CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】星の子

2025-01-27 21:01:26 | 読書感想文とか読み物レビウー
星の子  作:今村夏子

架空と思しき宗教というか、ネットワークビジネスめいたものに巻かれている家族の物語

面白おかしいとか、狂気が滲み出ているとか
そういう感じではなく、ちょっと変わってるけどまぁ普通みたいな生活と
やっぱり、そういう感じだから疎外されているような日々と、
それでも普通にある日常、友達とか
そういうものが描かれていて
凄くとらえどころのない日常風景が浮かぶのが凄いと思って読んだ
実際こういう感じなのかもしれないなという
共感ではないが、理解ができそうなといったらいいか、
嫌悪とは異なるが、忌避してしまいそうな境遇の人を
人として見ることができる物語で、とてもよかったという気分で終わった

結構投げっぱなしでもないんだが、
お姉ちゃんがその後どうなったのか、
家族は星を見てどうなったのか、
友達の彼氏はどうなったのか、
色々と余韻や余白のある物語で、かなり親切というか
気持ち穏やかに読める普通の小説になっててよかった
まぁ、それでいいのか?と思わなくもないのだが、
他の作品にあるような不気味さは控えめで、なんかいい話しだったという方が強くて
いい話しだなーと、そんなに気分落ち込まずに読めたのがよかったと思うところ

すっかり今村夏子作品にはまってしまってて、
求めるものが先鋭化してしまうなと反省しつつ
こういう話しもいいなと思ったのである
色々な人に、それぞれの普通があるという当たり前を読めたような
そういう気分である

【読書】柳生兵庫助 迅風の刻

2025-01-25 21:12:42 | 読書感想文とか読み物レビウー
柳生兵庫助 迅風の刻  作:津本陽

津本陽先生の本であります
しかも、シリーズの真ん中くらいの一冊を唐突に読むという
読書人として正しいのかわからんチョイスをしてしまったんだが
久しぶりにどっぷり時代物、剣豪ものを読みたいと思って
巻数とか、一巻とか関係なく読んだのでありました

柳生兵介(兵庫助)の生涯をおっていくような流れなのか、
とりあえず読んだところでは、柳生の里で、祖父にあたる石舟斎のあとを継ぐように
鍛錬に励む毎日と、おつきの忍者が二人という中だが、
そこにある浪人がやってきてという始まりでありました

時代としては、大坂の陣の前というあたりのようで、
九度山に真田がいて、大阪城に浪人が集まりつつあるという
不穏な情勢下、さりとて、柳生は徳川に与しておりというあたりで
徳川と大坂方との間で軋轢が明確になりつつあるときのいざこざが
兵庫助にもふりかかってきてといった感じでもあるのだが、
伊賀忍者、服部党のその後というのがポイントのようで、
そこで離反した忍者との闘いであるとか、
幕府や、大坂やとは離れて、剣の道で生きたいと願う兵庫助の葛藤、
そして、叔父宗矩という徳川にがっちり組み込まれている親族との軋轢みたいなのが
あれこれまじりあいながら、しっかりと剣豪小説になってて
なんだかんだ楽しく読んだのでありました

今回は、秘剣「天狗抄」なる技が見どころとして出てくるのだが、
それ以上に、後半にて、ものすごい強い老忍者、体術の使い手、そして宮本武蔵と戦うという
実に剣豪小説たらんというシーンが楽しいのであるけども、
ここが始まるというところで巻が終わってしまうのが憎いところ
はたしてどうなるか、次のを読めるかわからない身分で、変なところを読んでしまったと
思ったりしているわけだけども、
まぁそれはおいといて、一本の小説として、しかと剣豪小説を堪能できて満足したのでありました

女忍者の側仕えと、いい仲なんだろうけどそういうシーンが出てくるわけでないというのが
山田風太郎とは違うなと思いつつ、剣のやりとりの描写、
そして剣への心構えという部分の重厚さが読んでいて大変楽しいと
満足の一冊でありましたとさ

また、隙を見て続きか、別巻を読もう

【読書】証言 羽生世代

2025-01-22 21:05:38 | 読書感想文とか読み物レビウー
証言 羽生世代  著:大川慎太郎

将棋における羽生世代という存在について、
他の棋士、とりわけ関係が深いであろう棋士にインタビューをしたもので
大変面白い読み物だった

羽生世代として、羽生、森内、郷田、そして佐藤康光
おおよそこの四人を念頭におきながら、
それらと戦ってきた上と下、それぞれの世代の代表者ともいえる棋士の言葉が
いくつもあわさって立体的に彼らのことが見えるという
そんな本を目指して編まれていて面白かった

