興趣つきぬ日々

僅椒亭余白 (きんしょうてい よはく) の美酒・美味探訪 & 世相観察

天南蛮の秘密

2006-03-10 | 美酒・美味探訪

 蕎麦屋で鴨南蛮といえば、ネギと煮た鴨肉が入ったそば(うどん)のことであり、天南蛮といえば、海老のてんぷらとネギの入ったそば(うどん)のことである。
 では、この「南蛮」とはなにを意味するのであろう。
「ネギの入ったそばのことをいうのだよ」
という人は通である。
 柏(かしわ)南蛮には鶏肉とネギが入っており、肉南蛮には牛肉とネギが入っている。
(広辞苑によれば、親子南蛮<鶏肉と鶏卵とネギを入れた汁そば>や葱南蛮<ネギと油揚を入れる>というのもあるらしい)

              *
 先日昼時、会社の近くの蕎麦屋でこんなことがあった。
 わたしのいたテーブルに男性と女性の二人連れが来て、わたしと相席になった。
 髪に白いもののまじった五十がらみの男性が、注文をとりに来た店員に「おおもり」とたのむと、連れのまだ二十歳代と思しき女性が、
「それでわかるんですか?」
と男性に聞いたのである。
 蕎麦屋で「おおもり」といえば、もりそばの大盛りのことである。「何の大盛りですか」とは普通聞き返されない。
 この女性、蕎麦屋にはあまり来たことのない人のように思われた。
 彼女はしばらくメニューを見ていたが、やがて「天南蛮(そば)」を注文した。そして、店員が下がるとこうつぶやいたのである。
「わたし、ナンバンも好きだし……」

 この女性の言うナンバンとは、たぶん「唐辛子」のことであろう。七味や一味の、いわゆるトンガラシではなく、野菜の唐辛子。
(この人、天南蛮にはてんぷらと野菜の唐辛子が入っていると思っているんじゃないかな)
と感じたわたしは、実際に天南蛮そばが運ばれてきたときの、彼女の反応を見てみたいとう衝動にかられた。
 そのときわたしはすでに自分のキツネそばを半分以上食べてしまっていたが、食べるスピードを落とし、時間を稼いだ。

 やがて、天南蛮そばが到着した。
 アツアツのそばの上には、揚げたての海老天と茹でた細ネギ、それに三つ葉が散らしてあるだけで、ナンバンはなかった。
 わたしは横目で素早く女性の表情をうかがったが、残念ながら連れの話を聞くのに忙しく、天南蛮を見ての感懐を表情に表すことはなかった。

              *   
 まあ、それはともかく、実はわたし自身も、蕎麦屋でいう「南蛮」はネギのことではない、と思っていたのである。
 野菜の唐辛子と思っていたわけではないが、七味などの香辛料としてのトウガラシのことだと思っていた。
 例えば、鯵の南蛮漬けは、小鯵にコロモをつけて揚げたのをトウガラシを効かせた甘酢に漬ける。南蛮漬けにトウガラシは必須であるが、ネギはなくてもよい。

 愚考するに、料理でいう「南蛮」の由来は、文字通り南蛮貿易が盛んだった室町時代にあるのではないだろうか。
 当時、胡椒や唐辛子などのスパイス(香辛料)が外国との交易によって日本に入ってきた。それで、スパイスとしてのトウガラシとそのもとになる野菜の唐辛子を南蛮(ナンバン)と言ったのではないか。

 ふたたび広辞苑によれば、鴨南蛮は「鴨南蛮煮の略」とあり、南蛮煮は「魚・鳥などを唐辛子や葱(ねぎ)を加えて煮た料理」とある。
 しかし、現代の蕎麦屋での鴨南蛮、天南蛮には、ネギは使われていてもトウガラシは使われていない。少なくとも天南蛮には使われていない。
 天南蛮、鴨南蛮は、テーブルの上の七味を自分でふりかけてはじめて完成するものなのかもしれない。
2004.9.23

(写真は九段・田毎の天南蛮そば)


純米吟醸 山古志 [美酒・佳酒・銘酒]

2006-03-10 | 美酒・美味探訪
 新潟県長岡市お福酒造の酒。
 棚田など、昔ながらの美しい農村風景を残した新潟県古志郡山古志村(現在長岡市に編入)。ここでとれた米、「一本〆」を醸したことからこの名前がある。

 吟醸酒とはいえ、香りの強すぎない素直な酒である。
 新潟県中越地震で大きな被害を受け、全村避難を余儀なくされた山古志村。今年はこの一本〆が栽培できるのであろうか。
 一日も早い村の復興を祈るのみである。
2005.2.11

牡蠣の缶詰

2006-03-10 | 美酒・美味探訪
 牡蠣の薫製の缶詰。
 夏場の夕刻、腹を十分に空かせ、のどを十二分に乾かし、缶詰のふたを開け、小皿にとりわけ、そのままいただく。

 まずは一つ口に含み、ゆっくりかみしめる。牡蠣の旨味と薫製の香りをじっくりと味わおう。
 あと、ビールをグイッと……。

卵の黄身の味噌漬け

2006-03-10 | 美酒・美味探訪
 新鮮な卵の黄身を生のまま味噌に漬ける。ガーゼにくるんだ形でそっと味噌にうめこむのが結構むずかしい。酒を少々ふりかけ二日ほどおくと、ご覧のような半透明の琥珀色にかたまる。

 濃厚でねっとりとした食感の中に、黄身の旨みと味噌の香りがたちのぼる。そしてほのかな塩味・・・燗酒には最高のつまみである。

 写真は、屋外の自然な環境で飼育した鶏「後藤一三〇(いちさんまる)」の新鮮な卵と、無添加の二年熟成自家製味噌で作ったもの。味が濃く、香りが高く、臭みがまったくない。
2005.4.3