北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

湿原を賢く使うには

2010-12-19 23:45:27 | Weblog
 今日は予算のヒアリング最終日。まずは大まかなヒアリングを行って、ここから先は若手を中心とした部隊が事務的な査定案の策定に入ります。

 限られた予算の範囲に収めるために、正月を挟んで連日夜遅くまで作業が続くことでしょう。その成果は年が明けてから再び聞くことになります。寒い中で風邪など引かずに頑張ってください。

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 昼休みにちょいと抜け出して、ラムサール条約締結30周年記念イベントにご挨拶。このイベントの講演のために釧路に来ていただいている環境分野の恩師であるT先生にお会いしてきました。

 釧路湿原は国立公園になる際も、T先生の熱心なご指導により「利用と保全のワイスユース」という考え方でスタートすることができました。

 ワイスユース(wise use)とは『賢い利用』という意味。湿地の賢明な利用とは、『湿地の価値を認識し、その生態系を維持できるような方法で湿地を持続的に利用する』ことだという考え方を共有できているので、保護運動が先鋭化したり、利用の圧力に侵されるということもなく今日にまで至っています。

 保護自体は崇高な扱い方ですが、それが先鋭化して保護のためには何もするべきではない、という考え方が支配すると、人々の利用が少なくなって興味を持つ人が減り、結果として保護すべき価値を後半に伝えることができなくなってしまいます。

 だから、自然は、利用の圧力を抑えながらも、価値が分かる人を増やすための利用を促進するという相矛盾する活動の両輪を絶妙なバランスを保つ必要があるのです。





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「そうした関心をもってもらうためにはねえ、面白がるということが必要なんですよ」とT先生は語ります。

「面白くならないと興味がわきませんよ。興味がわかないと人は離れて行ってしまいます。それは全く自然公園の価値を味わうということに逆行してしまいます」

「コンサルタントの調査もなんだか紋切型ですしね」と私。するとT先生は「そう、そうなんですよ」と強くうなずかれました。

「釧路川で一度直線化したところを再び蛇行させた工事個所があったでしょう。僕は切り替えたすぐ後に調査で入ったんですよ。そうしたらそのニュースを知った釣り人が何人もきていて釣りをしていたんです」
「なるほど、釣り好きには新しいポイントなんですね」

「そこで釣りをしている人たちに、どこでどんな魚が釣れますかね、なんてことを訊いてみるわけ。そうすると『あそこがよさそうだと思ったらどうもそうではないみたいだ』とか、『ここのポイントでは随分大きな魚が釣れました』なんて話が聞けるわけですよ。これこそまさに生きた情報だと思いました」
「コンサルタントの情報にはそうした喜びみたいな共感がありませんね」

「そう思うでしょう?『魚のことは魚に訊け』というけれど、魚には聞けないまでも、調査とすれば『釣り師に訊け』くらいなことはあってもよさそうだと思いましたよ」

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 その話を聞いて思い出したのは、長野県で公園を作っていた時に出会ったある河川屋さんの話。

「私は長野県で当時河川事務所の所長をしていたKさんと知り合いました。その方が立派だったのは、魚を増やすという触れ込みで施工した木工沈床が本当に魚を増やすのに役立っているのかを知るために自らダイビングの免許を取って実際に潜ってその働きを目視したんです。結果は全く機能していないということだったようで、改善を施されたようですが、そうした『自ら見る』という姿勢を立派だと思いました」
「ああ、Kさんね。よく私も知っていますよ」とT先生、やはり有名な方でした。

「河川屋さんも数多くいて、河川環境は大事だということをおっしゃる方はたくさんいますが、実際に潜ってどんな魚がどういう生態でいるかを見るところまでやる人の話はまず聞きませんね。私も実はマリモの潜水調査に同行したいとお願いをしているところなんです」
「マリモの潜水調査ですか!それはすごいなあ、私も同行したいくらいだ、はっはっは!」

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 環境に興味を持たせるには伝える側が心底面白がっている雰囲気が伝わることが大切です。

 もっともっと私たちも釧路湿原を楽しんで味わいたいものです。 


 年賀状を書ききれないまま明日からは東京出張で、週の公判は札幌で大掃除です。明日家を離れるときは水抜きと不凍液を忘れないようにしなくては!

コメント (1)
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