最終的にはあとがきのように、もはやそれは概念というか
一面的なものでしかないということに帰結してしまう
その当たり前とか、ありきたりとかで終わってしまいそうなものに近づくけど
確かに書かれていた内容から納得というか、その人たちを見てきて
その人たちがいる世界である将棋界というものが変化した
その強い原動力となったことは疑いようもないといった感じで
凄く面白いと思えたのである
惜しいといっても仕方ないのだけど、これだけ豪華にそろっているなら
いっそ、米長先生や、大山先生のお話も可能であれば聞きたかったとも思うのだが
それはまた別の話ともいえるのかもしれんと
ないものねだりをしたくなる、これまでの、あるいは
羽生先生を中心にした平成将棋界のそれを紐解いた内容になっていたのじゃないかと
感じたのでありました

興味深いところでは、当人たちは当然のように自分たちを特別と思っていないが
その嚆矢となったのは谷川先生であるということに一致しているのが良かったと思えて、
また、その谷川先生が、羽生先生をはじめ全員への羨ましさというのを口にしている
結局はそういうもので、特別にそろっていたように見える世代ではあるが
それは、たまたまでしかなく、そこに至るまでの
将棋界という大きな流れがそうであったという結果でしかないような
そういう気持ちにもなったわけだけど
なんといったらいいか、将棋をとても楽しく面白く見せてくれる
そういう魅力を深く掘って、広げてきたという仕事が
この世代によってなされたんだろうなと朧気に知れたという気持ちで
読み終えたのでありました

もっと、たくさん、もっといいことを書きたいのだが
おいそれと言葉にならない、書かれていることは
ある種の想い出話の結集でしかないともいえるのだけど
すごくよい話を読んだと思える一冊だったとメモっておく

【読書】負ける技術

2025-01-20 21:05:34 | 読書感想文とか読み物レビウー
負ける技術  著:カレー沢薫

漫画家だと思ってたらコラムニストでもあったのか
そう思いながらついつい読んだのだけども
嗜虐でもない、毒舌でもない、
タイトルの通りというほどでもないが
実際に戦わずに負けるを体現する内容で、
ある種の安心をふりまいている、そんな文章を堪能できる一冊だった

結構な分量が担当への怨嗟なのか、偏愛なのか、
いや、やっぱり純粋な殺意なのか
そういうので埋められていて、楽しそうにオブラートに包んでんだろうなと
思ったりもしつつ、本当にこんな感じで漫画家と編集者というのは
対立とも異なる繋がりを続けているんだろうかなと
思ったり考えたりしたのでありました
別に何ということもないのだが、この担当がおそらくはデキるのだろうけど
ただただ、その端っこしか描写されないので
はたしてという感じだが、それが上手いとも思えるところである
全てが虚構という可能性までふまえて
面白い読み物だと思ったのだった

基本的に、弱弱しく去勢をはりつつ、世の中を小規模に恨んでいる
そういうスタイルの文章を読むのが、なんとも楽しいと
卑しい娯楽を提供しているというテキストなんだが、
その割に思いのほかちゃんとしているというか、
結構アイデンティティに揺らぎをもたらすような
一般的な平穏というか、イベントをこなしてしまっていて
大丈夫かと思ってしまったんだが
これは読み手の私が男だからかと感じたりもするのだけど
とりあえず、テイストは変わらないまま
さりとて、結婚してしまったことで、何かが毀損されてしまっているのではと
心配になりつつも、まぁ、この感じで
これからもずっとという暗い楽しさを振りまいて欲しいと思ったのである

【読書】赤絵そうめん

2025-01-17 21:09:49 | 読書感想文とか読み物レビウー
赤絵そうめん  作:山本兼一

このシリーズ、一本だけで絶筆になったと思っていたんだが
そうではなく、この間たまたまた読んだのが絶筆の巻だったようで、
もうちょっと読みたいなという気分を埋めてくれる
ステキな読書となったのでありました

