やや、乱暴な書き方を許されるのであれば、979条ある条文中、会社法の中で、最も大切な条文は、429条と感じています。(2番目は、株主代表訴訟の847条か。)
とくにその429条1項(改正前商法266条ノ3第1項)
会社法
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文の肝は、悪意(又は重大な過失)。
悪意=「知っていること」という文言が出てきたら、常に、「何について?」をセットで考えねばなりません。
この場合、「取締役としての“任務懈怠”」についての悪意。
この文言を持っていることが、この条文の優れたところで、これにより証明の負担がものすごく軽減されます。
例えば、偽装事件を起こし倒産した会社の取締役責任追及の場合でも、
「偽装事件自体を知る(第三者への加害について知る)」ことの証明よりも、「偽装事件自体などを知るべき立場として任務を怠っていなかったか(善管注意義務及び忠実義務に違反しなかったか)」を証明する方がはるかに楽です。
429条の法の趣旨を、最高裁は以下、述べています。
最高裁昭和44年11月26日大法廷判決:
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120335253311.pdf
法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しか
も株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを
考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意または重大な過失により右
義務に違反し、これによつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の
行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによつて損
害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を
被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の
責に任ずべきことを規定したのである。
429条を用いて、取締役へ責任追及する手順
X⇒Yへの請求が認められるためには、
会社法429条1項の各要件が充足される必要がある。
以下、検討する。
(法定責任説の立場で)
1.Yが取締役である。
2.Yに任務懈怠がある。
3.Yが任務懈怠について悪意・重過失である。
4.損害が発生。
5.Xが「第3者」である。
6.相当因果関係がある。
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<429条の解釈上の論点>
1)責任の性質が特別の法定責任か、不法行為責任か
⇒第三者保護のための特別の法定責任を定めたもの
2)民法709条の不法行為責任との競合を認めるか
⇒競合を認める
3)責任の範囲は直接損害(会社が損害を受けたか否かを問わず取締役の行為によって第三者が直接に損害を受ける場合)に限るか、間接損害(取締役の行為によって一次的に会社に損害が生じ、その結果第二次的に第三者が損害を受ける場合)に限るか、それとも両方含むか
⇒両損害包含説
4)悪意・重過失は会社に対する取締役の任務懈怠について必要か、第三者への加害について必要か
⇒悪意・重過失は、会社に対する任務懈怠について必要。
代表取締役が他の代表取締役その他の者に会社業務の一切をまかせきりにし、それらの者の不正行為や任務懈怠を看過した場合には自らも悪意・重過失により任務懈怠を怠ったものとして責任を負う。
5)第三者の範囲、株主も含むか、他の取締役(会社への貸付金の回収不能の損害)にも及ぶか
⇒株主の場合、1)Yの会社への賠償で株価が回復、2)423条(免除は総株主の同意424条)と429条の二重の請求の負担 が問題
他の取締役:横浜地判昭和58年3月17日
以上