築地市場の移転問題を考える勉強会を以下の日程で開催いたします。お気軽にご参加下さい。
記
日時:平成21年4月14日火曜日 午後6時から午後9時
場所:月島区民館 大会議室(中央区月島2-8-11、電話03-3531-6932)
(注、月島区民センターとは、異なります。月島保健センター近くです。)
参加費:500円(資料代含め)
プログラム:
午後6時~ 国政・都政の動きー土壌汚染対策法改正案も含めー
午後7時~
畑明郎先生 (日本環境学会会長、大阪市立大学大学院特任教授)
ご講演「金属産業の技術と公害の歴史―土壌汚染を中心としてー」
午後8時~ 築地市場移転の問題点、豊洲土壌汚染対策の問題点
勉強会開催の主旨:『築地市場の豊洲土壌汚染地への移転の問題点』
平成21年2月6日、築地市場の移転候補地、豊洲の土壌汚染の土壌処理対策を検討する「技術会議」の最終報告が提出されました。石原慎太郎都知事は、2月18日の第一回都議会定例会の施政方針表明において、豊洲新市場の平成26年(2014年)12月の開場を表明しました。
それに対し、矢田美英中央区長は2月20日の環境建設委員会の場で、私の質問を受けて、「築地市場移転に断固反対する姿勢に変わりはない。特に技術会議の方針には疑念が残る。」と発言し、あらためて中央区は移転に断固反対であることを確認したところです。
「技術会議」の土壌汚染処理に向けた提言は、一言でいうと「安かろう、悪かろう」の提言です。まったく信憑性のない提言であると考えます。
以下に、理由を述べます。
一、密室の中で進められた会議であること
東京都は、会議内容を公開していると述べていますが、どうみても密室の中で、非公開に会議を進めています。座長以外、誰が委員であるのかすら、2月6日のプレス発表まで明かされませんでした。会議録は、最終報告の段階でも、一切公開されず、2月17日になって、ようやく東京都中央卸売市場のホームページ上で公開されました。アップされた会議録をご覧いただくと分かりますが、発言委員名が明らかにされておらず、どの委員の発言か、わかりません。なお、会議録が本当に会議を再現したものかどうかの疑いも残ります。
ベンゾ(a)ピレン問題や不透水層欠落・不透水層への汚染の拡大問題など朝日新聞1月のスクープ記事でもお分かりのように東京都に情報の隠蔽体質がある以上、様々な不都合を隠すため密室で会議を進行させたと疑わざるをえません。
科学技術の検討は、万人監視の公開のもと実施すべきであり、非公開で進められたこと自体、この会議の結論の信憑性が疑われます。
一、会議の中立性が担保されていないこと
会議の座長を務めた原島文雄氏は、元東京都立科学技術大学長であり、首都大学東京の学長に就任を予定されており、東京都と密接な利害関係を有しています。
このような座長のもとになされた検討結果が、果たして中立な結論を導き出せるのでしょうか?