と、書きながらも前回どんな話しだったか、おぼろげにしか覚えていないので
事実関係の前後がいまいちよくわかっていないままだったのだが
今回は、がらくた屋に毛が生えたくらいでしかなかったとびきり屋が、
一念発起して大店へと変貌するかしないか、そういう
商売の岐路にたったといってもいいお話で、
なかなかドラマチックだけど、凄く静かに進むという
往年の寅さんを見ているような、楽しさと鷹揚さみたいなのを楽しめる
よい一冊でありました

取り扱われたのは、赤絵陶磁器で、これもまた
個人的に好きな題材だったので、唐子うんぬんの話しもいいなと思ったのだけど
そこにそうめんを入れて食べるという絵が、いかにも浮かびそうな
いい塩梅のお話になっててよかった
物語としても、その赤絵の品をめぐって、二転三転というほどでもないが、
悶着があった末にという大きな結果に繋がってよろしいのだが、
夫婦仲の良さもさることながら、ゆずさんの機転の良さというので
さくさく物事が解決して、これはNHK時代劇枠候補だったんじゃないかなと
思ったりするのである
いや、でも、骨とう品扱うのは映像的に難しいからなかったか
ともあれ、安心の江戸末期を楽しめる面白い物語である

幕末の不穏な空気もあり、
それぞれの陣営の主要人物も出てくるのだが、
歴史的な物語は、七卿落ち直前くらいなのか、
このあたりもう一度勉強しなおした方がいいかもしれんと思いつつ
少しばかり不穏な情勢が京都に忍び寄りつつあるといった感じで
次をまた読みたくなる終わりでよかったのである

しかし骨董道の不思議もよく描かれていて、
げてもの好きという道楽についての情熱とか、偏執ともいえるそれが
いかにもよろしく描かれるのが楽しくて、
これくらいの気概がないと、生きるのもつまらんというのは
一つ真理ではないかなどと、そちら側につきたいと思わされたりするのでありました

しかし、あんなにピタリと当てられるほど
目利きというのはできるものなのか
自身に眼がないのでまったくわからない、不可思議な世界である

【読書】レトロな街で食べ歩き!古都台南へ

2025-01-15 21:05:09 | 読書感想文とか読み物レビウー
レトロな街で食べ歩き!古都台南へ  著:岩田優子

2017年発刊なので、色々情報が古いかもと思いつつも
雰囲気を楽しみたいので読んだ次第
2017年なら比較的新しいなとか思ってたけど、
びっくりもう8年前になるのか、編集考えたら10年前の情報かもしれんな
色々と時間の流れは恐ろしい

さて、本と関係ないことはさておいて、
台南の様々な要所を抑えたガイドブック的なもので、
コンパクトにまとめつつ、主要街と、安平、新化といった郊外もあたりをつけていて
満遍なく楽しめる内容になっててよかった
お店については、今もまだあるかわからないのだが、
そのあたりが繁華街である、そして、そういう名物があるというこの情報は
ずっと生き続けていくだろうと思えば、特に気にならないもので
改めてインプットしていくのにほどよくて楽しいのでありました

とはいえ、ちょっと気になって調べてみたところ
阿喬師水粄粥という店は未だ人気のようで、
碗粿をまだ食べてない身分としては、大変気になっていて、なんとか食べようかと
メモる次第でありました
というか、ここに載ってて、今も残っているところは間違いがないということでもあろうし
やっぱりガイドブックというのは大切よなと、ネット上の更新されてしまう弊害を逃れるという意味で
紙媒体のよさをかみしめるのでありました

観光情報はよくある内容なので、
要点をまとめているだけであるのだが、
紹介している店舗が、いわゆる超有名店以外というところに苦心しているように感じられて、
もっとも、今となってはすっかり老舗になってるとも考えられるけど、
肉粽、牛肉湯、担子麺の店が、あえて一級のそれではないところにしてるのが
個人的にいいなと思えたので、それぞれ調べて使いたいと
まぁ、いついけるかもわからないけど楽しむのでありました

押しつけがましくなく、純粋に情報紙として特化しているので
コース設定とかの押しつけもなく、気になったところをメモっておきたい、
いや、これ一冊もっておいたら、とりあえず台南ぶらぶらできるかと
思えるくらいでよかったと感じたのでありました

