文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

棘の闇

2017-07-02 20:10:05 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
棘(おどろ)の闇 (廣済堂モノノケ文庫)
クリエーター情報なし
廣済堂出版

・朝松健


本書は、朝松健さんによる、室町の闇5編を収めた短編集だ。

 ところで、なぜ舞台が室町なのだろうか。思うに、これが江戸時代だと少し近すぎる。そしてこれは個人的な感想かもしれないが、江戸時代の怪異はどこかユーモラスな感じがあるのだ。逆に鎌倉時代以前になると、ちょっと遠すぎて、あまり実感が湧かない。極端な話をすれば、邪馬台国時代あたりの怪異譚など、誰が怖がるものか。やはり、室町あたりがちょうどよいのだ。

 室町の時代、夜の闇は今よりもずっと深く、魑魅魍魎が跋扈していた。この短編集は、そんな時代を舞台にした、珠玉のホラー集といったところだろうか。

 面白いのは、あの一休さんが主人公の物語が2編収められていることだろう。しかし、この作品の一休さんは、アニメでおなじみの可愛らしい小僧さんではない。また、あのいかにも変わり者といった感じの晩年の一休さんの肖像とも少し違うようだ。

 描かれているのは、怪異と対決するゴーストハンター的な、まだ元気いっぱいの一休さんだ。この短編集を読む限りは、一休さんにはひとつのパターンがある。

①まず、自分は後小松上皇の子供だと言って一発かます。
②それが通じなければ、実力行使に出る。なにしろこの一休さん、明式棒術には、腕に覚えがあるようだ。なかなかの武闘派である(笑)。一休さんの持っている杖は、実は武器だったとは知らなかった。

 表紙イラストに描かれた、ぞくりとする美女がとても目を引く。このイラストだけでも、本書を手に取ってしまいそうだ。この女性は、一休さんの出てくる「屍舞図」に登場する玉蘭だろうか。他には該当するような登場人物は見当たらないのだが。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

コメント
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