「世の中にたえて地理のなかりせば 麿の心はのどけからまし」
恥ずかしながら、中高時代の私の気持ちを在原業平の「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」をもじって詠んでみた。そもそも学校というものがあまり好きではなかった私だったが、特に地理というのは退屈な科目の一つだった。なぜこんなことを覚えなくてはならないのか。田舎学校の真面目な生徒だった私は、一応それなりの成績は取れるくらいの勉強はしていたのだが、その副作用ですっかり地理嫌いになってしまった。
ところが、本書を読んで少し考えが変わった。思っていたより、地理というものは幅が広く、学際的な学問だということが分かったからだ。この号の特集は、「魚を得る・売る・食べる」と銘打っており、「食に関わる地域や環境、産業や文化、社会を見つめてみよう」(p13)というもの。このテーマについて多様な切り口で書かれた記事が掲載されているが、執筆者の専門を見ると、水産地理学、経済地理学、漁業地理学といった、なんだか面白そうな名前が並んでいる。記事も地域の食文化の違いや水産業を通じた地域間の繋がりなどが分かり、なかなか興味深く読める。
このほか、地図データを使った自然災害の分析、ドローンを使った気温観測や災害調査、北海道のボーダーツーリズムの展開など、興味深い記事が満載だ。こういったものを読むと、高校までの地理のあの退屈さはなんだったんだろうと思ってしまう。
書評欄が充実しているのも好ましい。この号には6冊の本が紹介してあるが、いくつかは機会があれば読んでみたいと思った。
☆☆☆☆
※本記事は、
風竜胆の書評に掲載したものです。