【読書】シャーリー・ホームズとジョー・ワトソンの醜聞

2025-01-13 21:05:02 | 読書感想文とか読み物レビウー
シャーリー・ホームズとジョー・ワトソンの醜聞  作:高殿円

のっけから展開が粗っぽくて、物語に乗っていくのに難儀した
ワトソンが、唐突な記憶喪失みたいな状態でスタートして
その顛末が、だんだんとわかってくるようになるんだが
いかんせん、その始末が理解を超える内容のため、
なかなか感情移入できず、苦戦して読んでしまった

最終的にはなるほどというオチになるんだが
そうなるまでが長いので、なんか、妙な感じをかかえたまま
物語がずんずん進むので、しっかりと楽しみきれなかった印象で読み終えてしまった
面白かったようにも思うんだが、なんというか、
あれこれ難しいことも織り込み過ぎていて、ちょっと渋滞してよくわかんなかった

壮大な医学実験の話しのようでもあったし、
そのあたりはかなり面白く読めたのだけども、
実際にそんなことが、そういう可能性がまだ存在するだろうかと
ちょっと考えさせられるところでもあった
マイノリティを扱うわけだが、それがいかにも童話的というか
まさに幻想世界のそれのようで、だからこその小説だと思うのだが
あまりにもできすぎた壮大さが見事で、
その憐憫の部分がかなり楽しめたと思うのである
とはいえ、根幹にある人間のありようというのが
結構重めだったこともあってか、また、ワトソンがかなり振り回されていたというのに、
読む側としても同じくらいか、それ以上に振り回されて
安心して読めないというか、なんか、はらはらとは違う、おろおろして読むみたいな
そんな読書となったように思うのである

もっとコメディに振った話しで読みたいと
勝手な感想を添えつつも
なんだかんだ、楽しく読んで、なるほどなーと感心して終えたのである
本歌がわからないので、どうなのか気になるところだが
この近未来と現代と、そしてSFめいた世界観は本当によいなと
感心してしまうのである

【読書】ケチる貴方

2025-01-11 20:51:04 | 読書感想文とか読み物レビウー
ケチる貴方  作:石田夏穂

表題作と「その周囲、五十八センチ」の二編の短編を収録
どちらも面白かったのだが、独特の感覚、基本的には女性の独り言だけで話しが進むのだけど
その独白がずれているような、そうでもないような
普通の合間に、何かしらの不穏を塗りたくったみたいな
独特の感じがよいなと思いつつ、なんの物語だったか
わからないまま終わるといったのを味わったのである

表題作の生き方については、いくらか共感めいたものを覚えて、
ケチって生きてきたツケが、冷え性という形で呪ってきたみたいな
そんなお話なのだが、そこに因果関係があるのかないのか、
結局オチの部分で解決したというか、
そこに因果関係があるんだろうと思ったら、なんてことない話しであるのだけど
一見関係なさそうなことが、自分の困っていることに良い方向で作用すると
なんか信じてしまう、まぁ、やっぱりよくあることを書いたそれだったのだが
その分、理解しやすいと思ったのだが、
突き放すように、突然冷静というか、醒めてしまう姿が
独特の印象を残して終わるわけだが、色々と表層的なことはあるけど
根幹に怒りがあるんだろうなと、これもある意味であけすけに書いてあるようで
よかったと思うのである

もう一方が、これまた、同じような何かを抱えているんだが
こっちの方がより孤独というか、自分愛が強い感じがあって
一種の整形依存症めいた話しなんだが、個人的にはこっちの話しの方が好みだった
やはり、説明文的表層では、脂肪吸引という施術について、
その後にキツい揺り戻しめいたものがあるというところに
一種依存しているみたいな不気味さというか、これもまた不穏さがあって
魅入られるではないが、そこに捕まえられてしまう人というのが
身近でもなくリアルのように思えてよかったと感じたのであった
こっちの方が不健全なんだが、まだ救いがあるような感じもしてよかった
これは、どっちが好きかで、自分の病み具合みたいなのが
はかれてしまうんじゃないかとちょっと思ったんだが
そういうものでもないか

