CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】ラブカは静かに弓を持つ

2022-08-01 20:55:23 | 読書感想文とか読み物レビウー
ラブカは静かに弓を持つ  作:安壇美緒

音曲の著作権について、その使用料を管轄するあの組織が、
その使用者である音楽教室に対して潜入スパイを送り込むという話なんだが
企業スパイ的なお話とはだいぶ趣が違って
手近といってはなんだけども、割と規模が小さいというか、
意図をもって、音楽教室に潜り込んで、ただ、チェロを習い続けると
そういう地味な話なんだが、それがかなりよくてというか、
音楽教室というそこでの生徒のある姿といったものが
とても面白くて、かなり読まされてしまったのである

感想を書いてしまうと、なんか、物語を矮小化してしまいそうで怖いけども、
すごくわかる、といってしまいたくなるような
心の動きと、その姿というか、過ごし方がとてもよくて、
あまりどうだと思うことのない仕事の中、
音楽によって心を取り戻していくように、その習い事に没頭して、
でも、その姿の裏面には、音楽教室への裏切りともいえるスパイ行為があってと
そんなことを考えないようにしようと、そう思うまでもなく、
自分の心の平衡をチェロを弾くことで手に入れて、
また、その仲間たちと出会って、とても楽しいという描写が
まぁ、本当にもう、すごくよくて
だからこそ、そのあとに控えているのであろう破綻というか、
自らが引き金となるであろう破滅の姿がカゲロウのように立ち上ってきて
すごく読んでいて、面白いのに切ないというか
どうなってしまうんだ、どうにもならんでくれと願いながら読むと
まぁ、これを感動と呼ぶのだろうという読書体験になったのでありました
すごいよかった

最終的には、色々とあってと、ああ、そういうオチどころにいくんだと
安堵にも似た何か、落ち着いたそれに満足して
とても楽しく読み終えたのでありました
ビターとはいわないけども、こういうこともあって、
でも、という人生のそれを見られるようで
大変楽しいというか、すごくよい小説だったなと思うのでありました
音楽やってみたくなるんだが、これはまた、
音楽じゃなくてもいいのかもしれない
そういう、何かがある生活によって、救われるという経験は
渇望するものだなと思わされたのであった