なにがなんでも移転を強行したいと考える東京都側に立った結論を導き出すと誰もが疑うわけであり、中立性が担保されていない以上、この会議の結論の信憑性が疑われます。
一、そもそも座長は、土壌汚染の専門家ではないこと
会議の座長を務めた原島文雄氏の現在の肩書きは、「東京電機大学 未来科学部 教授、システムエンジニアリング」となっています。早い話が、「ロボット工学が専門の電気工学者」ということです。
ロボット工学という畑違いの方が、土壌汚染処理の検討を進める会議の座長をすること自体に無理が見られます。この会議の結論の信憑性が疑われます。
なお、2月6日提出されたその他の構成メンバー6名の経歴は、座長代理をつとめられた矢木修身氏は、元環境省国立環境研究所水土壌圏環境部水環境室長、日本大学大学院総合科学研究科教授で専門は環境微生物工学。安田進氏は、東京電機大学理工学部教授で、原島座長が東京電機大学長時の学長補佐であり、専門は地盤工学(液状化対策)。長谷川猛氏は東京理科大学工学部工業化学科卒業後、東京都に入都され、東京都環境科学研究所長。小橋秀俊氏は、国土交通省の独立行政法人土木研究所 つくば中央研究所技術推進本部 主席研究員で専門は土木。川田誠一氏は、東京都立科学技術大学教授、産業技術大学院大学 産業技術研究科長 教授で専門はシステムエンジニアリング。根本祐二氏は、国が出資する元日本開発銀行(現:日本政策投資銀行)、東洋大学大学院経済学研究科教授で専門はプロジェクトマネジメント。つまり、東京都関係者、国関係者など御用学者で固めたメンバーと言え、土壌汚染に少しは係わりがある者は、矢木氏と長谷川氏の二人だけであり、液状化に詳しい者が安田氏のみです。これでは、土壌汚染対策の技術工法を審査する委員会としては、失格ではないでしょうか。専門家会議委員4人中、平田氏、森澤氏および駒井氏の3人は土壌汚染の専門家であり、技術会議は専門家会議よりも専門的レベルがかなり劣る構成であると言えます。
一、「専門家会議の提言の具現化」という当初約束された方向性から外れた検討結果を出してきていること
技術会議は、先立って開催された「専門家会議」の提言を具現化するためには、どの技術を実際に用いたらよいのかを検討することが約束されていました。
実際に比較いただくとわかるのですが、汚染地下水の流れを制御するために建物下空間と外部空間の遮水壁を省略したり、現地の土壌を、浄化済みと称して入れ替え用の土壌に転用するなど、「専門家会議」が出した提言と、「技術会議」が出した結論が全く異なっています。
「技術会議」は、当初約束されたように「専門家会議の提言の具現化」を目指すべきであり、その提言からずれた結論は、食の安心・安全やその場所で働く市場関係者の健康への影響の安全性が担保されているとはいい難いと考えざるを得ません。
一、「有楽町層が不透水層」という一番の大前提が崩れていること
土壌汚染の対策にあたり、大前提として「有楽町層」は“不透水層”であり、汚染は、その下に広がらないということがありました。
1/26、1/27と朝日新聞のスクープ記事が出されてお分かりのように、不透水層の有楽町層が確認できない箇所が数箇所存在したり、実際に有楽町層があった場所でさえ、有楽町層内へ汚染が拡大している箇所が数箇所存在していました。
「有楽町層」は“不透水層”で汚染が広がらないとして、詳細な土壌汚染調査はなされておりません。どれだけ深刻な汚染があるのか、誰も知らないまま、対策を強引に進めようとしているのです。土壌汚染は、深層部まで深く広がっていると考えるのが、一般的な考え方と思います。
このままでは、食の安全・安心やその場所で働く市場関係者の健康への影響の安全性を担保とした土壌汚染対策がなされると信用することはできません。
一、地盤の弱い新市場予定地では、土盛り後、地盤の安定を確認するため最大沈下場所で2年間放置する必要があるが、整備方針のスケジュールにはその期間の想定がまったくないこと
建築工事のあり方では、「余盛り」は常識となっています。豊洲移転候補地では、あらたに土壌の入れ替えを行うわけであり、その後、地盤の安定をみる期間が最大沈下場所で2年間必要です。
実際、平成18年に中央卸売市場が作成した地盤解析報告書には、全域に2.5mの余盛りをして1年間放置が施工条件とされています。