なんとなし、面白く読んだ、それでいいかと書いておく

【読書】TRANSIT 66号 台湾の秘密を探しに。

2025-01-03 21:14:22 | 読書感想文とか読み物レビウー
珍しく雑誌といっていいのか、そういう本を読んだので
メモっておきがてら

昨今山のように出ている台湾本のひとつでありますが、
なかなか凝った雑誌で大変面白かった
みっちりと歴史とか文化の面から台湾をクローズアップしてて、
観光紹介的なそれとは一線を画しているのがよかったと
読みながら、なるほどなーと感心したのである
有益な情報として、南部のタピオカミルクティーはプーアル茶を使ってるというもので
本当かどうかわからんが、がぜん興味がわいたのでありました
考えてみると、タピオカミルクティーをほぼ飲んだことないな

歴史面の部分もかなり面白くて、そこを起点にしながら
台湾のアイデンティティとはというお話は、よくある展開なんだが
そこに至るまでの丁寧な解説がわかりやすくてよかったのと
さりげなく、日本語文化が残るところの紹介というのがよくて
めっちゃ行ってみたい、未だに日本語が言語として根付いている地域があるというのに
物凄く惹かれてしまったのだが、なんというか
そこを乱しにいくのもまた傲岸だなと反省もしたり
原住民の扱いについての部分とあいまって、考えさせられるのでありました
観光地に、それっぽいものを求めにいってしまうという気持ちは
物凄く強くあるので、それが迷惑であると、どこかで立ち止まらないといけないなと
反省するところ多くあったのでした

グルメ紹介は結構抑え気味な感じで、しかもそこがメインじゃないから
お店の紹介も住所がそのまま書いてあるだけみたいな感じで
地図すらも省略といった体裁が、困るといえば困るわけだが
実際の話、次行ってある店なのかとか考えると
こういう雰囲気のお店が、今の台湾にはあるというその情報が重要なのかとか
色々、勝手に勘ぐって納得してしまうのでありました

あとは、若い人たちの意識と政治へのかかわりという部分が
はたして、書かれていることがどれくらい一般的というか
支持をされる事実なのかが気になるなと思ってしまったんだが
思った以上に、この事実が大多数であるならば
自身を含めて、日本において政治への失望という名の無関心が
とてもよくないのだなと思うばかりでありましたとさ
まぁ、気づくころには手遅れという警告を
ずっと発してくれているのに、気づいていないのだから仕方ないのだけどもと
そんな気持ちになってしまうのである

まぁ、そんな難しいことはさておき
今の台湾というものをよい角度から切り出した内容になってて
とても面白く読めたいい本だったとメモっておくのでありました
こういう雑誌というものが、減ってきてんだろうなと思うと
淋しくあるので、ほそぼそとでも見かけたら買って読もうと思うのである

【読書】将棋エッセイコレクション

2024-12-31 14:01:36 | 読書感想文とか読み物レビウー
将棋エッセイコレクション  編:後藤元気

タイトルの通り、様々な人の将棋に関する文章を集めたもので
なかなか味わい深い読み物でありました
今でこそ、結構古いといえるような時代の文章がいくつかあり
その頃、つまるところ、現在大御所として君臨する人たちが若手の頃の話もあったり、
もっと前の、大山升田といった頃の話もありというわけで
大変読み応えがあってよかった
特に、加藤一二三先生についての描写が、
当時の感覚、やはり天才として受け入れられていた様子が見られて
読んで大変楽しかったのである
まぁ、この頃の将棋指しって、おおよそ変な人ばっかりであったが
天才だから仕方ないで、全部済ませてたわけだな
そう思うと、現在の将棋界の状況は随分異なるものになったと
改めて思い知るのでありました

個人的によかったなと思ったのは、
河口先生と、桐谷先生の戦記に関する往復書簡めいた応酬の分で、
まぁ、この頃の観戦記、それも同業者内のそれというのは
なかなか辛辣であったのだろうとうかがい知れるところで、
これでもまだ、遠慮した文章だろうが、本当の控室風景だと
だいぶひどい言いざまであったろうことが透けて見えて
凄くよかった
やっぱり、こういう底意地の悪さがいっぱいであってこその将棋よなと
最近の、一見すると聖人君子っぽい集まりというのへの違和感というか
一種の安心があって、とてもよかった
いずれも天才の集まりであるということに端を発するわけで
誰もが自分は天才だと思っているから、観戦しているそれのミスであったり
指し手のあれこれについての野放図なやりとりというのが
物凄く面白くて、また、真剣に怒るというのもまたわかる感じがして
いい口喧嘩だなと思ったのでありました
こういうのをもっと読みたいなと思うのだが、最近ではもう見られないだろうと
コンプライアンスでもないが、炎上案件がどうしたという時勢
絶対世に出てこないんだろうと淋しいかぎりである
もしかすると、イベントなんかで、さらっと喋ったりとかもしていそうな気がするけども
それもまた、ファンの中身が変わって来た昨今、あり得ないのかもしれない

