそうだろう。そして、本書も、それ以降は、やや淡泊に語られるが、後書きによると、別に露伴による講演会が企画されており、そこい譲った部分もあるようだ。
やはり、今使われない、漢字や、表現が多く、読みづらいところがあるが、それも当時の空気間を伝えるものとして、味わいたい。ただ、今使われている漢字と違う漢字がつかわれている部分も多く、これは、露伴の癖なのか、当時、違った漢字が使われていたのか。
本書でも、後半生が軽く描かれており、大河ドラマで、後半生をどう描くのか、ますます興味が深まってきた。
渋沢栄一の伝記では、もっと読みやすいものも多いと思うが、より、原典に近く、かつ第三者によるものという意味では、本書も面白い。
確かに、雨夜譚は、自ら語っていることで、記憶違いも、都合のよい脚色も入っていただろうから。