文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:非線形科学 同期する世界

2014-07-22 18:10:36 | 書評:学術教養(科学・工学)
非線形科学 同期する世界 (集英社新書)
クリエーター情報なし
集英社


 ずいぶん前から、「学際」という言葉を聞く。学問の対象が、既存の分野にとらわれず、複数の分野にまたがっていることを表す言葉だが、本書のテーマである「非線形科学」などは、その典型であろうか。

 「線形」というのは、入力と出力の間に一次関数的な関係が成り立つもののことで、そうでないものは「非線形」と呼ばれる。世の中の殆どの現象は非線形であり、これを理論的に取り扱うのはなかなか難しいのだが、カオスなどの興味深い現象が見られるのは、非線形性の賜物なのである。

 本書、「非線形科学 同期する世界」(蔵本由紀:集英社新書)は、数ある非線形現象のうち、「同期」ということに焦点をしぼって解説したものだ。「同期」というのは、複数のものが、同じように歩調を合わせて動くもので、電気工学の世界などではよく知られた概念である。交流発電機には、同期発電機と誘導発電機があるが、電力系統全体が大きな一つのシステムとして働くためには、発電の大部分を占める同期発電機が、互いに歩調を合わせて動くことが不可欠なのである。近頃流行の太陽光発電などは、電力系統から同期のための情報をもらうことにより、本来直流のものを交流に直しているのである。「同期」こそあの巨大なシステムの要なのだ。

 本書には、この電力システムの同期についてもある程度書かれている他、メトロノーム、振り子の同期などの物理系の動機現象についても記載されているが、大部分は、螢の集団発光、心臓の鼓動や体内時計、ホルモンの分泌といった生理現象、ヤツメウナギやミミズなどのロコモーション(空間移動)などの生物系の話題である。だから数理系、物理系、工学系の話題に興味がある人には少々当て外れかもしれない。しかし、非線形科学とは、これほどに適用範囲が広いものなのである。カエルの鳴き声などにも同期現象が見られるという。本書を参考に、身の回りの同期現象を探して見るのも一興だろう。

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。


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