この頃に、すでに将棋界の未来を憂えての文章もいくつか収録されているのが興味深いところで
その通りの部分もあるし、まるで違うところもあるしと思うのだが
どうしたら将棋が興行として成り立つかについては、その通りの路線に
現在うまく着地しつつあるんじゃないかと思えて
なかなか興味深いのであった
極論して、現名人と元名人さえいれば、将棋という文化自体は続けられるというのも
ひとつ、考え方としてなるほどと思うところなわけだけども
普及においての難しさというのを改めて思うばかりであった

ともあれ、大変楽しい一冊で、あれこれ楽しめた本でありました

【読書】フーテンのマハ

2024-12-29 21:05:03 | 読書感想文とか読み物レビウー
フーテンのマハ  著:原田マハ

作家の原田マハさんのエッセー
作家になった時の話と、これまでの来し方、
その間、根っこにあったというフーテンとしての生きざまというのがメインで、
旅グルメ本のようなテイストではあるけど、そればかりではない
ある女性の日記めいた感じで、とても読みやすくてよいエッセーだった

興味深いエピソードも多くて、
前職で美術関係の仕事をしていたというのは、まぁ知っていたところだけど
40過ぎくらいで唐突に、それじゃねぇなと思って仕事をやめてしまって
どうしよっかなーと、なんとなく書き物しながら
旅をしていたら「カフー」に出会ったとか
まぁ出木杉だなと思うのだけども、本当にそうなんだろうとも思ったり
このあたりのてらいが、どちらともと、ならない絶妙なバランスがあって
すごくいいなと思って読んだのである

晴れ女の話やら、食べ物のあれこれやらも
普通のエピソードで、そこらにありそうな話なんだけど
それが、本当に等身大というか、生々しさとも異なる筆致で
とてもよかったのでありました
この絶妙な抜け方というか、抜いているという言い方は異なるな
楽しく、それだけではない、そのままだけど生々しくない
このたゆたいのある感じがいい文章だなと
しみじみ読んだのである

正直、最初のほうはエピソードが短すぎるのでもったいないと
さくさく読んでしまっていたのだが、だんだんと長いのになってきて
割と、エピソードがかぶっている話もあるんだけど
それぞれ違う魅力で読める文章になっていて
大したもんだと感心して読み終えたのでありました

食べて書いてと、そうやって生きている姿が
うらやましいなとも思うし、いいなと思うのである

【読書】街とその不確かな壁

2024-12-23 21:08:26 | 読書感想文とか読み物レビウー
街とその不確かな壁  作:村上春樹

久しぶりの村上春樹
多分、またわからないまま、手ごたえを得ずに読み終えてしまうだろうなと
思ったり考えたりしながら読んだのだが
今回は、より一層わけわからんというか、結局なんだったか
さっぱりわからんまま終わったんだが、
あとがき読んで衝撃的だったんだが、旧作のリファインだったそうで、
はたしてもともとはどういう物語だったのだろうか
それすらもわからんし、まぁ、これはこれでいいかと
とりあえず読み終えたというメモだけおいておくのである

ありていに、簡単な話しとしては、
ある種の失恋話しで、それをずっと引きずってる男の話しのようにも思えたんだが
それにしては、入り組んでいるし、もしかしたら
最初はそういう話しのつもりだったけど、それがそんな単純なことではなく
ただただ深く何かがあるために、男子たるもの失恋すると
ああいう感じになるのだという、そんな話しだったりしたんだろうか
それはそれで面白いというか、
ようやく、村上春樹と会話できそうとか思ってしまったけど
多分そんな感じじゃないな
そんなわかりやすく軟弱ではないだろうと思えば、やはりわからんと
思いつつ終えたのである