この期間をもたずに、土壌汚染対策工事20ヶ月後、“即”建築工事開始となっていますが、このスケジュールの出し方自体に無理があります。
このようなスケジュールを出してきたこと自体、技術会議の結論の信憑性が疑われます。
一、有効性が立証されていない“新技術”を採用していること
「最先端の新たな技術・工法の採用」と銘打っていますが、“最先端”とは、すなわちそれだけ、使用実績が少ないということです。それを安易に採用しています。
土壌汚染の微生物処理が果たして有効であると立証されているでしょうか。東京ガスによる以前の土壌汚染処理でも微生物処理が採用されたにも関らず、これだけベンゼンの汚染が残っている事実が現に存在しています。今回の微生物処理が従来のものに比べて最先端である根拠を示す必要がありますが、明らかにされていません。
“最先端”の技術・工法が有効であるという根拠をきちんと示さずに、採用するのは非常に危険であると思います。根拠なしであるが故に、食の安全・安心を担保した土壌汚染処理がなされると信用することはできません。
次に、土壌汚染に関連して、小児科医師の立場から述べさせていただきます。
一、ベンゼン、ベンゾ(a)ピレン、シアン化化合物の有害性について
専門家会議の報告書から分かる汚染の実態は、とても深刻です。土壌からは、ベンゼンが環境基準の4万3000倍の430mg/lで、シアン化合物は、定量下限値(0.1mg/l)の860倍の86mg/lで見付かりました。地下水においては、全調査地点4122地点の13.6%でベンゼン(最高1万倍、100mg/l)が、約1/4の23.4%にシアン化合物(定量下限値の最高130倍 13mg/l)が検出され、広範囲に土壌汚染が広がっています(『専門家会議報告書』5-37)。なお、シアン化合物で、定量下限値という語を使用しておりますのは、環境基準では、「検出されてはならない」からであり、環境基準との比較ができないためです。
情報の隠蔽として疑われているベンゾ(a)ピレンは、最大値は590mg/kgで、自然界値1.2μg/g(2002年の環境省底質調査)の約500倍、07年調査時点の最大値の115倍でありました。検出個所は151地点あり、そのうち50mg/kg以上が15地点、5mg/kg以上も58地点あります。ベンゾ(a)ピレンについての環境基準や指針は国内にはありませんが、専門家会議の座長は「米国やドイツなどでは2mg/kgや3mg/kgがリスク評価のための基準」と発言しています。
各物質の毒性に関しましては、RBCAによるリスク評価モデルを用いる中で、高濃度のベンゼンにより発がんリスクがあったり、シアンによる急性障害が出るとして、専門家会議の委員自体が毒性を認めています。
ベンゼンの慢性毒性として、発がん性がありますが、それのみではなく、文献的には、妊娠中の胎児への催奇形性も言われており、市場内で働く女性が多い中、健康被害が懸念されます。
ベンゾ(a)ピレンは、石炭から燃料をつくるときに生じるコールタール、たばこ、車の排出ガスなどに含まれる揮発性物質であり、極度に強い発がん性があるといわれています。マウスを用いた実験では、僅かな量でも皮膚がんを引き起こすことが明らかになっています。
シアン化合物は、呼吸障害や頭痛、めまいなど急性障害を起こす猛毒物質で、健康被害を及ぼす可能性は大いに考えられます。特に、シアン化カリウム(青酸カリ)は、150~300mgが致死量となります。シアン化ガスは、青酸ガスのことで、ご存知のように、ホロコーストでも用いられました。気体の毒性の報告では、270ppmで即死というものから、5000ppm(0.5%)の1分間の吸入で半数死亡などがあります(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)。
このようにベンゼン、ベンゾ(a)ピレン、シアン化合物など、今回言われている土壌汚染物質の毒性は、非常に強く、厳重な管理を要します。特に、シアン化合物は、環境基準の「検出されてはいけない」ことを達成させる必要があります。技術会議の報告書で、「地下水を敷地全面にわたって早期に環境基準以下に浄化」と述べられていますが、専門家会議の調査で全体の約4分の1、すなわち約10ヘクタールにシアンの汚染が広がっており、果たして浄化が可能なのか大いに疑問の残るところです。
