文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:トランクの中に行った双子

2019-02-20 12:10:27 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
トランクの中に行った双子 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・ショーニン・マグワイア、(訳)原島文世

 メインの登場人物はジャクリーン(ジャック)とジリアン(ジル)双子の姉妹。訳者あとがきを読むと、著者の前作「不思議の国の少女たち」の前日譚とも言える作品のようだ。ジャックとジルは、両親の希望通りに育つ。すなわち姉のジャックは、母親の理想の娘として可愛らしく、そして妹のジルは父の望み通り、男の子のように育った。しかしそこには二人の意思はない。二人とも両親のお人形なのだ。

 12歳のある日二人は祖母の残していったトランクを開ける。なんとそこには階段があり、「荒野」という異世界に通じていたのだ。トランクを開けると、そこに階段があるという理由はよく分からないが、なろう系でおなじみの、一種の異世界転移ものに分類されるのだろうか?

 なろう系のものでは、たいてい神様が出てきて、主人公にチート能力を与えるが、この作品では、そんなことはない。ただ姉妹は階段を降りて、別の世界に踏み込むのである。これはおそらく日本には八百万の神々が存在しているので、中にはチートな能力をくれる神もいるかもしれないということだろう。この辺りが、なんだかキリスト教のような一神教の世界との違いが表れているような気がして、極めて興味深い。

 興味深いのは、異世界において、ジャックとジルがこれまで自分が余儀なくされてきた役割とは真反対のものを選んだのだろう。ジャックはマッドサイエンティストの弟子、ジルはその世界の領主であるバンパイアの娘として。そして意外な結末。

 それまで本当の自分を抑圧されていたことにより、二人はそれまでとはまったく違う自分になることを選択したのだろう。それこそが本来の自分。この物語は「抑圧からの解放」が一つのテーマになっているように思える。

 この作品にはまだまだ続巻があるようだ。異世界ファンタジーものが好きな人に勧めたい。

☆☆☆
コメント
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