想像上の街、高い壁に囲われた街という抽象的なお話で、
そこから来た少女と、そこへ行った男と
そんな行き来の話しのようでもあったが、
人間の影とか、本当のとか、そういうともかく実態のない話しばかりで
だけど、それが厳然とあって、そこに囚われるでもなく、
その内にある語られることのない因果みたいなのに縛られているような
そういうお話であって、色々設定は面白いので、
もしかするとそれぞれが何かのメタファーでとか、そういうことかとも思ったけど
それすらも、もはや放棄したんじゃないかと
そういうしゃらくさいことはしないという感じですらあるのか、ないのか、
よくわからんまま、でも、なんかありそうな風だけで話しは進んで
街に入り、街から戻り、また街へ行き本当に帰る
そんな物語になっていたのであった

最初の街から戻るくだりくらいまでだったら、
やっぱり壮大な失恋話しだったで辻褄があいそうというか
そうであってほしいとか思いつつ読んだわけだが
そんなはずもなく、もはやそういうことではないと突き付けられたようでもありながら
さりとて、強く愛した人をもつとそこで燃え尽きる話しとかがあったりして
なんというか、もやっとして読み終えたのであった

結局なんだったか、わかることもなく
また、村上春樹を読んだという事実だけ手に入れた読書であった

【読書】蘇える変態

2024-12-16 21:33:09 | 読書感想文とか読み物レビウー
蘇える変態  著:星野源

正直なところ、星野源という人物は急に出てきた人という感じで
歌手としても俳優としてもまったく知らなかったのだが、
ある時から急に出てくるようになって、どうやら、死の淵から帰ってきた人らしいと
そんな噂しか知らないでいたのだけども
まさに、その渦中を描いたエッセーというか、自身の記録、日記とも異なる読み物として
この本があったようだ

序盤は雑誌で連載していた内容の再録といった感じで、
実に気の抜けたというか、これ女性誌でやってて大丈夫なのかという
かなり下ネタに振った内容で、面白いけど、ノリが完全に深夜ラジオのそれだなと
苦笑い寄りの笑いを携えながら読んでいたわけだけども、
真ん中くらいで突然の暗転、まさに、本の体裁としても暗転して、
その事件とでもいうべきであろう、脳内出血になった前後の日々、
その後の苦しい復活までの日々、そして、復活してきたよといったところまで
その間の様々な葛藤というか、心情の吐露というか、吐瀉といった方がよさそうなものが
なぐりつけるように書かれていて、非常に読み応えあって面白かった
いや、面白かったというのは御幣があるな、
凄く興味深く、かたずをのんで読んだのである

基本的には根暗というか、絵にかいたようなヲタク趣味で、
そのまま生きてきていたけど、運よく音楽をやろうと思って、実際やってみてと
そういう人生だったのだけども、そこに至るルサンチマンといったらいいのか、
まぁ、やっぱりサブカルっぽい何か、ため込んでいるものというのをうまいこと昇華して
ミュージシャンとして活動してたんだなーと思わせる記述が山ほどでてきて
大層共感というか、男子高校生の会話然とした内容に
安心して読み進められていたわけだが、
病気といっていいのか、それを境に死にそうな瞬間が少々と
あとは、それを乗り越えて、当然ひどい裏側があろうけど
そこではなく、より前を向いた内容をなんとしても書こうという気概のもとに書かれているのが
大変よろしくて、読んでいて感動を催したのでありました

まぁ、そんな男も、復活して何かが変わったのであろうか
とても綺麗な嫁さんもらってる現状からすると、違和感というではないが
なんちゃって根暗かよ!と突っ込みたくなるわけだけども、
そんなことより、やっぱり、蘇って良かったな本当にと
そちらの気持ちが熱く湧き上がってくる、そういう気持ちになる本でありました

【読書】恋愛未満

2024-12-14 21:05:09 | 読書感想文とか読み物レビウー
恋愛未満  作:篠田節子

なんともいえない気持ちになる小説だった
けっこういい年齢になってしまった独身男性を扱っているので
まるで自分のようでもあるし、まるで違うしというのが
なんとももやもやとするといえばいいか、いやはや

町の楽団内でちょっとした恋愛のようなことが発生したと
まぁそんなお話なんだが、それの対象がよろしくなくて、
いい年齢になったおっさんが、若い子に懸想したと
まぁ平たくいえばそういう話しで、それはまずかろうと、やや若くない女性陣が心配したり
憤慨したり、それはそれとしておっさんも悪気がなさそうなのが気持ち悪いとか
まぁそんなことで、おっしゃる通りだなとも思うのだが、
そのおっさんが、本当に悪気なく、でも、もしかしたらとでも思っているという態度で
あれこれしているという様を可哀そうといっていいのか、
女性陣なりに気を使って、そういうことじゃないと遠回しから直接からと
ともかく伝えては、なんだかんだというお話だったのだが
そのおっさんも、そんな事件がなければ、
独身でちょっとかわいそうだな、わりといい感じなのになと思わせていたから
また、そのギャップでもないが、若い子にどうのこうのというのが
酷いありさまでというのが、いたたまれない