次に、地元中央区議会議員の立場(無所属)から述べさせていただきます。
一、日本国憲法 地方自治の章において保障する「団体自治」の観点から、東京都の独断による移転の強行に抗議します。
中央卸売市場は、都道府県が策定する卸売市場整備計画に基づき、農林水産大臣の認可を受けた都道府県または人口二十万人以上の指定都市が開設できるものとされています。しかしながら、現在、特別区は指定都市に含まれていないことから、都が築地市場をはじめ特別区内十箇所で市場を開設、運営しております。
卸売市場は、その周辺地域の産業や経済、住民の暮らし、さらにはまちづくりに大きな影響力を有する施設です。日本国憲法で謳われている団体自治の観点からしても、また、地方分権の流れからみても、地域の総合的、一体的なまちづくりを可能にするために、都に留保されている市場の都市計画決定や開設に関する事務に、築地市場の所在地を有する地元の区が関与することが当然のあるべき姿と考えます。
中央区ホームページ内『築地市場再整備問題の経緯と中央区の取り組み』をご覧いただきますと分かりますように、築地市場再整備を求め、中央区長、中央区議会議長は、平成10年(1998年)の「築地市場再整備に関する要望書」提出から始まり、再三にわたり「抗議」「要望書」「意見書」を東京都に提出して参りました。平成11年(1999年)当時、中央区は、築地市場現在地再整備する場合の種地として、築地川東支川の2851㎡の提供を市場当局に申し入れをしたり、平成12年(2000年)には、『築地市場現在地再整備促進基礎調査報告書』も作成し、具体的な再整備に向けた提案も行ってまいりました。
しかし、石原都知事の平成11年9月築地市場視察における「古い、狭い、そして危ない」の発言で象徴されますように、地元自治体のそれらの意見・提案を真摯に受け止めることなく、東京都は、強引に移転の方針で計画を進めてまいりました。
日本国憲法では、地方自治の大原則である「住民自治」と「団体自治」が謳われていますが、これまでの経過を見ていただければ、東京都の地元自治体である中央区に対して、その「団体自治」のあり方に大きく反して行動してきたことがお分かりいただけると同時に、このようなことは、あってはならないのではないでしょうか。私は、「団体自治」の原則を踏みにじる東京都に対して、強く抗議を致します。
以上、都民・仲卸業者・土壌汚染専門家の皆様と共に行動してきた立場として、小児科医師の立場として、そして地元中央区の区議会議員の立場として申し述べました。
最後に、しきりに東京都は、築地市場廃止、豊洲新市場開設を“決定事項”のように述べておりますが、事実無根であります。
中央卸売市場は、「中央卸売市場整備計画」に基づいて設置されると「卸売市場法」に定められています。そしてその「中央卸売市場整備計画」は農林水産大臣が定めます。今後土壌汚染のことがきちんと審議され、「卸売市場整備基本方針」に謳われている「食の安全・安心」が担保されて「築地市場の豊洲移転」は初めて“決定”されることになるわけです。現段階では、豊洲での生鮮食料品を扱う市場開設は、多くの難題が残されていると考えざるを得ず、よって“決定事項ではない”のです。
まだ、決まったことではない以上、食の安心・安全を守るため、世界のtsukijiブランドを守るため、都民・日本の“食文化の象徴”としての文化的遺産を守るため、今こそ立ち上がるべきであると考えます。
なぜ、築地市場を破壊して、その土地を売却した代金で、国内最大級の土壌汚染地を特定私企業から買い上げ、移転や汚染対策に注ぎ込む費用に充てねばならないのでしょうか。
それは、市場関係者をないがしろにし、都民の利益を損ね、単に事業を受注する企業を潤すだけの愚策です。
築地市場の現在地での再整備は、十分可能です。今、あらためて真剣に考えようとしていないだけの話です。
現在地での再整備を実現し、築地の活気とにぎわいをさらに発展させ、銀座などの周辺地域の連携により、日本の食文化の中心として、さらには、都心観光拠点・都心商業の一大集積地として繁栄に導くことこそが、選択すべき道だと考えます。
平成21年4月6日
築地市場を考える勉強会 代表 小坂和輝
(中央区議会議員・小児科医師・医学博士)
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