文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:ヨーロッパ文学の読み方ー古典篇

2015-02-05 21:24:46 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
ヨーロッパ文学の読み方―古典篇 (放送大学教材)
クリエーター情報なし
放送大学教育振興会


 放送大学の印刷教材として使われている「ヨーロッパ文学の読み方ー古典篇」(宮下志郎、井口篤)。本書は、タイトルの通り、ヨーロッパの代表的な古典文学について解説したものである。
扱われている作品は、ギリシア・ローマ時代のホメロスの「イリオス」やヘロドトスの「歴史」から始まり、中世・ルネサンス時代のダンテの「神曲」、ボッカッチョの「デカメロン」など。

 日本の古典には、学校の古文の授業などで触れる機会があるので、おおよそどのようなものか見当くらいはつくと思うが、ヨーロッパの古典となるとタイトルくらいは知っていても、多くの方にとっては、それほどなじみがないのではなかろうか。正直私も、この本で取り上げられている作品で読んだ記憶があるのはボッカチョの「デカメロン」くらいだ(内容はまったく覚えていないが)。

 しかし、本書により、その一環にでも触れてみると、色々と興味深いことが多い。まず、ギリシア・ローマ時代の作品だ。大昔の作品だから、つい、書き方のテクニックなどにはみるべきものはないのではないかと思ってしまいそうだが、その認識ががらりとひっくり返されるだろう。例えば、ホメロスの「イリアス」は、トロイア戦争における、わずか47日の出来事を描いたものであるが、登場人物に過去を回想させ、未来を予見させて、トロイア戦争の原因から、トロイアの滅亡までを織り込んでいる。また、リングコンポジションといって、各要素を折り返し点で逆順に展開していくという手法も使われているのだ。

 中世・ルネサンス時代の作品も負けてはいない。ダンテの「神曲」には、我々読書家にとってなかなか有用なことが記されている。それをかいつまんで紹介すると、「書かれたものには、①字面的な意味、②アレゴリー(その物語に隠された意味)、③倫理的な意味、④解釈によって明らかにされる上位の意味の4つがある」ということだ。これは、古典のみならず、現代小説を読んでいくうえでも視点として使えるのではないだろうか。

 また、中世・ルネサンス時代には、ヘンな本も多い。特にヘンなのが、「ティル・オイレンシュピーゲル」である。無類のいたずら好きだというオイレンシュピーゲルという男の話なのだが、これが何かと言うと「うんち」の話になるという、全編スカトロ趣味に溢れているのだ。

 あまり触れる機会のない、ヨーロッパの古典の概要だけでも知ることができ、なかなか面白い。機会があれば読んでみたいものもいくつかあったが、現状ではそこまで手が回らないのが残念だ。


☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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