・樋口 有介
本書は、元警視庁警部補で、今は刑事専門のフリーライター柚木草平が名探偵薬を務めるシリーズの最新刊だ。
今回柚木が挑むのは、二年前に起こった未解決の女子高生殺人事件。彼がこの事件を調べることになったのは、小姑のような月刊EYESの編集者小高直海に尻を叩かれたからだ。なにしろ年中手元不如意の柚木のこと、ちゃんと仕事をしないと食べていけないのである。
被害者の野川亜彩子は、ピースフル・サウス・イースト(PSE)という東南アジアからの留学生を支援するNPOでボランティアをしており、疑われていたのは、タインというベトナムからの留学生。ところがこんどは、PSEと同じビルに入っているアジアン雑貨店でアルバイトをしていた戸田香保梨が殺害された。果たして二つの事件は関係があるのか。
この柚木、どう見てもちょいワルオヤジのような感じなのだが、どういうわけか女にもてる。だから、毎回彼の周りは美女だらけで、なんともうらやましい(笑)。今回は、以前から不倫関係にある、警視庁の女性キャリア警視の吉島冴子に加えて、直海の大学時代の同級生の枝沢柑奈とも関係を持ってしまう。この他、PSEの入っているビルのオーナーである山代千絵とその娘の女子高生美早の美人母子や玉川署の女性刑事である吹石夕子巡査部長など、綺麗どころがいっぱい登場する。
さて、肝心の事件の方だが、「日越親善交流協会」というNGOが出てきたりして、国際問題が絡むようなでかい事件になるのかと思っていたら、ちょっと竜頭蛇尾といったような結末だった。もっと話を大きくしても良かったのではないのかと思う。
またいくつか疑問に思ったところもある。吉島に昇進を伴う異動の話があるようだが、柚木はこう言っている。
「冴子も警察庁へ出向した時点で警視から警視正、そして次に警視長になって自動的に国家公務員になる」(p127)
冴子はキャリア組なので、警視庁に勤めていても、元から国家公務員だし、警察庁に出向というのではなく、戻るといった方が適当だろう。また、地方採用の警察官の場合、自動的に国家公務員になるのは、警視正以上だ。
更に、吹石に対しても、一応大卒だから準キャリアだと言っている(p145)が、大卒でも大卒程度国家一般職試験に合格して本庁採用されないと準キャリアとは言われないはず。
草平、元刑事なのに、あまりこういったことには詳しくないのだろうか。
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※本記事は、
「風竜胆の書評」に掲載したものです。