蛇 (講談社学術文庫) | |
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講談社 |
吉野裕子さんの「蛇 日本の蛇信仰」(講談社学術文庫)。1979年に法政大学出版局から刊行されたものを文庫化したものだ。著者は、津田塾大を卒業後、筑波大学で文学博士号を取得した在野の民族学者である。
ところで、蛇といえば、一般には良いイメージを持たれていないだろう。キリスト教世界では、蛇はアダムとイブを堕落させたものとして忌み嫌われている。ギリシャ神話にもラミアという半人半蛇の怪物が出てくるし、北欧神話にもミッドガルド蛇というとんでもない怪物が登場しているのだから。
しかし、東洋においては、蛇は全く違った様相で神話の中に登場してくる。例えば、中国の祖神と伝えられる伏犠、女媧は人面の蛇神であった。日本でも、我々の祖神には、蛇の影が色濃く見える。そもそも日本神話では。神武天皇の祖母である豊玉姫、母親の玉依姫は竜蛇と伝えられている。また、我が国の有力な神であるアマテラスやオオモノヌシなどにも、蛇のイメージがつきまとっているのだ。本書では、触れられていないが、岩国の白蛇などは神の使いとされるし、弁財天と同体とされる宇賀神も、人面蛇体の神なのである。このように、著者は、蛇とは日本民俗学で一般的に扱われているような単なる水神にとどまらず、第一義的には我々の祖先神、宇宙神であると主張する。そう、我々日本人は蛇の子孫なのだ。
本書では、まず生物学的な蛇の生態が示された後、古代日本人がいかに蛇を敬っていたかが解説されている。縄文土器に、蛇の造形が施されているということがそれを表しているというのだ。 そして、この蛇信仰は、生活の隅々まで入り込み、多くのものが「蛇」になぞらえられる。蛇の古語は「カカ」といい、「カガチ」、「カガミ」なども蛇を表す言葉だそうだ。「鏡」や「鏡餅」、「カカ」の名が潜んでいる多くの植物のみならず、山や家屋なども蛇に見立てることができるというのは驚きだ。
本書を読めば、我々がこれまで持っていた「蛇」に関する観念が、完全にひっくり返されるのではないか。日本古来の文化に、これだけ蛇が関係しているというのは思いもよらなかっただろう。ただ、名前に「カカ」とか「カガ」といった言葉がついているだけで、蛇に関係するというのもどうだろうか。それなら「加賀の国」は「蛇の国」ということになるし、嫁のことを「カカア」と呼ぶのは、嫁が蛇女だということだろうか。(2番目のは、賛同する方も多いかも(笑))
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