そういう空気を描きつつ、そして、結局それはそれとして
まさにそういう男にこそといったらいいのか、
よくわからんが、最終的にはそれとなりの出来事と出会いが用意されていて
まぁ、それでおさまるならいいんじゃないと女性陣がわいわいしていると
いかにも、そこらにありそうなお話がまとまっていて
大変読みやすく、まるで近所のよもやま話しで聞いたみたいな感触で読めて
面白かったのでありました

また、それとは異なるのだが、年の差と性差を扱ったといってしまっていいか、
何かしら、そういうせいにしたくなるような、ある種のコミュニティの違いみたいなのも扱っていたり、
そうかと思えば、年老いた母との別れを描いたりという
まるで違う短編も編まれていたのだが
いずれも、やはり身近にありそうな、そこらにいそうな人の物語というのが
とてもさらっと描かれていて、それでいて読まされるという
いつもながらに凄い文章力だよなと感心しつつ
気づいたら読み終えてしまっていたのであった

面白かったと余韻は残っているが
結構なこってり感があったようなのに、終わってみるとさらっと済んでいる
こういう読書になりがちな作者だと
驚いていつも読み終えるのである

【読書】ムーンシャイン

2024-12-09 21:05:21 | 読書感想文とか読み物レビウー
ムーンシャイン  作:円城塔

久しぶりに著者の本を読んだのだが
過去作の短編集だった
個人的に、受賞作の道化師の蝶と文字渦が好きすぎるので、
その頃の雰囲気が残っているような、どうなのかと
そういう感じの短編で、なかなか楽しかったのでありました
と、まぁ、読んだ後に、そういうそれぞれの小説のなりたちというか
生い立ちをあとがきとして追記しているので
大変助かったというか、そういうことかと合点したのであった

そのあいの子というでもないが、個人的には「遍歴」が一番面白く、
宗教というものを一種のオープンソースに見立てるという内容で
このあたりのハチャメチャなところが大変楽しいと
まさにソースコードが書き換えられていった遍歴が
それこそ、宗教のなりたち、その哲学の変遷を見せるというのが楽しい
というか、改めて再定義されてというか、
ソースコードの管理というか、ああいうものって、
つまりは、こういうことだったみたいな感じで
知ってた人からすれば当たり前なんだろうけど、なんというか、
無知蒙昧からすると、大変楽しい体験であったと思うばかりである

もっとも、内容として、人の生の円環なるものがというあたりは
本当に哲学の領域というか、やはり、著者が好む言葉遊びのそれじゃないかと思って
それよりは、事実というか、もう少しベース部分の、
記載記述、そういった方法の楽しさというものが、
つらつら、書き連ねられるだけの文章で楽しく読めてしまうのが
著者の真骨頂よなと、しみじみ思ったのである

表題作については、それこそ言葉遊びの極致めいた
素数をはじめとした数学っぽいものを下地にして、
なんかとても楽しそうというのが、わずかにロマンスめいたというには遠い、
どことなくSFにある、人間の物語が織り込まれているという感じが
これまた楽しいのだが、私の事前知識というか、下地の知能が足らないので
もうちょっと楽しめなかったのであった

あとは、SF夢十夜的なパリンプセストやらも面白いけど
ここに見られる着想とかは、最近のSF作家みんなが思ってそうなもので
これをどう展開するかというのが、作家の腕なんだろうなと思いつつ
なんぞかんぞと読んだのでありました

それにしても、はじめに書いた、あとがき部分に戻ってしまうが
作家になろうと思ったあたりの動機と動向が
頭いいのに変わってる人だなという感じがせんでもないが
作家としてというあたりに、ひとつあたりがあった、
そしてそれをどう落としていくかという絵の描き方が
普通の作家が書かない感じの来歴だなと思えて、
実際はそう動いている作家が多いとしても、あけすけと書いてしまうところが
いいなと思えたのであった