この話も、半七老人が岡っ引き時代の話を、私に語るという形式のものだ。最初にそんな場面はなかったので、この話は違うのかなと思って読んでいると、最後に、その場面が出てくる。半七捕物帳には色々なパターンがあるが、典型的なのは、最初と最後に、半七老人が私に語っている場面が出てくるがいくつか例外もある。この話はその例外のひとつだろう。
さて、の方だが、田町に住む鋳掛屋庄五郎が川崎の厄除大師へ参詣するのだが、同行者は、鋳掛職の平七と、建具屋の藤次郎。タイトルの「3つの声」とは、庄五郎の家人が、この3人が〇〇はどうしたかと言う声を聞いたというもの。3人は大木戸のところで待ち合わせをしていたが、誰も他の者が来なかったらしい。
ところが、夕方になって、鋳掛屋庄五郎の死体が芝浦の沖に浮きあがったのだ。果たして犯人は誰か?
ところで、こういったものには、話を盛り上げる役として、迷探偵が出てくるのが普通だ。この話にも、高輪の伊豆屋弥平の子分で妻吉という迷探偵が出てくる。どれだけ迷探偵かというと、誤認逮捕で、無実の人間をふん縛るくらいだ。江戸時代は、いくら誤認逮捕しても、特に問題はなかったのだろうか? もっとも、史実によれば、岡っ引きにさえ逮捕権はなかったということだから、ましてや下っ引きが、勝手に人をふん縛れるわけはない。
このように真面目に見れば、ツッコミどころは多いが、それでもちょっとした伏線が話の中に潜んでいるのでこれを見つけるのも面白いと思う。
☆☆☆