おろち(1) (ビッグコミックススペシャル) | |
クリエーター情報なし | |
小学館 |
・楳図かずお
楳図かずおといえば、「まことちゃん」のイメージがあまりに強烈なので、昔の作品を知らない人はギャグマンガ家とでも思っている人もいるかもしれない。しかし、かっては少女フレンドにヘビ女シリーズをはじめとした多くのホラー作品を発表して、日本中の少女を震え上がらせていたのである。(ちなみに、当時ライバル誌のマーガレットにヘビ女ものを描いて、楳図かずおと人気を二分していたのが、「エコエコアザラク」で知られる古賀新一だった。)
この作品は、1969年から70年にかけて、「週刊少年サンデー」に連載されていたもので、楳図作品としては、ヘビ女から続く、ホラー系の作品の流れのなかに位置付けられるものだろう。私は、子供時代に雑誌連載中にリアルタイムで読んでいたが、その面白さには魅了されたものだ。しかし、この作品は子供向けというよりは大人向けだったのだろう。今読み直してみると、ますますその魅力に引き込まれてしまいそうだ。
主人公は、おろちと呼ばれる謎の美少女。美少女とは書いたが、彼女がいったい何者なのかは分からない。通常の人よりも遥かに長く生きており、不思議な能力を持っている。描かれているのは、彼女が関わった人間に関する恐ろしい物語だ。
○姉妹
おろちが、嵐を避けるために入り込んだ邸。そこには、美しい姉妹が住んでいた。ところが、この姉妹は18歳の誕生日を迎えると、次第に人とは思えぬほど醜くなっていく運命だという。
○骨
不幸な育ちをしてきた女性が、優しい男性と結婚して幸せをつかんだかに見えた。ところが夫が亡くなってしまう。看護士として働いていたおろちは、嘆き悲しむ妻に同情して、夫そっくりの人形を動かそうとするが、甦ったのは、腐敗しつつあった夫だった。
人ならざる存在のおろちだが、その心は優しい。それはおろちの魅力ではあるのだが、そのために、関わるべきではなかった人間たちに深く関わってしまうのである。
例えば「姉妹」では、彼女たちに同情して、「かわいそうに・・・・・・ほんとうに ずっとここにいてあげてもいいわ・・・・・・この姉妹が年とって死ぬ時くらいまでならずっといても・・・・・・」と思うし、「骨」では、自分の命をかけてまでも、嘆き悲しむ妻のもとに、死んだ夫を帰してやりたいと思考えるのだ。
そして、この作品で語られる恐怖の物語にはあっとおどろくようなどんでん返しが待っている。そこで読者は、本当に怖いのは妖魔の類などではなく、人の心であることを知るだろう。
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※本記事は、書評専門の摂ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。