![]() | 人魚姫 探偵グリムの手稿 (徳間文庫) |
クリエーター情報なし | |
徳間書店 |
・北山猛邦
北山猛邦さんの作品は、以前から気にはなっていたのだが、なかなか読む機会がなかった。今回読んでみたのが本書である。
「人魚姫」というのは、アンデルセンの書いた物語で、自分が助けた王子に恋した人魚の姫が、人間になる代わりに魔女に声を奪われてしまう。王子は結局別の人間と結婚することになるが、人魚の姫は王子との恋がかなわなければ泡となって消えてしまうのだ。それを防ぐためには、王子をナイフで刺し殺すしかない。結局人魚の姫の恋は悲恋で終わり、彼女は王子を殺せずに、海の泡となって消えてしまった。
この作品は、このアンデルセンの「人魚姫」の続編といえるような話になっている。そして、活躍するのが当のアンデルセン自身なのである(もっともアンデルセンは少年として登場するのだが)。そして、タイトルの副題「探偵グリムの手稿」から推測できるように、名探偵役を務めるのが、あのグリム兄弟の一番下の弟であるルートヴィッヒだ(もっとも彼は童話作家ではなく、画家だ)。
ふとしたことで知り合いになったグリムとアンデルセンは、海岸で美しい女性が裸で倒れているのを助ける。なんと彼女はアンデルセンの書いた人魚姫の姉・セレナだという。妹が泡となって消えた原因となった王子が何者かに殺され、その容疑が妹にかかっている。真犯人を見つけなければ、こんどは自分が泡となって消えてしまうというのだ。
妹は人間になるために魔女に声を差し出したが、彼女は魔女に心臓を差し出した。心臓を元に戻せるのは、取り出してから1週間以内。真犯人を求めて、彼らは真実を追求していくのだ。最後に判明したのは、意外な犯人。そして驚くような魔女の正体。
最初は、人魚姫などが出てくるのでファンタジー色の強い作品かなと思っていた。しかし、この作品は殺人犯を突き止めるというミステリー仕立てとなっており、北山ミステリーファンにとってはなかなか楽しめる作品だろう。
ところで、表紙イラストに描かれたセレナ。人魚の「姫」ということもあって、なかなかに高ビーな性格なのだが、これが意外と可愛いのである。彼女がどのように描かれているか、こちらの方も読んでみて確認して欲しい。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。