宇宙は無数にあるのか (集英社新書) | |
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宇宙には、まだまだ謎が多い。そもそも宇宙の96%は、暗黒物質だの暗黒エネルギーといった正体不明のものだ。
佐藤勝彦氏やアラン・グースが提唱したインフレーション理論では、宇宙の初期に真空の相転移が起こり、潜熱が解放されビッグバンが起こったという。不思議なことに、この宇宙は、最初のうちは、減速膨張が進んでいたにも関わらず、星や銀河などの構造ができるのを見計らったように、加速膨張に転じている。この宇宙を膨張させているのが暗黒エネルギーだが、これを真空のエネルギーとして計算すると、見積もられている暗黒エネルギーより124桁も大きくなってしまうという。また、この宇宙では、色々な物理法則やパラメーターが人間が生存するのに都合がよいように微調整されているかのようなっているのも不思議なことだ。
これらを説明しようと考えられたのが「人間原理」である。これには、ディッケが唱えた「弱い人間原理」とカーターが唱えた「強い人間原理」の2通りがあり、前者は、宇宙の初期条件が人間が生まれてくるようにデザインされているというもの。後者は、物理学の基本法則や常数も人類が存在しているという条件から決まるというものである。いずれにしても、理論的に導かれるというようなものではなく、宗教やイデオロギーのようなもので、これを認めることは、科学の敗北に等しいと思う。
人間原理は、これだけではない。ワインバーグは、宇宙は、無数にあり、そのなかで、知的生命体の生まれる宇宙のみが認識されるという、新たな人間原理を唱えている。すなわち宇宙は、ユニバースではなく、マルチバースだというのだ。無数のマルチバースを仮定すれば、そのなかには、人間が存在できる宇宙もあるかもしれない。実は、佐藤氏やグース氏のインフレーション理論からもマルチバースは導かれるのだが、どの宇宙も概ねおなじようになってしまうというから、なかなか一筋縄ではいかない。ただし、インフレーションにも多様な物理定数を持った宇宙が生まれるものもあるし、インフレーション理論以外にもマルチバースを生み出す理論があるというから、もしかしたらという可能性もあるだろう。しかし、マルチバースの存在を、どうやれば証明できるのか。
まさに宇宙は、不思議でいっぱいだ。読めば読むほど、新たな疑問が湧いてくる。専門家でないかぎり、アインシュタイン方程式をといて、実際に計算をしてみるといったようなことは難しいし、そんなことは思わないだろうが、本書で得た知識を基に、大宇宙に空想の翼を広げてみるのも楽しいではないか。
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