文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:冬の薔薇

2016-09-15 18:57:26 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
冬の薔薇 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・パトリシア・A・マキリップ,(訳)原島文世

 本書は、スコットランドに伝わる妖精譚「タム・リン」のバラッドを下敷きに、パトリシア・A・マキリップが書き上げた幻想の物語だ。

 舞台は中世のヨーロッパだろうか。主人公のロイズ・メリオールは森を裸足で駆け回るのが好きな一風変わった娘だった。ある日彼女は、森の中にある泉のほとりで、美しい若者コルベット・リンと出会う。彼は、廃墟となったリン屋敷を相続するためにやってきたという。しかし、村では、コルベットの父が祖父を殺した際に呪いがかけられたと噂されていた。

 ロイズはコルベットに惹かれ、婚約者のいる彼女の姉ローレルもまたコルベットに魅了されてしまう。ところが彼が姿を消し、ローレルは食事も摂らず次第に衰えていく。ロイズはコルベットのことを調べていくのだが、このあたりから、物語は幻想的な色合いが強くなってくる。

 森には二つの顔がある。美しい花が咲き、薬草になる植物や食べられる木の実といった恵みを人間に与えてくれる一方、森は異世界への入り口でもあるのだ。ロイズがコルベットと出会ったのが森の中だという設定は、この物語の内容と無縁ではないだろう。これから始まる不思議な物語を暗示しているのだ。

 マキリップの綴る物語は、幻想的で美しい反面どこか捉えどころがない。読んでいて、この幻想の海の中でともすれば迷ってしまいそうになるのだが、 これが「幻想の紡ぎ手」と呼ばれるマキリップの魅力だろう。マキリップの世界に迷い込みたい人には必読の一冊である。

☆☆☆☆

※本記事は、「風竜胆の書評」に掲載したものです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする